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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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桜華杯決勝(1)

 チーム『テンパリングスター』のメンバーは試合もない休日だというのに集まっている。クロスファイト、チームカテゴリ四天王の一角とされる彼らでさえ、なにかが起こると思っている日であった。


(ツインブレイカーズとフラワーダンス。いったいどんな試合をする?)

 リーダーのレングレン・ソクラもいつものように気軽に構えていられない。


 イオンスリーブが発表されたとき、それはゲームチェンジャー足るを予想された。事実、運営企業のレッチモン社は早々に発注を掛けて現在『フィックノス』への搭載作業をしている最中。どこの大手アームドスキンメーカーも似た状態。

 それなのにテンパリングスターをも破ったイオンスリーブ搭載機所属チームをことごとく撃破して決勝に進出したチームがこの二つ。しかも、両チームとも秘密裏に生まれていたマッスルスリングという新型人工筋肉を内包した駆動機を搭載しているという。


(なにか起こらないわけがない。もしかしたら、クロスファイトの今後をガラッと変えてしまうような試合になる気がしてならない)

 怖ろしいような、胸踊るような、なんとも形容しがたい気持ちに支配されていた。


「天使の仮面を持つ悪魔、あの異端児めはどれだけリングを引っ掻きまわせば気が済むと言うんだ」

 ワイズ・オークネーが忌々しげにつぶやく。

「でもね、あの子が時代の寵児とも思える傑出した才能を持つのは本当。会見観てれば彼がマッスルスリングの開発者なのは認めるでしょう?」

「そうだけどな、フェチネ。決勝の内容次第じゃ今組み込んでるイオンスリーブだって意味をなさなくなるかもしれないんだ。居ても立ってもいられないじゃないか」

「蓋を開いてみないとわからないビックリ箱。そのくらいのつもりで観てるしかないじゃない。それこそ、わたしたちには全く別の画期的な駆動機を発明する能力なんてないんだもの」


 レングレンと同じ剣士(フェンサー)のフェチネ・シュミルは泰然としている。内心はともかく、結果を見なければわからないという感想は彼と同じなのだろう。


「攻略法はなくもないはず。我らはそうやって強くなってきたのだ。純粋なパイロットスキルだけで登りつめるなど不可能」

 一番年配のゼド・ビバインも静観する姿勢。

「ですが、なにかきっかけくらい掴みたいものですね。そうでないと次のメジャー、炎星杯トーナメントどころか次のシーズンまで引っ張りかねません」

「スカウトが掴んでくると期待しよう、シュバル」

「僕はスカウトルームにもぐり込みたい気分でしたよ、ゼド」

 シュバル・ボッカは心配性だ。


 彼らがスカウトルームに入ろうと思えば面倒な手続きと相当量の誓約が必要となる。各チームのコマンダーもいる場所はやはり制限が課されてしまう。


(2トップ3バックという安定した構成の我がチームでさえこんな有り様なんだ。他は大わらわだろうな)

 予想に難くない。


「ね、ゼド? マッスルスリングが機動力を高めるのはわかってる。実際、フラワーダンスは二刀流(デュアルウエポン)どころか全員がショートレンジシューターの動きをしてみせたわ」

 フェチネが問い掛ける。

「なにが言いたい?」

「ギャザリングフォースもしっかりショートレンジシューターを準備してきたじゃない。つまり、イオンスリーブを搭載すればフィックノスだって同じことができる。砲撃手(ガンナー)のまとめ役としてどうお考え?」

「本番までにショートも使えるようになれって言いたいのか? そりゃ無理な相談だ。あんなの一朝一夕にできるものか」

 相当な訓練期間が必要だという。

「ショートまではいかなくても、狙点移動はかなり高速化できない?」

「そっちか。可能だと思う。慣らしに時間が欲しいがね」

「だったら戦略練り直す余地も出てこない?」


 レングレンも彼女の言わんとしているところを理解する。彼らも変わらねば先がないということ。それこそ、時流に乗った若いパイロットと入れ替えられてもおかしくはない。


「なるほどな。敵としての彼らを分析すると同時に、取り入れられるものも探せということか」

 これから始まる決勝は今後のテキストになるかもしれない。

「おわかり、レン? 広い視野で観ておかないときっと後悔する。メンバー入れ替えで息が合うまで低迷したりするのは御免よ」

「自分だけ残る気になるな。俺たちだってやってみせるさ。な、ワイズ、シュバル?」

「ああ、確かにな」


 変革の予感はメンバー誰もがひしひしと感じている。差し迫った意識がなくては乗り遅れてしまうだろう。


「しっかし、リングがただの殴り合いをする野蛮な場所になるのはどうかと思うけどな」

 ゼドは一番パイロット経験が長いだけ保守的な一面を持つ。

「スマートではいられないってわけじゃないさ。新しい波に乗りつつ我らなりのスマートさを見極めていこうじゃないか。それがテンパリングスターのスタイルだろう?」

「ですよね? 僕はリーダーに賛同します」

「わたしだってそうよ」


(独自のスタイルを開発していかなければ生き残れない。それを皆が自覚できているのは私にとっても好材料だね)


 しかし、試合後にそのままの考えではいられないと思い知らされるとはレングレンにも予想できなかった。

次回『桜華杯決勝(2)』 「それでは本日のメインゲームとなります!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 遂に約束が果たされる時!
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