発表会見にて(2)
チーム『フラワーダンス』の選手は専用フィットスキンにパイロットブルゾン。コマンダーのエナミはラヴィアーナと同じ社服で演壇に立っている。驚きの発表に技術系記者の眼差しは釘付けになっていた。
「搭乗した感触は如何でしょうか? 桜華杯トーナメントに入ってからは以前にも増して激しい機動戦を行っていると思いますけど」
ラヴィアーナに当てられた記者が問う。
「ヴィア主任やエンジニアの皆さんのお陰でかなりソフトになっていると思います」
「普通のアームドスキンより快適ですか?」
「もちろん快適とは言いません。お乗りになった経験のある方はわかると思いますけど相当揺れます」
ビビアンは遠慮がちに表現する。
「今の状態で試合時間が一時間に及んでもどうにか耐えられる目安で動かしています。見てのとおりのあたしたち、女性の体力で耐えられると考えてくださればどれほどのものかと」
「なるほど。訓練なさっている選手の体力が一般常識とは少し違うとは思いますが」
「あ、そうですよね。ごめんなさい」
表現しにくいとはラヴィアーナも思う。補足の必要を覚えた。
「マッスルスリングはかなり柔軟な弾性を有しております。従来の駆動機の組み合わせに比べると21%の衝撃軽減、ファーストバージョンからも12%の軽減が計測できています」
資料のページも伝える。
「さらには従来機平均より10%近く重かったファーストホライズンより軽量化されております。ほぼ従来機か、やや軽めの機体重量です」
「軽量化を実現してパワー、乗り心地ともに向上ですか。それは素晴らしい」
「具体的にいえば、使いやすさは段違いです。決勝まで勝ち抜けたのは機体性能に依存する部分も大きかったと思ってくださって結構です」
サリエリがラヴィアーナを補助するように発言する。
「勝因はセカンドバージョンホライズンだと?」
「ちょっと宣伝しすぎですね。もちろん、わたしたちも勝つべく努力しましたし、機体性能に合わせた戦術をコマンダーのエナが駆使してくれた結果です」
「総合力ですか。ありがとうございます」
その後も幾つか質問を受け付け、メンバーが思い思いに発言していく。彼女たちの一生懸命さに会見場の空気は和んでいった。
(ここまではどうにか予定どおり。このあとは、彼も呼ばなくてはいけないから流れを作りたかったのですが成功してます)
ラヴィアーナは内心安堵していた。
「ヘーゲル社がアームドスキン開発を行っているのも驚きでしたが、このような画期的な駆動系までも実現するとは仰天しています。これは今後、御社が軍需産業参入に前向きである証拠だと受け取ってよろしいのでしょうか?」
視野を広げた質問が来る。
「我が社が当部門への投資に前向きなのかと問われればそうです。ただし、発表したマッスルスリングに関しては別に特許権保持者がいます。我が社は要請を受けてライセンス生産に着手したところなのです」
「え、ライセンス生産? 開発者は社外にいらっしゃると? それなりに事情通のつもりですがそんな発明の噂は一片たりとも耳にしていないのですが」
「お越しいただいております。ご紹介いたしましょう」
演壇横のパーテーション内に目をやる。そこには真紅の少年が待機していた。
「ミュッセル・ブーゲンベルク氏がマッスルスリングの発明者です」
「げ、天使の仮面を持つ悪魔!」
ついもらした声が届く。
「おい、どいつだ、俺様に喧嘩売ってきたやつは。買うぞ、こら」
「いえ、とんでもない。でも、ミュウ選手、君が?」
「おう、俺だ。マッスルスリングは本来ヴァン・ブレイズに搭載するために作ったんだぜ? 変な話じゃねえだろ」
会場は静まり返る。
「いや、変だし」
「失礼な奴らだな。まとめて表出やがれ」
「いえいえ、お話聞かせてくださいよ」
手練れの年配記者がとりなす。スポーツ関連の記者だけあって、跳ねっ返りの扱いにも慣れている様子。
「ミュウ選手、お話からすると君個人で開発したように聞こえたんだが事実ですかね?」
程よく砕けた口調で質問する。
「そうだぜ。俺が試合でせっせと稼いだ賞金がアームドスキンとマッスルスリングに食い尽くされてる」
「資金的な話もあるでしょうが技術面では? 君はまだ十六歳になったばかりのはずだがね」
「おう。まあ、色々手伝ってもらったが原案は俺だ。そいつは嘘じぇねえ」
「さて、それは本当なんだかわかりませんよ」
話に割り込む記者がいる。あまり風体が良くなくラヴィアーナも指名を避けようとしていた者だ。まるで獲物を狙うような目つきをしている。
「どういう意味だ?」
ミュッセルが睨みつけるも柳に風と受け流す。
「伺わせていただきたいんですけどね? そちらのコマンダーのエナさん」
「え、私ですか?」
「あなた、エナミ・ネストレルさんですよね? ユナミ・ネストレル本部局長のお孫さんでいらっしゃる」
指摘すると記者たちもさすがに色めき立つ。
「ユナミ局長のご家族がヘーゲル社の会見場にいらっしゃる。これはどういう意味なんでしょう?」
「彼女はフラワーダンスのコマンダーで間違いありませんよ?」
「どうなんでしょうかねぇ? この会見そのものが茶番なんではないかと懸念しているのですよ」
不意打ちの暴露にラヴィアーナは唇を噛んで記者に視線を据えた。
次回『発表会見にて(3)』 「これは炎上案件ですなぁ」




