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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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桜華杯決勝(5)

「『天使』対『天使の仮面を持つ悪魔』の戦いは天使に分があるかぁー!」

「黙りやがれ! まだ序の口だ!」


 フレディがヘーゲルのエンブレムをもじって揶揄してくる。忙しいながらもツッコミは欠かせないミュッセル。


(とはいえ押されてんな。しかしよ)

 感触がおかしい。

(緩い。いや、緩くはないが足りない。なんだ?)


 弾幕は厚い。が、全く隙がないわけでもない。どこか抜け道があるように思える。


(抜けた分は? そこか!)

 瞬時に加速して視界に収める。

(しまった、騙し。だとすればグレイがヤベえか?)


 彼が見たのは、障害物(スティープル)を足場にして三角飛びの要領でジャンプして狙撃してくるビビアン機。それで高さを作っていた。

 逆サイドからの狙撃にも時々角度が付けられている。おそらくレイミンも同じことをしているのだろう。


「器用なことしてんじゃねえか。そこまでしてサリがいねえのを誤魔化したかったのかよ?」

「一瞬だけ目眩まし掛けられればってだけ。もう仕掛けたからここまでよ」

「確かに喰らってんな。躱したがよ。狼の勘を馬鹿にするもんじゃねえ」


 リンクでレギ・ソウルの状態がわかる。ミュッセルと違って接近戦で詰められて狙撃で落としにいっていた。しかし、相棒はしのいでいる。


「まったく化け物よねえ、あんたたちって。普通なら確実に1ダウン取れる作戦なのに」

「搦め手で落とせると思ったら大間違いだぜ? 追い詰めてやる」

「わかってる!」


 一転して真正面から突っ掛かってくる。彼の台詞の裏を読んだのだ。接近戦抜きで抑え込めるわけがないと。


「そいつだ、ビビ」

「勝たないといけないならぁ!」


 二人の距離が近づくのは一瞬のこと。両者の踏み込み足が交差して地を叩く。踏鳴(ふみなり)が同時に響き、突きだした拳と筒先も交錯した。


「喰らいやがれ!」

「当たんなさいよ!」


 砲口は掌底で弾きあげてビームは外れるも、彼の右拳もホライズンの左手に収まって止められている。慣性は殺しきれずに、頭突きまでも交わす格好になった。


「ごっ!」

「うぎ!」

 衝撃がコクピットを揺らす。

「お前、強化しやがったな?」

「軽くした分だけよ」

「人のお株を奪うんじゃねえ!」


 見た目は変わっていないのにヴァン・ブレイズの頭突きで損傷していない。額部分のセンサーガードはもちろん、頸部フレームも強化されていると思っていい。


(地味にカスタマイズしやがって。あの姉ちゃんも抜け目ねえな)


 ラヴィアーナ主任の仕業だ。マッスルスリングで駆動系を強化するだけでなく、ヴァン・ブレイズ対策として細かなところまで手を入れている。


「ずいぶんと手札隠し持ってやがんじゃねえか?」

「そんなんであんたたちが落ちてくれるならお安いもの!」


 新たな戦法から機体の強化まで。エンジニアから選手まで一体となってツインブレイカーズに勝ちに来ている。歯車の噛み合ったチームは手強い。


「いいぜ。もっと俺を楽しませろ」

「楽しんだまま逝かせてあげる」

「言ってんじゃねえー!」


 旋回しながらの肘打ちが空気を鳴かせる。しかし貫いたのは寸前まで白いボディがあった空間のみ。わずかにかすめた一撃がビームコートを削って舞わせる。

 背中を取ったビビアン機が平手を伸ばして崩しに来る。体勢自体は低く、すぐに動かせるものではなかったが、突き飛ばしただけで揺るがない安定感がある。結果、ホライズンは手を置きながらビームランチャーを向けたのみ。


「うげ!」

「ぬるいぞ、こらぁ!」


 飛ばした肘でグリップエンドを叩いて砲口を弾く。砲撃をあきらめたホライズンに反転して左の掌底を突きだした。彼女は「んあ!」と吠えて力任せにランチャーグリップを落としてくる。

 打ち落とすに任せ、右腕をバックスイング。並行三連カメラアイに睨まれたビビアンは「うひ!」と小さな悲鳴。だが機体は反応しており、正拳はかしげた頭の真横を通り抜けた。


「よく躱した」

「心臓縮んだわよ!」


 前のめりのヴァン・ブレイズの脚を刈りにくる。ミュッセルは踏み足を下げてすかした。踵を回して蹴り足を捉えにいく。しかしステップを踏んで躱された。

 足技の応酬をしている隙に戦気眼(せんきがん)に金線が走る。レイミンにはかなりの時間を与えてしまった。ベストな位置取りをしているだろう。


「巧みな攻防の数々! それ以上にぶつけ合うオープン回線での言葉の応酬が観客までもを楽しませてくれます! 実況が軽めにできて楽です!」

「だから仕事しろっつーの!」

「はい、出番がありそうです!」

「んじゃ、面白いもん見せてやる」


 カメラドローンで視界が補完されて、最も好条件の実況席からリングアナは位置取りを読んでいる。思わせぶりな台詞はその所為。被せたのも理解のうえ。


「ふ!」


 走る光条に振り向く。寸分違わず叩きつけた。ただし前腕の甲のブレードスキンではない。


「なぁ!」

「そんなのありぃー!?」


 拳がビームを打ち抜く。エネルギーと質量の相互作用だというのに、その場で拡散していた。


「面白え芸だろ?」

「あんたはー!」


 ミュッセルのかざした拳にビビアンは目を剥いていた。

次回『二つ巴高速機動戦(1)』 「エナが言ってるだろ。見せたかんな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 ……楽しそうだなぁ?
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