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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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253/409

唐突な告白劇

 二刀流(デュアルウエポン)はジャンプ間際に足首を回転させていた。ひねりの加わった機体はヘヴィーファングの上を通過する頃には後ろ向き飛行をしている。

 不慣れなウィーゲンは振り返りざまの照準が定まらない。しかし、本家ショートレンジシューターの彼女は見事に照準を定めていた。


「くぅ!」

「あたしの勝ち」


 ヘヴィーファングの放ったビームはホライズンを逸れ、ビビアンの一射は1番機のコクピット位置を完璧に捉えている。貫通力のない低収束ビームはその威力を全て慣性力に変えてウィーゲン機を跳ね飛ばした。


「ああっ、リーダーまでもがノックダウーン! ときを同じくしてヘヴィーファング5番機も落ちたぁー!」


 フラワーダンスの砲撃手(ガンナー)二機に詰められたユーゲルもなす術なく撃墜される。メリルは肩を落とした。


「ギャザリングフォース全滅ぅー! 決勝進出はチーム『フラワーダンス』だぁー! 決勝戦はツインブレイカーズ対フラワーダンスにけってーい!」

 リングアナが声を裏返すほど吠える。


(負けちゃったわね)

 敗北感はあるのに悔しさがない。


「完敗だったわ」

 フラワーダンスが明らかに総合力で上まわっていた。

「申し訳ございません、メリル」

「いいのいいの。皆も全力出してた。わたしも全力だった。誰にも落ち度はないわ。この結果は必然」

「ですが……」

 責任感の強いウィーゲンは理由を探している。

「強いていえば、フラワーダンスのほうが絆が強かったの。全ての局面で全員が勝利のために必要な行動をしていたわ。わたしたちはこれから」

「これから、ですか」

「あ、君たちにはそんな時間はないんだったわね」


 メリルをはじめメンバー全員が軍務課の三年生である。春が終わり、夏が過ぎたら卒業なのだ。かなりの生徒がそのまま(G)(F)星間(G)平和維(P)持軍(F)に入隊する。


「総員、整列!」

 機動停止解除された機体を南側のスタッフルームに向けてくる。

「コマンダー殿の健闘を讃え敬礼!」


 在学中にして身に染み付いている敬礼が綺麗に揃う。フラワーダンスのウイニングウォークに湧いていたアリーナもおもむろに静まり注目した。


「皆、進路を中央(セントラル)公務官(オフィサーズ)大学(カレッジ)に変更できるな?」

 ウィーゲンはとんでもないことを言いだす。

「我らは最後まで女神の指揮下であることを誇りに思い、忠誠を誓います」

「君たち……」

「難しいことではありません。教官たちが望むように、我らは大学の指揮官コースに進むだけであります」

 そんなに簡単な話ではない。

「そんなことしたら、君たちが積める四年間のキャリアを潰してしまうわ」

「かまいません。最終的に、この星間銀河圏の秩序を守るに適した地位を目指すだけであります。それまで、どうかよろしくお願いいたします!」

「……ありがとう」


 星間軍というのは実務主義だ。現場でどれだけ評価を得るかが重要。四年という日々は如何にも大きく捨てさせるには忍びない。だが、彼らはそれを捨て、彼女に従って自身を鍛えるという。


(皆が指揮官コースを取って、部隊長、戦隊長といった実務ポストを最短で経ていくのは軍にとってプラスなのかもしれないけど)

 負い目を感じる。


「わかりました。絶対に後悔させません。ギャザリングフォースは活動を継続します。わたしについてきなさい」

「はっ!」

 オープン回線で告げるとアリーナからも激励の拍手が湧く。


 見事に並ぶ敬礼の列を見るメリルの視界が滲んだ。


   ◇      ◇      ◇


 週が明けてポセの日の公務官(オフィサーズ)学校(スクール)


 登校したミュッセルとグレオヌスを教室で待ちかまえていたのはビビアンだった。仁王立ちの彼女の視線に応じハイタッチを交わす。


「いよいよだな?」

「ええ、いよいよよ」

 週末にはツインブレイカーズと彼女たちフラワーダンスが激突する。

「覚悟はいいんだろうな?」

「もちろん。だから、勝敗を賭けて一つ勝負をしない?」

「ああん?」


 予想だにしていなかったことを言う。しかし、ビビアンの目が真剣そのものだというのを見て取り、ミュッセルは表情を引き締めた。


「なにを賭ける?」

 彼女は意を決めるように息を吸う。

「桜華杯決勝戦、フラワーダンスが勝ったらあんたはあたしと付き合いなさい」

「はぁ? なんに付き合やいいんだ?」

「交際するってこと! 彼氏彼女になるの!」

 あまりに唐突な宣言だった。

「ちょっと待て。お前が俺を?」

「そうよ。変?」

「うーん」


 そんな素振りに記憶がない。思えば、噛みついてくるばかりだったように感じてしまう。


「あたしはあんたに恋してる」

 教室はざわめくも、肯定するように頷いている生徒が半数はいる。

「そうだったのかよ」

「でも、普通にあんたを推してキャーキャー言ってたって振り向いてなんかくれない。だから別の方法を選んだ。絶対あたしに目を奪われるように」

「まさか、それでクロスファイトを?」

 初めてビビアンの動機に触れる。

「そして、あんたは自分に勝った相手なら認めざるを得ない。対等なパートナーに選びたくなる」

「…………」


 極論だが間違ってはいない。なにより、あまりに真剣だ。


「わかった。俺が負けたらな。でもよ、そいつは難しいなんてもんじぇねえぞ?」

「当然よ。だからこその賭け。約束しなさい」

「いいぜ。フラワーダンスが勝ったら俺はお前を選ぶ」


(そんな、やりきったみてえに涙にじませて言われたらよ)

 ビビアンが可愛く感じられる。


 ミュッセルは黙って誓いの手を差しだした。

次はエピソード『念願のリングへ』『発表会見にて(1)』 「本日はヘーゲルより新製品の発表を行いたいと思っております」

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― 新着の感想 ―
[一言] ビビちゃん、ついに……!!
[一言] 更新有難う御座います。 意外でもない(?)告白。
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