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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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発表会見にて(1)

 桜華杯の結果はエンターテインメント業界のみならず、アームドスキン建造技術界隈にも波及する。鳴り物入りで登場し、破竹の勢いで四天王まで撃破してきたイオンスリーブ搭載機を擁するチームが全て敗退したのだ。

 技術分野もなにごとかと騒がしくなる。イオン駆動機そのものはすでに検証されていて実力は認められている。それなのに結果を伴わなかったのを不思議に感じたはず。


(ましてや、決してパワー負けもしなかった点がですわね)

 居並ぶ技術系記者やジャーナリストの顔触れを見ればわかる。


 結果が出れば予想できていた状況である。アームドスキン開発部門のラヴィアーナも表舞台に立たざるを得ない。

 ヘーゲル社が広報をすると、またたく間に彼らが集まってきた。場が設えられ、登場する人物に注目が集まる。


「お集まりありがとうございます」

 グローハ・ノーズウッド主幹が先行して挨拶に登壇する。

「本日はヘーゲルより新製品の発表を行いたいと思っております。まずはアームドスキン開発担当責任者であるラヴィアーナ・チキルス主任をご紹介いたしましょう」


 袖から歩みでると小指の先ほどの小型ドローンカメラが一斉に彼女を狙う。記者のウェアラブルカメラもレンズを向けてきた。


「続いては、我らの誇るワークスチーム『フラワーダンス』の選手とコマンダーです」

 呼ばれていたビビアンたち六人が緊張の面持ちで登壇した。

「彼女たちは非常に関連深い立場にあり、ご興味がお有りのことと思い招集しました。のちほど質問の場を設けますが、学生の身分を鑑み、慎みを持った対応をよろしくお願いします」


 緊張するなというのが無理であろうが、ガチガチの彼女らを見ているとラヴィアーナはほぐれてくる。グローハに促されて口を開いた。


「今夜、皆様に紹介いたしたいのはクロスファイトの桜華杯決勝に進出を果たしたフラワーダンスのアームドスキン、ホライズンの改修型に関することです」

 改修型という文言に顕著な反応がある。

「お気づきの方も多いとは思いますが、改修型ホライズンには新型駆動機が搭載されております」

「駆動機? 駆動システムではないのですか?」

「はい、駆動機です」


 すでに発売しているファーストバージョンのホライズンを発展させた、斬新な駆動システムだと勘違いしていたのだろう。技術系記者は目を丸くしている。


「こちらの大型投影パネルに資料をご用意したので御覧ください」

 立ちあがって中央に進みでると指し示す。

「先ほどより当社ネットページからもダウンロード可能となっております。併せてご利用ください」


 会場は俄然慌ただしくなる。ラヴィアーナは一拍置いてから説明を始める旨を伝えた。


「最初に映されたのはテストピースです。この幅5mmの棒状繊維が基本単位となります」

 パネルには薄緑色のピースが映っている。

「名称は『マッスルスリング』。新型の人工筋肉繊維です」


 会場が一瞬で固まった。中には椅子から立ちあがる者までいる。


「本当……ですか?」

 察するだけの知識のある技術系記者だろう。

「事実です。このマッスルスリングはアームドスキンの駆動系に用いるのが可能な人工筋肉となっています。駆動および維持に特殊な溶液を必要としますが、十分な出力が保証されています」

「そんなものが……」

「映像をご覧ください」


 製品画像を映す。試験機器に設置してケーブルを繋いだシリンダパッケージが収縮する様子。続いてはアームドスキンの脚部に組み込まれたシリンダが駆動させる様子までが流れる。「おおお」と低い声が流れた。


「構造はこちらに」


 シリンダ内部の構造を模した3Dモデルが伸縮する映像。トルク駆動機(アクチュエータ)が回転する様子とその内部構造までもが映される。会見場は驚愕に包まれていた。


「構造までも発表なさって大丈夫なのですか?」

 当然の疑問だ。

「すでに司法部特許課に申請を行い受理、登録されておりますので問題ございません」

「もう星間銀河圏レベルですか」

「はい。将来的にはシリンダロッド、トルクドラムとも単体パッケージとして発売する予定があります。ただし、生産が間に合っておりませんので、当面はセカンドバージョンホライズンに搭載した形でのみの発売となります」

 具体的な説明を加える。

「それが本会見の本旨です。ホライズンのファーストバージョンはこれまでどおりの価格で、セカンドバージョンは少々高価な製品となる予定です。お客様のご予算に合わせて検討いただけると幸いです」

「ファーストバージョンだけでも話題をさらったというのに」

「そういった製品ですので、効果のほどを実感していただくために、内密にフラワーダンスのホライズンに搭載して桜華杯に挑んだ次第です」


 通常と異なり、会見場の主導権は完全に壇上にあった。記者たちはなにをどう質問すべきか困惑している様子である。


「では、実際のホライズンに関しましては搭乗するチームメンバーよりお聞き取り願いたいと思います」

 手招きすると、おずおずと少女たちが中央へと出てくる。

「質問をどうぞ」


(たまにはお仕事していただきましょうね。将来のためにもなるでしょうし)

 次々と挙手する記者を眺めながら思う。


 ただし、ラヴィアーナも予期せぬ展開が待ち受けているとは思っていなかった。

次回『発表会見にて(2)』 「おい、どいつだ、俺様に喧嘩売ってきたやつは」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 既に企業系アイドルですね? (本人的にはアスリート?)
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