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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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友情と恋情(2)

 少しだけ実機シミュレーションをさせてもらったエナミの弟クリオ。次はサイドシートに座り直して固定してもらう。パイロットシートには無論ミュッセルが座った。


(大丈夫かしら?)

 結構揺れることになるので反対側のサイドシートのエナミは心配だ。


 実機を動かさないコクピットだけのシミュレーションであるが、シートを懸架している緩衝アームの可動によって擬似的な慣性力()が再現される。完全には程遠いが機動時の加速感や衝突時の衝撃を疑似体験できるのだ。


「結構振りまわされっから気つけろ」

「はい!」

 瞳を輝かせている。


 自動合成されて動く仮想敵はゼムロンだった。フィールドもリング内に設定されて障害物(スティープル)の林の中に放りだされる。開始の表示とともに敵機が動きはじめた。

 対してミュッセルも操縦を開始し、仮想の走るヴァン・ブレイズの振る腕がモニタにも映るようになる。機体が傾斜してスティープルを迂回しつつゼムロンの前へ。閃くブレードを回避して拳が顔面に突き刺さった。


「うわあ!」


 前後左右に揺れていたシートが拳撃の反動をも再現する。その様子にクリオは感動している。


「こんなにリアルなんだ」

「本当はもっとすごいんだけど、体験するのはお勧めしない」

「なんでー?」


 家族で行ったアトラクションルームくらいの感覚なのだろうが、実際の戦闘をするアームドスキンのコクピットにいたらしゃべるのもままならない。ミュッセルやグレオヌス、フラワーダンスメンバーが戦闘中にも話しているのが信じられない。


(たぶん慣れなんだけど、よくぞって思う。通信応答も簡略化してるの、きっとワードを最低限にするためだと思うけど)

 忙しい最中の所為もあろうが。


「腕くらいしか見えてないのに動かせるのすごい」

「お前さ、ゲームに慣れすぎなんだよ」


 ほんの一分ほどのシミュレーションを終えると興奮した弟は憧れの男に感想を言う。のんびりしたクリオらしくない早口だ。


「自分が運動してるとき全身見えてっか? そんなことねえだろ。操縦も感覚的なもんだ。見えないところがどんくらい動いてっかもσ(シグマ)・ルーンでフィードバックされてっからな」

「あ、そっか」

「一応姿勢はコンソールパネルにも出てるが、ほとんど見ねえ」


 こうやって体験すると、彼らはつくづく特殊なことをしているのだと思う。建設作業用人型機械とは違って一つひとつの動作を確認しながらできるわけではないのだ。


「よし、お遊びは終わりだ」

「面白かった。ありがとう、ミュウ兄ぃ」


 弟は平気なようだった。短時間だったからかもしれないが、将来アームドスキンパイロットになりたいとか言いだしたらどうしようかと思う。


(まあ、本当にクリオのお兄さんになってくれるのはやぶさかではないんだけど)

 思考が少し飛躍する。

(勝とうと負けようと週末の決勝で決まる。結論はミュウが出すから私は……)


 そこまで考えて、自分がなにもしていないのに気づいた。ビビアンは意を決めて告白したのだ。アクションしてない自分に幸運が転がり込んでくるわけがない。


(結論が出たら勇気を出そう。二人が付き合いだしても自分の気持ちだけは告げてもいいと思う)

 そのくらい吹っ切れていた。


 下に降りて再びテーブルへ。お茶の続きをいただいていると、グレオヌスが大剣サイズのウレタンスティックを持ちだしてくる。


「練習するの?」

 ミュッセルも休憩する気はない様子。

「おう、ビビたちも訓練中だろ? 俺も仕上げていかねえとな」

「まあ、見学しててよ。そんな派手にはやらないからさ」

「そんなん一言も言ってねえ」


 赤毛の少年の口元には不敵な笑いがのぼっている。それを見た狼頭は肩をすくめてウレタンスティックを構えた。


「頑張ってー!」

「あ、うん、怪我しないようにね」


 グレオヌスの左拳が前に突きだされていく。剣先をミュッセルに向けたまま右手は背中側に。姿勢は低く沈んでいった。

 対する赤毛も同じか、もっと低く構えている。ゆったりと握られた両の拳が今にも放たれそうだ。その状態で静止する。


「はっ!」

「ふっ!」

 気合いの声と同時に両者が動いた。


 ミュッセルの牽制の左ジャブを狼頭の左が弾く。微動だにしなかった剣先がそのまま一直線に肩口を突きにいく。それを右腕が迎撃し上に逸らす。煙が出そうなほどの勢いで腕とウレタンスティックがこすれていた。


「っしゃあ!」


 こすり上げながら小さめの身体がグレオヌスの懐に入っていく。左腕が折りたたまれ、そこに力が弛められていくのがわかった。射程距離に入った瞬間、爆発したように放たれる。


「しっ!」


 狼頭の左足が滑って半身を作る。ミュッセルの左の拳は分厚い腹筋をかすめていっただけ。その間に上段に掲げられていた模擬剣がストンと落ちる。「パン!」と叩いたのは床だった。避けた赤毛が掌底を脇腹に忍び込ませる。


「速っ! 全然見えないよ、姉ぇ」

「最初はそうよね」

 いつの間にか攻防が見えるようになっている自分に驚く。


(これも慣れ? うん、見えないとナビもできないし)

 度重なる訓練で視力が良くなっているかもしれない。


「サービスだぜ」


 視線を彼女に向けてそう言ったミュッセルの言葉の意味がわからずエナミは首をかしげた。

次回『友情と恋情(3)』 「お昼に時間取れる、エナ? 二人で話したい」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 意外(でも無いのかな?)と教師向き?
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