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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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コマンダー対決(7)

 露骨に窮地だというのに、メリル・トキシモは悔しさよりも嬉しさのほうが勝っていた。在学中に同格の実力者、ましてや同じスクール生の戦術家と対戦できるとは思ってもいなかったからだ。


(ああ、最高よ、エナ。あなたがいれば、わたしはもっとステージを上げられる)


 彼女はツインブレイカーズ対策にイオンスリーブ搭載型ヘヴィーファングとショートレンジシューターを準備した。ところがフラワーダンスのコマンダーはもっと徹底している。メンバー全員のパイロットスキルの平均化をして如何なる局面にも対処可能へと持っていく戦略家の一面まで見せてくれた。


(ツインブレイカーズにフラワーダンス。時代はわたしをもっと鍛えあげようとしているのね。いったい、なにをさせようというのかしら?)


 師匠のジュリアのように未来のことなどわかりはしない。しかし、メリルにもなんらかの役割があるのだと思わせてくれる。それが歓喜を生んでいた。


(今を全力で戦う。そうすれば道は拓ける。それだけはわかるわ)


「ウィーゲン、二刀流(デュアルウエポン)が行くわ。あとは存分に」

 すでにできることは少なく、彼らの実力ですべてが決まるだろう。

「ガヒート、一矢報いたいのだけれど付き合ってくださる?」

「あんたがそんなことを言うなんて男冥利に尽きるぜ。なんでも来い」

「じゃあね」


 急接近する二刀流(ビビアン)をウィーゲンに任せて無視。棒術娘と猫娘を受け止めるガヒートを少しずつ動かしていく。

 軽快に旋回するスティックになす術もなく下がるふりをして方向をナビスフィアで示した。周辺マップはすでに解析済み。ポイントまでは数mだ。


(いらっしゃい)


 一気呵成に踏み込んでくる棒術娘。さほど時間は掛からず到達する。


(ユーゲル?)

 密かに動かしていた彼にアタックマークを飛ばす。


 棒術娘の攻撃がガヒートの肩を叩き、折り返しの一撃が脇腹を狙っている。その瞬間、走ったビームがホライズンを貫こうとした。

 恐るべき勘で回避する棒術娘。しかし、残った右腕に直撃してスティックを大きく弾いた。破壊判定でだらりと垂れ下がる。


「ここだ! 喰らえ!」

「ふん!」


 彼女は一切の動揺を見せずさらに踏み込んだ。ホライズンの右足が力強く地面を打ち、掌底を形作った左手がガヒート機の鳩尾に突き刺さる。


(あらら)

 メリルは苦笑した。


「げふぉ!」

「甘い」

「うん、甘いのにゃーん」


 折れ曲がったヘヴィーファングを猫娘が余裕で薙いで過ぎる。ガヒート機は機動停止させられて膝を突いた。


「これは絶体絶命ぃー! ギャザリングフォース、三人目の脱落者ぁー!」


 一方的になりつつあるフラワーダンスの強さに戦慄するアリーナ。しかし、一方では熱戦が巻き起こっていた。ショートレンジシューター対決である。


「簡単ではないぞ、二刀流(デュアルウエポン)!」

「だから全力で相手してあげる!」


 まるでビームランチャーで殴り合うような距離での対峙。リフレクタをぶつけ合い、隙間に砲口をねじ込む。走る光条から機体を逃がす。


「なんとー!」

「ぬうぅ!」

「はああ!」


 裂帛の気合いでステップを踏む二刀流(デュアルウエポン)。対するウィーゲンも凄まじい足捌きを見せる。

 互いに連射を浴びせるではない。そんなことをすればすぐにヒートゲージが天井を叩く。筒先を突きつけるフェイントを交錯させながらここぞというところでトリガーを押し込む。


「やる!」

「無論! 敵にして不足なし!」


 ウィーゲンは決勝進出への条件として二刀流(デュアルウエポン)の撃破が不可欠と主張していた。そのためには自身がショートレンジシューターとして極める技能が必要だと。

 四対一の訓練までしてビームランチャーを用いた格闘戦ともいえる技能に達する。費やした努力は彼の体脂肪率を信じられない数値にしている。


「どうしてついてこれる?」

「どういう意味?」

「君は対ショートレンジシューター戦闘まで熟達している。なぜだ?」


 押されつつある自分に自問自答するかのような疑問。血を吐くような思いなのだろう。


「あんたよりとんでもないのがいるからよ」

「とんでもない? まさか……」

「観てないの? あたしがミュウと訓練してるところ」


 ウィーゲンはバラエティ番組を観ない。『あなた普段はどんなことを?』の一節で二刀流(デュアルウエポン)がビームランチャーを持ったミュッセルと訓練しているのを知らないのだ。その頃、彼も一心不乱に訓練に打ち込んでいたから。


(教えてあげるべきだったかしら)

 彼女にも止められない。

(言ったところでやめなかっただろうけど)


「それか」

「そう。あいつはあんたより強い」

 はっきりと言われた。


 激突したリフレクタが紫電を放つ。弾かれたと同時に両者踏み込んでいく。倒れそうなほどに前傾したウィーゲン機に対して二刀流(デュアルウエポン)も減速しない。

 突きあげた砲口が光を孕む。筒先はもうホライズンのボディに触れんばかり。そのタイミングでトリガーを落とすも、レッドラインの機体は飛び越えるようなジャンプして回避していた。


「迂闊だ! もらった!」


 回避の遅れる空中へ向けて振り返るウィーゲン。ビームランチャーの先にはホライズンの機体。ただし、彼の方を向いていた。


「なに!?」

「残念。無理よ」


 両者のランチャーからビームが放たれる瞬間をメリルはため息をつきながら見ていた。

次回エピソード最終回『唐突な告白劇』 「勝敗を賭けて一つ勝負をしない?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 目標でライバルが段違いの化け物級ですから。
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