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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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友情と恋情(1)

 翌日、エナミはトラムで登校する。スツールリフトはヘーゲルに置いたままだったからだ。今日中に家に送ってくれるそうである。


(練習も私だけお休みだし)


 昨日の今日なのでフラワーダンスの訓練には不参加。祖母のマスメディア対処が浸透するまではヘーゲルに近づくこともできない。


(役得だけど)


 帰り道もミュッセルのリフトバイクのリアシートに収まっている。公務官(オフィサーズ)学校(スクール)周辺まで押しかける記者は星間(G)保安(S)機構(O)の手で丁重にお帰りいただけるだろうが万が一を期してのこと。


「ごめんね、お邪魔して」

「いいってことよ。もう着いてんじゃね?」


 行き先は彼の自宅ブーゲンベルクリペアである。昨夜、彼女を送ってくれたミュッセルに会ったクリオが不満をぶちまけた。姉ばかりかまってもらってズルいと。弟は彼の大ファンだからだ。

 そんな次第で今日はクリオも学校帰りにブーゲンベルクリペアを訪れることになっている。帰りは自宅まで姉弟でオートキャブを使って帰る予定だった。


(改めて見ると、すごく繊細な運転してる)

 エナミは肩越しに覗き込む。


 ミュッセルが減速しながらゆっくりと両手の操作ハンドルをひねる。併せてわずかに右を押し込み左を引くとリフトバイクの車体が傾き、開いたシャッターの中へスムースに収まった。

 スツールリフトだとこれほど難しい運転はしない。それほどスピードのでない車体は簡略化された操作だけで彼女を運んでくれる。

 

「ただいま帰ったぜ。ほらな」

「もう、厚かましいったら」


 弟はもう到着していた。すでにいつものテーブルに座ってお菓子を出してもらっている。降りてヘルメットを脱ぐと駆け寄ってきた。


「おかえりなさい、姉ぇ」

「おかえりじゃないでしょ? お邪魔してるんだから」

「そうだった」


 完璧に馴染んでしまっている。ミュッセルの母チュニセルに歓待されたのだろう。クリオは同年代の子供とはなかなか打ち解けないのに、大人相手だと絶大なコミュニケーション能力を発揮する。育ちで、少し歪な成長をしてしまっていた。


「ミュウ」

「おう、来たな」


 彼とグレオヌスがリフトバイクのコンソールをタップすると車体は自動で駐車スペースに向かっていく。弟は頃合いを見計らってまとわりつきに行った。


「早く乗せて」

「約束だもんな」

「こら、帰ったばかりなんだから一休みさせてあげなさい」


 昨夜、ヴァン・ブレイズに乗せてもらう約束をしている。乗るといってもパイロットシートに腰掛けるだけ。私有地とはいえライセンス抜きで操縦などできない。


「ちょっと待っとけ。手ぇ洗ってくる」

「うん」

「ついでにフィットスキン着とけよ。言ったとおり用意してきたんだろ?」

「きたー」


 軽く実機シミュレーションも体験させてもらう約束だった。そのために必要な準備をする。


(大丈夫かな?)

 部屋を借りて弟の着替えを手伝いながらエナミも着替える。

(意外とハードなんだけど)


 参考までにと実機シミュレーションは体験しているし、サイドシートでの戦闘機動も経験した。後者は二度とごめんだと思っている。


「お、できたな」

「ええ、ゆっくりでいいから」


 ヘルメットを持たせて戻るとミュッセルとグレオヌスもすでに着替えてマグカップを口にしている。腹ごしらえをしているようだ。

 自身のフィットスキン姿が少し恥ずかしい。ヘーゲルでフラワーダンスロゴの入ったものを準備してもらったばかりでサイズも新調している。前のはきつくなってきていた。新しいのはさらにバストが強調されているような気がしてならない。


(パイロット仕様のものって、すごくパットが入ってるんだもの)


 エナミは不要な気がするのに、メンバーとセットでパイロット仕様を準備されている。現代では学校でも運動服扱いされている着慣れた宇宙服(フィットスキン)なのに妙に意識してしまっていた。


「じゃ、乗ってみっか」

「やった!」


 しばらく談笑したあと真紅のアームドスキンの下へと向かう。整備柱(ピラー)を繋ぐスパンエレベータに乗ってコクピットまで上っていった。


「ちょっと待てよ。サイドシート付けっから」

「ごめんね、お手間さまで」

「軍仕様機は救護活動あっから常設されてるけど、クロスファイト仕様機は規定にねえんだ」


 聞けば、警察機や軍用アームドスキンはパイロットシートの裏に二席分のサイドシートが格納されていて、ワンタッチで展開するらしい。クロスファイト仕様機はその限りでないという。元々他人を乗せるものではないので当然か。


「頼む、グレイ」

「いいさ」


 持ち上げてもらってキャッチに噛ませる。取り付け部は標準仕様なので必ずあるらしい。


「さて、まずは座ってみろ」

「うん」


 クリオは待ちきれないような、それでいて怖ろしいような表情。緊張感が伝わってきた。小柄なミュッセルに合わせたシートでも、十二歳になったばかりの弟には大きすぎた。

 埋まるように腰掛けて、ロックバーまで掛けてもらうがスカスカである。それでも起動してもらって、両脚の間に投影コンソールパネルが立ちあがってくると臨場感があった。


「すごい。こんなんなんだ」

「おう。モニタ見ながらこいつも確認する。忙しいぜ。あとで見せてやる」


(可愛いばかりと思ってたけど男の子なのね)


 鼻息荒い弟にエナミは少し呆れていた。

次回『友情と恋情(2)』 「お前さ、ゲームに慣れすぎなんだよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 男にもモテるタイプかぁw
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