コマンダー対決(4)
メリルは戦況パネル上で指を踊らせながら思案する。
メンバーアイコンの移動をコクピットのナビスフィアに反映させる手法は一般的だが、ほぼそれのみで作戦を遂行するコマンダーは珍しい部類。よほどの信頼がなければ成立しないだろう。ギャザリングフォースだからこそだといえる。
(施策が重そうに見えて着実に打ってきてる。可愛げがなくてよ、エナちゃん)
見るものが見れば彼女の劣勢と断ずるだろう。
(さすが、協定者がライバルと見込んだ相手だけあるわね。意地悪したくなっちゃう)
それまで触れていなかったアイコンに指を伸ばす。少しだけ前にずらした。
「よろしいので?」
「行って、ウィーゲン。勝手ばかりさせておいたら選択肢を狭められてしまうわ」
「了解いたしました」
実機アイコンがほとんど遅れなく動く。ガンカメラをちらりと覗くと、ウィーゲンは視界を広めるように進んでいた。
(来るかしら、二刀流)
マークされていると読んでいる。
ところが彼のヘヴィーファングは狙撃を受ける。イエローラインの援護に入っていると思われた砲撃手がウィーゲンをマークしている。
(あら、そう。こっちの速力を活かさせたくないわけね。身内にいる分、ショートレンジシューターの潰し方を知ってる)
足元を崩されてウィーゲン機は前に出られない。しかし、射線は掴めた。当初の目的は達している。
予め徐々に動かしておいた前衛の二機、ガヒートとマルナのアイコンを狙点へと向ける。ウィーゲンには援護に砲撃手のユーゲルを後ろに付けた。
「二本確認しました」
「ええ、見えてる。意外にもハードマークされてたみたい。光栄?」
「それよりもメリルに直接指示をいただいているほうが光栄ですよ」
「今日ばかりはね。密に連絡取らないと見落とししそう」
ウィーゲンは「あなたともあろう方が」と言うが、メリルの位置から戦闘の全てが見えているわけではない。パイロットの見えているものと索敵ドローンが見えているものだけ。
(索敵ドローン……?)
ふと気がついた。
彼女の索敵パネルにはフラワーダンスの索敵ドローンが映っている。その近くに敵機がいるものとマークしておいたのだが。
(まさか索敵ドローンを囮に使ってる? 目を一つ失ってまで?)
一つの可能性が思い浮かんだ。慌てて剣士二機のアイコンを引き下げる。しかし、突然すぎて実機アイコンまで追従しない。コクピット内に警告音は鳴るようにしてあっても反応の遅れはある。
「しまった」
顔をしかめる。
「く、スティックが来やがった。どうする?」
「デュアルウエポンもいるかも」
「下がって」
アイコンにアタックカラーを付けず、衝突は避ける方向にする。
(やられた。常識の裏をかかれた。エナもこっちのアームドスキンじゃなく索敵ドローンをマークしていただけ)
とんでもない奇策である。
(近くに伏兵を置いてあるふりをしてなにもいない。だったらデュアルウエポンはどこ?)
把握しているのは四機の位置だけ。ビビアン機の姿は一度も確認していない。
(どこに置く? いいえ、わたしだったらどこを狙わせる?)
同等の相手と見るべき。
「後ろ! ユーゲル、警戒!」
「なんですと?」
いくら軽量化していてもアームドスキン。それだけは消せない足音がする。けたたましいものではないがテンポを刻む軽快な土音。死角を作るプレート型障害物の影からレッドラインのビビアン機が飛びだしてきた。
「ほんとに来……!」
「下がれ、ユーゲル! 私が代わる!」
「このっ!」
ゲージ無視の連射を発して後退するユーゲルのヘヴィーファング。全力でウィーゲン機がダッシュに転じるとデュアルウエポンがやってくる。
(もたせて。砲撃手を落とされたら丸裸みたいなもの)
祈りが通じたか、ユーゲルとウィーゲンがすれ違う。片手で照準して放ったビームはサイドステップで回避された。
「くぅおっ!」
ウィーゲンの掛け声とともに目前をビームの青白い光が染める。真横からの一撃を仰け反って躱したらしい。
「やらせ……! ん?」
戸惑いの声。
「どこへ!?」
「お終い。意外と動けるみたいだから仕切り直し。またあとで」
「おい!」
完全にヒット&アウェイで過ぎ去っていく二刀流。その頃にはスティック使いのブラックラインまで合流して攻め立てられたバーネラも逃げ戻りつつある。
「あーあ、やられちゃった」
メリルはため息をこぼす。
「もしかして、今のも?」
「そ、君がどれくらい使えるかばっちり確認されてしまったわ」
「すみません」
そうせざるを得なかったとはいえ失敗だ。
「君の所為ではないわ。見事に引っ掛けられた。逆に仕切り直しになって助かったくらい。あのまま押し切られていたら完敗だったかも」
「そんなことは……」
「なくもない」
(ただし、向こうにもリスクの高い決断。それを避けたのよね?)
コマンダーの考えが手に取るようにわかる。
(それくらいツインブレイカーズとの決勝に懸けているということ。準決勝では時間を掛けてでも安全策で勝利を奪おうとしているんだわ)
失ったものもあるが得たものもあると気づいたメリルは意地悪な笑みを浮かべた。
次回『コマンダー対決(5)』 「獰猛な笑顔って。エナも言うじゃん」




