表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

249/409

コマンダー対決(4)

 メリルは戦況パネル上で指を踊らせながら思案する。


 メンバーアイコンの移動をコクピットのナビスフィアに反映させる手法は一般的だが、ほぼそれのみで作戦を遂行するコマンダーは珍しい部類。よほどの信頼がなければ成立しないだろう。ギャザリングフォースだからこそだといえる。


(施策が重そうに見えて着実に打ってきてる。可愛げがなくてよ、エナちゃん)

 見るものが見れば彼女の劣勢と断ずるだろう。

(さすが、協定者がライバルと見込んだ相手だけあるわね。意地悪したくなっちゃう)


 それまで触れていなかったアイコンに指を伸ばす。少しだけ前にずらした。


「よろしいので?」

「行って、ウィーゲン。勝手ばかりさせておいたら選択肢を狭められてしまうわ」

「了解いたしました」


 実機アイコンがほとんど遅れなく動く。ガンカメラをちらりと覗くと、ウィーゲンは視界を広めるように進んでいた。


(来るかしら、二刀流(デュアルウエポン)

 マークされていると読んでいる。


 ところが彼のヘヴィーファングは狙撃を受ける。イエローラインの援護に入っていると思われた砲撃手(ガンナー)がウィーゲンをマークしている。


(あら、そう。こっちの速力(あし)を活かさせたくないわけね。身内にいる分、ショートレンジシューターの潰し方を知ってる)


 足元を崩されてウィーゲン機は前に出られない。しかし、射線は掴めた。当初の目的は達している。

 予め徐々に動かしておいた前衛(トップ)の二機、ガヒートとマルナのアイコンを狙点へと向ける。ウィーゲンには援護に砲撃手(ガンナー)のユーゲルを後ろに付けた。


「二本確認しました」

「ええ、見えてる。意外にもハードマークされてたみたい。光栄?」

「それよりもメリルに直接指示をいただいているほうが光栄ですよ」

「今日ばかりはね。密に連絡取らないと見落とししそう」


 ウィーゲンは「あなたともあろう方が」と言うが、メリルの位置から戦闘の全てが見えているわけではない。パイロットの見えているものと索敵ドローンが見えているものだけ。


(索敵ドローン……?)

 ふと気がついた。


 彼女の索敵パネルにはフラワーダンスの索敵ドローンが映っている。その近くに敵機がいるものとマークしておいたのだが。


(まさか索敵ドローンを囮に使ってる? 目を一つ失ってまで?)


 一つの可能性が思い浮かんだ。慌てて剣士(フェンサー)二機のアイコンを引き下げる。しかし、突然すぎて実機アイコンまで追従しない。コクピット内に警告音は鳴るようにしてあっても反応の遅れはある。


「しまった」

 顔をしかめる。

「く、スティックが来やがった。どうする?」

「デュアルウエポンもいるかも」

「下がって」

 アイコンにアタックカラーを付けず、衝突は避ける方向にする。


(やられた。常識の裏をかかれた。エナもこっちのアームドスキンじゃなく索敵ドローンをマークしていただけ)

 とんでもない奇策である。

(近くに伏兵を置いてあるふりをしてなにもいない。だったらデュアルウエポンはどこ?)


 把握しているのは四機の位置だけ。ビビアン機の姿は一度も確認していない。


(どこに置く? いいえ、わたしだったらどこを狙わせる?)

 同等の相手と見るべき。


「後ろ! ユーゲル、警戒!」

「なんですと?」


 いくら軽量化していてもアームドスキン。それだけは消せない足音がする。けたたましいものではないがテンポを刻む軽快な土音。死角を作るプレート型障害物(スティープル)の影からレッドラインのビビアン機が飛びだしてきた。


「ほんとに来……!」

「下がれ、ユーゲル! 私が代わる!」

「このっ!」


 ゲージ無視の連射を発して後退するユーゲルのヘヴィーファング。全力でウィーゲン機がダッシュに転じるとデュアルウエポンがやってくる。


(もたせて。砲撃手(ガンナー)を落とされたら丸裸みたいなもの)


 祈りが通じたか、ユーゲルとウィーゲンがすれ違う。片手で照準(ポイント)して放ったビームはサイドステップで回避された。


「くぅおっ!」


 ウィーゲンの掛け声とともに目前をビームの青白い光が染める。真横からの一撃を仰け反って躱したらしい。


「やらせ……! ん?」

 戸惑いの声。

「どこへ!?」

「お終い。意外と動けるみたいだから仕切り直し。またあとで」

「おい!」


 完全にヒット&アウェイで過ぎ去っていく二刀流(デュアルウエポン)。その頃にはスティック使いのブラックラインまで合流して攻め立てられたバーネラも逃げ戻りつつある。


「あーあ、やられちゃった」

 メリルはため息をこぼす。

「もしかして、今のも?」

「そ、君がどれくらい使えるかばっちり確認されてしまったわ」

「すみません」

 そうせざるを得なかったとはいえ失敗だ。

「君の所為ではないわ。見事に引っ掛けられた。逆に仕切り直しになって助かったくらい。あのまま押し切られていたら完敗だったかも」

「そんなことは……」

「なくもない」


(ただし、向こうにもリスクの高い決断。それを避けたのよね?)

 コマンダーの考えが手に取るようにわかる。

(それくらいツインブレイカーズとの決勝に懸けているということ。準決勝では時間を掛けてでも安全策で勝利を奪おうとしているんだわ)


 失ったものもあるが得たものもあると気づいたメリルは意地悪な笑みを浮かべた。

次回『コマンダー対決(5)』 「獰猛な笑顔って。エナも言うじゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 上手く手玉に?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ