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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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コマンダー対決(5)

 索敵ドローンを砲撃手(ガンナー)の目にしていると見せかけて囮にする。砲撃手(ガンナー)前衛(トップ)の援護に付けているだろうと思わせて分散配置する。

 意識の裏をかく戦術を駆使してエナミはギャザリングフォースを撹乱してきた。メンバーの消耗を最低限にして戦局を有利に導くためである。


(時間を掛けてもいい。とにかく、みんなの精神的消耗を防ぐ。体力ならすぐに回復するけど心の疲労は蓄積してしまう)

 経験で学んできた。

(勝つのは大事。それ以上に如何に勝つかも大事。明日からの週末までの五日間、どう使えるかでツインブレイカーズ戦の成否が決まるんだもの)


 対策に全ての時間を費やしたい。全力で当たれる環境づくりをしてあげたい。フラワーダンスにとって、あの二人との対戦は宿願なのだから。


(私はいい。空き時間で精神力の回復に努められる。でも、ビビたちは放課後を練習に注ぎ込まないといけない。日々の体力回復だけで精一杯になるから)


 ゆえに温存策に出る。トーナメントの疲労を決勝に持ち越さずベストコンディションで挑む。彼女はそれに細心の注意を払っていた。


「すごいよ、エナ。あの感触だとかなり削れてる。こっちがなにしてくるか、もうわからなくなってるんじゃない?」

 ビビアンは撹乱に好感触を得ている。

「まだ。軍務科の女神とまで呼ばれる人がこの程度でまいったりしないと思う。精神力もないと無敗伝説なんて作れない」

「そこまで? 年も二つしか違わないのに? 先輩な分だけ経験値はあると思うけど」

「なんだか私たちと違う気がするの。育ちが違うって感じかな?」

 言葉にできない。

「めっちゃ警戒してる」

「だってメリルって人、ミュウの獰猛な笑顔を相手にしても平気な顔してるのよ? 普通じゃない」

「獰猛な笑顔って。エナも言うじゃん」


 彼女に向けられはしないものの、想い人の凶暴とまでいえる一面に怯えを抱くこともあった。優しさとのギャップがエナミの心を掴んで放さないのではあるが。


「度胸はとんでもないかも。確かに要警戒」

「ペースは掴んだから。気を楽にして、私を信用して」

「心から信頼してる」


 メンバー全員から同様の答えが返ってくる。あまりに心地よい人間関係に包まれて感動すら覚える。誰かと深く繋がれるというのはこうも幸福を感じさせるものか。


(裏切るなんてあり得ない。今は忘れる)

 赤い髪の影を振り払う。


 唯一確実にマークしている敵アイコンが動く。ウィーゲン先輩のものだ。ショートレンジシューターとして完成度の高さを計測した選手を警戒しないわけにはいかない。


「仕掛けてきた。1番機以外は想定位置。そのつもりで」

 共有しているマップは参考程度。

「ドローン使った陽動はもう見抜かれてる。次に接敵したら砲撃手(ガンナー)をマークするからもう少し使えるようにするね」

「十分。女神先輩もあたしをフリーにする危険は察したみたい。惹き付けてる」

「張り付いてる?」

 ビビアンの位置から索敵ドローンが確認できている。

「ばっちり」

「もう一つ、どこかしら? 誰をマークした?」

「今のところ誰も見てない」


 見せ球のユーリィからは離れただろう。理想はウルジー。ショートレンジシューターとスティック使いの二枚看板をマークするのが順当だ。


「ウルで5番機(ガンナー)を釣る?」

 サリエリが提案してくる。

「近道かも。マークも確認できる」

「行きましょ」

「承り」

 ウルジーが了解して動きだす。

「リィ、フォロー。ビビは陽動」

「ミン、位置取り合わせ」

「承り」


 砲撃手(ガンナー)組は彼女が言わなくとも独自に動いてくれる。このへんの呼吸は以前からのもので確実だ。任せたほうがいい。


(ビビからは目を離せない。戦力も割かざるを得ない。砲撃手(ガンナー)を掴んだら崩しにいく)

 エナミは次の策略を練る。


 ビビアンは大胆に走りはじめた。索敵ドローンもついてきている。いずれ二機は食いついてくるだろう。一機では抑えきれない。


「リィ、見える?」

「まだなのにゃ」

 目の一番良い僚機にウルジーが尋ねている。

「出足遅い。警戒されすぎ?」

「かもに。エナがやりすぎたのにゃ」

「来てる」


 2番機も確定カラーでマップに映った。それ以外はビビアンに釣られているのだろう。いずれそちらも確認されるはず。


「サリ、2番機。ウルはリィと1番機を」

「うけたまわ……りー!」

 異常な反応があった。

「狙撃受けた!」

「サリ、右、ドローン!」

「こっちぃ!?」

 サリエリは反射的に飛び降りている。


 障害物(スティープル)の上のほうに掴まって狙撃体制に入っていたサリエリが狙われる。索敵ドローンは彼女をマークしていた。


(まさか、そこを? でも撃ち落としたところで、その先はないのに)

 剣士(フェンサー)はウルジーとビビアンに釣られている。


「3番機、4番機チェック! サリ、逃げ!」

 マップに剣士(フェンサー)二機が確定マークを記す。

「ヤバ! 落としに来てる!」

「戻る!」

「動かないで、ビビ!」


(ビビが完全フリー? 見抜かれてた、私が省エネ策で撹乱にいってるのを。みんなを揺り動かしにきてる。バラバラに動きだしたら崩されて削られる)


 メリルが打ち出した策略に嵌ってしまったのをエナミは覚った。

次回『コマンダー対決(6)』 「付け焼き刃? そうかもしれませんけども!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 指揮官は性格が悪い方が!?
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