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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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コマンダー対決(3)

「走行時の機動性能はどんな感じです?」

「ほぼ同等ですわね。今のところ最高速、旋回性能ともにホライズンと変わらない数値ですわ」

「同等ですか。だったらいいです」


 ラヴィアーナが質問に応えるとエナミはいい笑顔を見せる。少し意地の悪い色が混じっているだろうか。完全にスイッチが入っている。


(ここしばらく悩んでいるみたいでしたから様子を見てましたけど、心配なさそうですわね)

 小さい背中ながら安心して見ていられる。


 成長期に見ていた親族の背中はこれほど影響を及ぼすものであろうか。エナミという少女を見ていると血統以上のなにかを感じさせる。


「サリ、捉えてる?」

「もち」

「ミン、位置取りできそう?」

「承り」


 さっぱりとした確認作業。彼女たちの持ち味である。皆の動きを確かめつつ、それぞれが自分のすべきことをする。指示せずともそれができる。


「リィ、後ろ50、左」

「あい」

「エナ、入った」

「じゃあ、サリとミンで合わせ」


 三人がするすると動く。当然、ビビアンとウルジーも反応している。人が有機的に機能するというのを実際に目で見るのはラヴィアーナでもなかなか経験がない。エナミの補助をするようになってからだ。


(この子たちの絆があるからこそですわ。訓練だけでこの域に達するには大人でも時間を要するでしょうね)


 無論メンバーも訓練をしている。だが、応用のバリエーションを増やしたり、突飛なケースの対処法を編みだすものが多い。


「動き鈍い」

「メリルさん、やっぱり難しい」

「向こうの手?」

「たぶん」


 常に皆が考えている様子をラヴィアーナは頼もしげに見守っていた。


   ◇      ◇      ◇


「メジャートーナメント準決勝だというのにあまりにも地味ぃー! これはリングを盤上に模した玄人向けの試合になってしまうのかー?」

 リングアナの煽る台詞を耳に入れてはならない。


(射線が来ないだと?)

 ウィーゲン・オルトラムは戸惑う。


 バーネラが確認したホライズンは黄色のストライプ(イエローライン)。フラワーダンスの中でも突出し(さきばしり)がちな猫系獣人(パシモニア)の少女のもの。


先走り(それ)と見せかけた罠ではないのか?)

 そう読んで対応している。

(掛かったと見せて射線を確かめたら私が砲撃手(ガンナー)を落としに向かう目論見だったというのに。撃ってこないでは動きようがない)


 後衛(バック)の位置は掴めていない。メリルからのナビスフィアも迂回を命じてこない。彼女が予想も立てていないはずはないので、意識的に彼を動かそうとしていない。


(罠じゃない。だとすれば、この動きはなんだ?)

 理解不能である。


「動かないのよ、ウィーゲン」

「なぜです、メリル?」

「あっちのコマンダーはあなたの機動速度を推し量ろうとしてるの。今動けば計算されて、向こうの流れを作られてしまうわ」


 戦闘中にはあまり話し掛けてこないメリルがわざわざチーム回線を使った。つまり、重要な一手だということ。彼の自己判断で戦局を難しくしたくないのだ。


「私の、ですか」

「ええ、ショートレンジシューターとしての熟練度を知られるのは悪手」

「まだ見劣りするとおっしゃられるか?」

「違うわ。例えれば間合いの読み合いみたいなもの。先に読まれたほうが不利になるわよね?」

 わかりやすい例えで説明される。


(相手のコマンダーをそこまで評価しているのか。つまり余計なことをすればメリルの足を引っ張ってしまう)

 ウィーゲンは胸に刻む。


 呼びだしておいたバーネラ機のガンカメラ映像を睨む。やはり狙撃のビームは来ない。これは二重に仕掛けられたうえにヘヴィーファングの行動速度まで計られてしまう巧妙な罠だった。


(なんという怖ろしい。フラワーダンスが急激に伸びた強さの源泉はこれか)

 改めて思い知らされた。


 バーネラは遠慮がちなスピードでイエローラインと接触する。ナビスフィアからの指示で絞られているのだ。ただし、アタックカラーにはなっていたらしい。


「お仲間の援護はないわけ?」

「要らないのに。あちき一人で十分なのにゃー」


 僚機は右下からの逆袈裟の一撃。躱しやすい攻撃だというのにホライズンは受けにまわる。リフレクタに衝突して紫電を弾けさせるも微動だにしない。


(パイロットのパワーだけではないと)


 イエローラインは腰を落とした好戦的な姿勢。リフレクタを押し戻しつつ突きが飛んでくる。バーネラはリフレクタでこすり上げつつ後退。追撃の斬撃が何度も彼女を襲う。


(誘い込むつもりもない? 本当に一機で落とす気だと?)


 力場の干渉音がコクピットの中まで響いてくる。散乱する電撃と火花が拮抗する力の激しさを示している。思わず援護に向かいたくなる足を必死で制した。


「お前こそ見捨てられてるのにー」

「あんたの策になんて乗らない!」


 彼女は反撃を開始する。斬り結んでは弾く。絡めては逸らそうとする。しかし、イエローラインのブレードはことごとく打ち返し、逆にヘヴィーファングのボディに迫ってくる。


「あちゃー、パワー負けしないってイメージを植え付けられちゃったわ。本当に食えない子」

「メリル、それは……」


 唖然とした。軍務科の女神ともあろう人が後手を掴まされている。そして、実行する力がフラワーダンスメンバーにはあるということも。


 ウィーゲンは気の引き締め具合が足りなかったと覚った。

次回『コマンダー対決(4)』 「意外にもハードマークされてたみたい。光栄?」

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