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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
クロスファイト

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紅の挑戦権(2)

「それでは金華杯オープントーナメント準決勝第一試合を開始します!」

 リングアナもテンションを上げていく。

「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 静かな立ち上がりだった。グレオヌスも相手のデロリアスも一足一刀の間合いまでゆっくりと足を擦らせていく。切っ先同士が触れ合い、小さな紫電をまとわせる。


「ここまで来たら立派なものだ。いつギブアップしても誰も君を侮ったりしない」

 デロリアスははさも強者の忠告であるかのように告げてくる。

「僕の剣に下る恥をその身に刻むまでもない。ギブアップしたまえ」

「遠慮します。決勝のリングに立ちたいので」

「強情だね。若さと無謀さは同義ではないんだよ?」


 相手の切っ先が押し下げにきている。彼もクルリと返して同じことをした。軽く上に弾いて横面を叩きにくる。すかしてから絡め、下に流しにいく。途中で引かれ、再び突いてきたところを左へ逸した。お互いに切っ先だけを用いた地味な攻防。小さな紫電だけが舞っている。


(上に来ると言葉でも足を掬おうとしてくるんだね)

 逆に頭ごなしに潰そうとしてくる相手が減る。

(少しでも機体を損傷させるリスクを回避しようとするのは正しい。でも、相手を見切れてないのはちょっといただけない)


「どうしたぁー? なんとも玄人好みの展開だー」

 目の肥えたリングアナが解説。

「これも準決勝の醍醐味といえばそうですが、あまりに地味ぃー! ほぼ、プロ同士の攻防といえるでしょう!」


 上を取りたがっていると読んだグレオヌスは剣先を下げつつ最後の一歩を踏み込む。それは誘いだった。デロリアスは一瞬にして上段に切り替える。


「迂闊だねっ!」

「そうでもありませんよ」


 跳ねる柄頭。斬り落としは逆にブレードを立てたグレオヌスの刃先を滑って落ちる。攻守は切り替わる。上を取った彼の剣は肩口に落ちる。しかしリフレクタを叩いて終わった。


「ここまでは読みどおり」

「そうですか?」

 ブラフを受け流す。


 デロリアスのブレードが返って突きに変化する。胸元に迫ってくる突撃を半身ですかし柄頭を引き込んだ。リフレクタに紫の波紋を引きながら滑った刃が降りたところは敵機の顔の前。そのまま突き出すとバク転をして逃げた。


(あれを躱す? リミテッドというだけあるか)

 自然と口端が上がる。


「さすがというべきか。ライバルと認めよう。まさに好敵!」

「そんなに言われるほど僕はあなたのことを知らないんですけどね?」


(でも剣筋は見切った。勝てる)


 互いに突進する。振り被ったブレード同士が噛み合う。鍔迫り合いになるかと思いきやグレオヌスは柄をねじって右へ流した。


「そんな馬鹿な!」

「あなたの剣は軽いんです」

「おぉーっと、ノぉーックダぁーウンっ!」


 相手のブレードが流れた隙に引いたグレオヌスの切っ先はデロリアス機の腹に突き立っている。肩で押し込まれた相手はそのまま倒れた。


「あり得ない」

「いいえ、僕の勝ちです」

「なんとグレイ選手、決勝進出ぅー! ビギナークラスの進出はもちろん史上初ぅー! 今年の金華杯はなんていうドラマが待っていたかぁー!」


 グレオヌスはアリーナに手を振りながら堂々と(ノース)サイドへとレギ・クロウを歩ませる。モニタにウインドウが開いた。


「お先に」

 真っ赤な髪の美少年に言う。

「そこで待ってろ。すぐ行く」

「ああ」

 画面越しに拳を合わせた。


 駐機姿勢を取らせるとシートに尻を落としてヘルメットを脱いだ。フィットスキンのスライダーを下げて胸元を開ける。吐息とともに汗の匂いが上がってきた。


(思ったより緊張してた。相手がどうこうじゃなく勝ちたいって思いで)

 ようやく落ち着いた。


 逆にリングのほうは騒がしい。ミュッセルとリングアナのいつものやり取りが展開され客の笑いを取っている。コンソールパネルを操作して大きめに投影させる。そこに試合の様子を映した。


「どうした? もっとガンガン来いよ、『逃れられぬ照星(レティクル)』!」

「あんたはどうにかしてんのよ! いっつもいっつも! なんでわたしの射線を読んでくるの!」


 ミュッセルの決勝の相手は砲撃手(ガンナー)タイプ。リミテッドクラスで、チームではスナイパーを張る名手だと聞いた。しかしリングを走る光条は全てヴァリアントのガントレットに吸い込まれている。


「ちょっと可哀想な感じさえするね」

 つい独りごちる。


 重力波(グラビティ)フィンを持つ相手選手のアームドスキンが障害物(スティープル)を縫いながら下がっていく。そこを土を蹴立ててミュッセルが追いかけた。


「はーっはっはっは! おらおら、追いつくぜぇ!」

「ひぃ、殺人鬼ぃ!」

「人聞きの悪ぃこと抜かすんじゃねえ!」


 彼の試合と違ってアリーナは爆笑の渦に包み込まれている。しかし、それも長く続かず終わる。ヴァリアントが隣にやってきた。


「待ったか?」

「そうでもないさ」

「決まったな」

「うん」


 決勝を二人で戦うことになった。嬉しさを包み隠さず互いにニヤニヤしている。


(実力的に当然と思えても嬉しいもんだね)


 グレオヌスはミュッセルと肩を並べてフラワーダンスの辛勝を見守った。

次はエピソード『真紅への挑戦』『決戦前の静けさ(1)』 「おい、学校行くぜ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 誰が二つ名を決めるの?
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