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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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友情と恋情(4)

「後悔してない」

 ビビアンははっきりと告げた。

「ずっと胸に留めていたものなんだもん。このときを逃すなんて考えられない」

「だったらいい。それがビビのタイミング。抜け駆けとか思わないで」

「じゃあ……、エナの気持ちは?」


 聞くのが怖い。でも、聞かないと悔いが残る。ズルくないと言われても、抜け駆けじゃないと許されても、それでエナミが身を引けばいいなどと思えない。


「先に謝っておくね」

 ドキリとする。

「安心して。昨日は会ってたけどなにも言ってない」

「えっと……」

「それにまだ決まってない。勝つつもりだけど絶対の保証なんてできない。むしろ分が悪いと思ってる。それなのに私まで告白したら、それこそ抜け駆けでしょ?」


 アクションはしていない。だが、心境の変化は見て取れる。星間銀河圏屈指のVIPの家族だとはいえエナミは普通の女子だ。それはこの一年足らずの親交でわかっている。すでに心の中で決着がついているのだと覚った。


「全部終わったら私も告白する。それは許して」

 声に決意が込められている。

「終わったらって」

「どんな結果になっていてもって意味。もしも、ミュウがビビとの約束を守って付き合うことになっていても。だから謝っておくの」

「でも、あいつ、たぶん約束は破らない」

 気の迷いなどとは言いださないタイプの男子である。

「うん、そうだと思う。考えなしの返事じゃなかった。勝つつもりだと思うけど、負けたらそれでもいいって思ったんじゃないかな。ビビの意気を買うって意味で」

「確かに」

「それこそ、結婚の約束をしてって言えば断ってたと思う」


 極論っぽいがそれも本当。ミュッセルの恋愛感覚は幼児以上思春期未満という感じがする。


「交際なんてしてみないとわからないって思ってるかな、あいつ。結婚しろって言えばよかった」

 ようやく涙も収まってきている。

「面白かったかも。たぶん、困ってキレるんじゃない?」

「うん。っぽい」

「仕方ないから、私たちが大人になろう? 女の子の気持ちを振りまわすんじゃないって教えてあげないと」

 エナミの笑い方には色気のようなものが混じっていた。

「強気ー」

「それくらいじゃないと理解してくれないよ? ビビはそっちの覚悟も決めておいたほうがよくない?」

「はう!」


 顔が熱くなるのを抑えきれない。色々といけない想像をしてしまった。エナミが妙に大人びて見えたからだろうか。


「女の子は色んな勝負をしてるんだものね? リングの中だけが勝負じゃない」

 この頃になると、二人とも笑ってしまっている。

「うんうん、男子が好きな勝負だけが勝負なんじゃないって言ってやらなきゃ」

「そのためには?」

「全力でいく! そして勝つ!」

 抱き合ったまま大笑いする。

「力を貸して、エナ」

「もちろん。勝ちたいのはビビだけじゃないのよ?」

「うん、女子の勝負強さを見せつけてやるんだから」


 手を合わせて天に掲げる。青い空に誓いを懸けるように。勝利の凱歌を本物にするために。


「準備は?」

 昨夜のことだろう。

「進んでる。でも、確認しておいて」

「おかしなマスメディアもお祖母様が除けてくれてるはず。仕上げていかないと」

「あーあ。ギャザリングフォースに手札切らされてなかったら、もっとミュウのド肝を抜いてやれたのに」

 全員機動戦はすでに見せてしまった。

「勝ち残るのが大事だったの。それに、たぶんミュウやグレイなら想定はしていたと思う」

「かも。それを上まわるスピードで仕掛けてくる、きっと」

「みんなが全力で、そしてベストパフォーマンスを発揮できたときフラワーダンスは勝てる。桜華のカップを手にできる」


 指を組み合わせると同時に心も同じくする。今は目標に向かって突き進むのみ。


「場外の勝負はそれから」

「うん、それから」


 ビビアンは週末に向けて集中力を高められると確信した。


   ◇      ◇      ◇


「いよいよね」

 通信相手が言ってくる。

「おう。見てろよ、どっちが強いかきっちり教えてやっからよ」

「いいのー? そんな高括ってて。女の子はいざとなったら強いのよ?」

「余計に面白えじゃん」

 ミュッセルは楽しみで仕方がない。

「ビビちゃんたちとミュウとの試合かぁ。しかもメジャートーナメントの決勝。ほんとは生で見たかったのになー」

「忙しくしてんだろ、デュカ? いいことじゃねえか」

「わりと飛びまわってる。新曲出したばっかりだし」


 デュカ・シーコットの顔つきは二ヶ月前とは違う。メイクの違いもあるのだろうが彼にはそこまでわからない。ただ、自信がそうさせているのではないかとも思う。


「あれか。アップテンポの曲だから一般ウケもいいんじゃねえか?」

「わかんの?」

「と、グレイが言ってた」

 見抜かれている。

「ツインブレイカーズの登場曲に使わせてあげてもいい」

「そのへんの目立ちたがりと一緒にすんな。考えとく」

「しっかり使用料はもらうんだからね」

 しかめっ面をしてみせると爆笑している。

「フラワーダンスに持ち掛けろ。ヘーゲルのほうが払いはいいぞ」

「ブブー。もう、CMテーマソングの話来てる。AI作曲案から選定依頼中」

「手が早えな」


 一瞬で売れっ子の仲間入りだ。大手のプレゼンテーションは怖ろしい。


「時間取れたらまた遊びに来い。メシくらい食わせてやる」

「もう、飢えてない……、じゃなくって、あのときもご飯たかりに行ったんじゃないっての!」


 メルケーシン以外にいるファンにミュッセルは試合予定時間を教えておいた。

次回『桜華杯決勝(1)』 「ですが、なにかきっかけくらい掴みたいものですね」

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