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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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二つ巴高速機動戦(1)

 ヴァン・ブレイズのかざした拳にはナックルガード。そこに青白い力場の薄膜が掛かっている。見るからにブレードスキンと同じもの。


「なんてものを!」

 ビビアンは驚愕で叫ぶ。

「言ってみりゃ『ブレードナックル』ってとこか」

「ビーム殴ろうとか、あんた馬鹿?」

「うっせ」


 手首のプロテクタだと思っていたパーツが回転して拳を覆う。そこにブレード力場をまとわせれば拳でもビームを打ち落とせる。だが、そんな考え方は常人にも彼女にもなかった。


「あー!」

 耳にキーンと来る。

「なに、エナ?」

「私、これ見てた。忘れるなってこれのこと?」

「忘れるなって?」

 チーム回線の会話なのでミュッセルには聞こえていない。

「エナが言ってるだろ。見せたかんな」

「ほんと?」

「ほんとほんと! ミュウってば拳でグレイの連撃全部打ち返してた。それどころか絶風(ぜっぷう)なんて使わせたらどんな集中砲火をしても間に合わない」


 チーム回線とオープン回線が交差するがビビアンも理解する。ミュッセルはこの機能のヒントをエナミにだけは見せていたのだ。絶妙に気づかないラインで。


(マッズ!)

 背筋を震えが走る。

(こんなん使われたらマッチアップが悪いじゃないの)


「いいのか? 呑気にしててよ」

 ヴァン・ブレイズがレイミン機に向けてダッシュ。

「やめ!」

「るかよ!」

「ミン、逃げ!」

「ひゃ!!」


 ビームの三連射もものともせず拳で打ち砕かれる。当然反動による減速もない。彼我の距離などないに等しい。


「全速退避ぃー!」

「待ちやがれ」

「待てって言われて止まるかー!」


 ビビアンは泡を食って追尾する。レイミンを孤立させるわけにはいかない。高速機動戦もできるようになったとはいえ、彼女ではまだミュッセルとタイマン張れるほどではない。


「この! 少しくらい!」

「甘え。間抜け」

「こんちくしょー!」


 全速で走りながら背後からビームを浴びせる。ホライズン特有の走行安定性でほぼ照準の狂わない狙撃だ。それなのにヴァン・ブレイズは裏拳一つで弾き飛ばしてしまう。わずかに足を緩めることもできない。


「最悪ぅー!」

「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」


 ビビアンはコクピット内の戦況マップで危険な状況になりつつあるのに気づいていた。


   ◇      ◇      ◇


「にゃんだか混乱してるのに」

 ユーリィはチーム回線が混沌としてきて戸惑う。


 マッチアップ処理をすれば無線優先度は変わる。感度が変化するわけではない。近くにいる僚機からの通信はボリューム大きめで遠いほど小さくなる。コンビネーションを取る近くの味方との会話を優先する処理設定だった。


「サリ、そこ、駄目!」

 エナミのナビが来ている。

「ぷぎゃー!」

「見えてるよね? ミュウに尻尾齧られる」

「リィとウルも一回外して!」


(尻尾齧られる? それはとっても痛いのにー)

 ピンとこない。


 普段言いなりであまり見ない戦況マップに視線を送る。グレオヌスほどの強者と対峙していれば極めて危険だがそれどころではないようだ。


「んにゃー! ミュウが来たのにゃー!」

「リィ、逃げよ」

 珍しくウルジーの声に焦燥が混じっている。

「逃げるのかい? せっかくいい勝負してたのにさ」

「グレイ、あんた、この状況をー!」

「もちろん予想してた。僕はヴァン・ブレイズのブレードナックルを知ってたんだよ? 砲撃手(ガンナー)があっちに集中すればなにが起こるかも必然だな」

「人が悪いのにー!」


 サリエリが責めているが、彼女こそそれどころではない。すでにレイミンに追い越されつつある。その後ろにはミュッセルがいる。障害物(スティープル)に貼り付いているどころではない。


「避け!」

「わお」

「んにゃっ!」


 着地したサリエリの狙撃は同士討ち(フレンドリファイア)の危険が高くなる。しかし、二人が退避をするには援護が不可欠。やむなく撃ってきている。

 ユーリィは目まぐるしくモニタ内を移動するサリエリの射撃線を避けつつ、レギ・ソウルとの位置関係を気にしつつ全力疾走しなければならなかった。


「頭、追いつかないのに!」

「頑張れ。相対位置はぼくがなんとかする」

「ウルぅ、頼むのにゃ」


 まるで障害物競走である。視界を埋める三種の尖塔型障害物(スティープル)を右に左に避けながら、グレオヌスからの攻撃も意識しつつ走る。


「いつまで続けるのに?」

「相対距離取れるまで」

「取れるのにゃ?」

「たぶん無理」


 ヴァン・ブレイズが追いかけてきている。すでに隙間に赤い機影がちらつくようになっていた。それでいて灰色の機影も並走している。


「なんなのにゃ、これ?」

「追いかけっこ?」


 ウルジーが器用に合間を使ってスティックの突きを挟むお陰でレギ・ソウルも間合いを取っている。少し距離を取ってサリエリも走っており、グレオヌスを牽制してくれている。それでようやく成立していた。


「終わりが見えにゃいのに」

「同意」


 親友の淡白な答えには切迫感はない。しかし、このままでは埒が明かない。今一番手空きなのは彼女だった。


「ふんにー!」

 もう一段加速する。

「これだとぉ!」

「っと、すごいな」

「弾きだしてやるのにゃー!」


 ユーリィはレギ・ソウルの進路に飛びだすと双剣を思いっきり振りかざした。

次回『二つ巴高速機動戦(2)』 「終わりの見えない渦巻きがわたくしの目には映っております!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 急にコミカルに?
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