二つ巴高速機動戦(2)
「これはなんということでしょう! リングはトラックではありません! 少年少女は青春の高ぶりを駆け抜けることでぶつけているのでしょうか?」
稀に見る戦闘状態をリングアナが茶化しにくる。
作戦展開上、網を張るように並ぶことはある。試合相手を想定位置へ追い込むために意図的に列をなすことも。しかし、リング外周を形成する障害物エリアをグルグルと回るように戦闘しながら走る戦い方は異様だった。
「どう呼べばいいのでしょうか? 二つの集団が互いを追いかけるかのような状態! 二つ巴の高速機動戦を展開しております!」
フラワーダンスが準決勝のギャザリングフォース戦で使用した戦術を「高速機動戦」と呼んだのをフレディは憶えていたらしい。分かれた二つのマッチアップが混じり合わないよう追いつ追われつする状況を二つ巴に例えた。
「終わりの見えない渦巻きがわたくしの目には映っております! 彼らは銀河を模倣するつもりなのでしょうか?」
(そんなんじゃないのにゃ。流れでこうなっちゃっただけなのにー)
ユーリィも本意ではない。だから二進も三進もいかない状態を打破しようとした。強引に進路を塞いだ自分がレギ・ソウルを止めることで。
「んにー!」
右手のブレードを大上段から振りおろす。避けるなら足を止めなくてはならない。受ければ自然と止まる。足りないなら左も放つつもりだった。
「囲まれるわけにはいかないな」
「ふにゃ!?」
グレオヌスが執ったのは別の手段。落ちてくる斬撃をブレードで受け流し、スピードの殺しきれていないユーリィのホライズンの足を引っ掛けた。
「ふぎゃ!」
「じゃあね」
置き去りにされる。彼自身もサリエリの狙撃を避けつつウルジーがどこで仕掛けてくるかわからない状況。彼女一人にかまっていられないと判断したらしい。
(捨てられたのに)
追いかけなければならない。しかし、あまりに速いペースで周回を始めているので、一度転倒すると追いつくのは至難の技だった。それどころか、逆に追いつかれる立場に。
「お前か、リィ!」
「んみゃー!」
立ちあがった彼女に拳を構えたヴァン・ブレイズが疾走してくる。メンバーとの位置取りを調整する暇もない。
反射的に放った横薙ぎをミュッセルは拳で迎撃。力場同士が干渉して凄まじい紫電が飛び散る。連続する拳撃を双剣で打ち払う。密かにしていた訓練でそれができるくらいに身に付いていた。ただし、後ろ向きに走りながらである。
「ヤッバい、リィ! オートムーブ!」
ビビアンの声が飛んできた。
「スティープル配置送る。ホライズンにロード!」
「エナ、ナイスフォロー!」
意識スイッチでホライズンに自動回避機動を行わせる。エナミが送ってきた配置データがホライズンにロードされて、背後から迫る障害物を機体が自動で避けてくれた。
「リィもナイス足留め! ミン、今のうちに!」
「ラジャ!」
ターゲットが変わったのでレイミンに余裕が生まれたようだ。相対位置の調整が始まる。さらにはビビアンも追いついてきた。
「勢い任せのマッチアップなぁー!」
「くそ。ビビも来やがったか」
「挟み撃ちぃー!」
「まあ、いい。グレイが一つくらい落としてくれんだろ」
ヴァン・ブレイズの走る勢いが弱まって再び分断状態になる。グレオヌスにはウルジーとサリエリ、ミュッセルには彼女とビビアン、レイミンで再マッチアップした格好。
「その前にあんたが落ちなさいよ!」
「堪っかよ」
「黙らせてやるのにー!」
ビビアンとコンビネーションできるのに気を良くしたユーリィはバックする足を緩めた。
◇ ◇ ◇
(リィが脱落した)
サリエリは考える。
(あっちはビビとミンがいる。心配ない。問題はこっち)
白兵戦をするのがウルジー一人では厳しいだろう。彼女の援護は不可欠。しかし、地面に引きずり降ろされたままは上手くない。
「エナ、スティープルは?」
「コンプリート。送る」
「じゃ、上に戻る。ミュウも足が緩んだみたいだし」
一時は追い抜かれていたレイミンも戻っていった。つまりは向こうでマッチアップ体制を構築しつつあるということ。それならば満足な援護ができる可能性が高い。
(わたしの誘導次第でウルも動きやすくなる。上手くやれば狙撃が決まるかも)
障害物配置が彼女のホライズンにロードされた。ジャンプして乗り移っていく目標もある程度は自動選定される。彼女の癖も含め、そういうふうに自機を教育してあるから。
「ウル、仕掛けるから狙って」
「うい」
すぐに意図を読んでくれる。
ウルジーの黒ストライプを施されたホライズンが軽快なステップを踏んでスティープルを縫う。追いながら14mもあるブレードを狭い空間で振りつづけるレギ・ソウルも半端ではない。ただし、ここには彼女もマッチングしている。
「右方向、左回り」
「承り」
ウルジーが絶妙にスティープルを間に挟みつつグレオヌスを誘導する。テンポよく繰りだされるスティックを狼頭も無視できない。油断をすれば突かれたり足を掛けられたりと崩される可能性がある。そうなれば狙撃の的だと自覚しているだろう。
(そのプレッシャーにどこまで耐えられる?)
サリエリは意識してグレオヌスが選ぶだろう進路にビームを置きにいった。
次回『二つ巴高速機動戦(3)』 「こっちが勝負?」




