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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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コマンダー対決(2)

 フラワーダンスコマンダーであるエナミ・ネストレルは驚いてばかりでいられない。即時に判断できねば五人のメンバーを困らせる。


「どう思う、ビビ?」

 確信はあるが相談もする。

「間違いないでしょ。やってくるつもり」

「どのくらいの完成度かしら?」

「ごめん。相手してみないとわからない。ミュウみたいに素振りや仕草でスキルの度合いまで判別できるほどじゃないから」

 格闘家と同じことはできないという。

「対処は?」

「任せて。マッチアップは崩さなくていい」

「ラジャ。ビビの判断に任せる」


 ギャザリングフォースは全員が技巧派であるが、最も思い切りの良いのはリーダーのウィーゲンである。最初から彼女が牽制を担当する作戦だった。


「でも、真っ向からってわけにはいかなくなったんで、ウルは間合い注意」

「あい」


 正面から当たるのはウルジーのはずだった。しかし、リフレクタの使いづらいスティック使いが不用意に接近するのは危険。ビビアンに前衛(トップ)全体の牽制を頼んで少し間合いを取るよう微調整する。


「いつもより機動性重視。いける、リィ?」

「任せるに。生まれ変わったあちきを見せてやるにー」


 いつもなら最大火力であるユーリィが今回の作戦では要となっている。それを如何に意識させないかがキーになるか。


(効果があったとしても最初だけ。すぐに看破される)

 それまでに形を作れれば諸々補える。


 メンバーのコールが終わりセンタースペースで向き合う。相手は静かにこちらをうかがう様子があった。


「それはなんの冗談? あたしが言うのもなんだけど、コンバートがそんなに簡単に見えて?」

「無論、簡単ではないな。しかし、改修型ヘヴィーファングを最も活かす術がこれだと感じた。訓練を重ねたさ」

「あ、そう。覚悟のほどと思っても?」

「差し支えない」


(こういった駆け引きはビビのほうが上手。私が口を挟むところじゃない)

 エナミは聞き手にまわる。

(実際、ちゃんと情報を引きだしてくれた。ウィーゲン先輩はショートレンジシューターに転向ね)


 頭の中で作戦に微調整を加えていく。彼女のナビゲーション次第で初手の優劣が決まる。


(正直、仕掛けてきてくれて助かったかも。おかしな邪念を捨てられた)

 一気に集中してコマンダーモードになっている。


「言葉少なながら深みのある駆け引き! メジャーの準決勝ともなるとこうでなければいけません!」

 リングアナの煽りも鋭い。

「両者ともボルテージが上がってきたかー? 今にも駆けだしそうな勢い! おっと、口を滑らせてしまったかー!? あとは選手たちに任せましょう! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


(まずは一手)


 エナミを戦況パネルに全力で見入った。


   ◇      ◇      ◇


「可愛げのないこと。ちっとも動揺してくれない」

「そのようです、メリル」


 相手に初手を踏ませず、試合前から仕掛けにいった。なのに変化は見られない。もし、焦燥を巧妙に隠しているならシフトに動きがあっただろう。だが、フラワーダンスは全くフォーメーションを変えなかった。


(エナっていうコマンダー、侮ってるつもりはなかったけど肝の座り具合は馬鹿にできないわね)


 調べたところ、スキップで入学してまだ十五歳になって間もない。そんな少女が大舞台で安定しているとは、どんな家庭環境で育ったのだろうか。


(エナミ・ネストレルと同一人物だって噂、あながち嘘じゃないかも)

 秋に外部入学してきた新入生の話。


 今のところ噂程度の情報しか出ていない。しかし、本部局長の血筋であれば、この若さにして人生に揉まれてきていてもおかしくはない。


「やっぱりスティープル内戦闘をご所望のようよ。予定どおりに」

「了解です」


 開始のゴングと同時にフラワーダンスは尖塔型障害物(スティープル)の林の中に下がっていく。推測どおりだし、妨害する気もなかった。


(利点はない。それは向こうも承知のはず)

 メリルは読んでいる。

(カシナトルドを含めたイオンスリーブ搭載機の戦闘機動は嫌ってほど見せてきた。なにができるかもほぼ掌握しているでしょ?)


 パワーはもちろん、反応性、緩衝力、様々な要素を兼ね備えたアームドスキンに仕上がっている。それは、足周り重視の設計思想で組まれたホライズンと同じ特性を備えていた。つまり、ヘヴィーファングもスティープルの林立する中を全速で駆けまわれることを意味する。


「接敵間もなく。バーネラ、あなたから」

「わたし? ふーん」

「思ったより前掛かりよ」


 待ち伏せする作戦を執るかとも思ったが、彼女が一番に接敵するということは前衛(トップ)を普通に前に出している。時間的に後衛(バック)が側面にまわってきていないはず。


「ウィーゲン、来ないでよ。こいつは餌」

「了解してる。捌け」

「はいな」


 突出しているように見えて、不用意に戦力を集中すれば敵の罠に掛かる。集中砲火を浴びる羽目になるだろう。後手にまわった彼らはまず冷静に後衛(バック)二機の動向を探るのが重要である。


(言うまでもないこと。指示せずとも彼らならできる)

 各機のナビスフィアを操っていく。

(火線が読めたらウィーゲンを使う。それが4トップ(・・・・)の超攻撃型シフトを敷いている利点)


 メリルは淡々とヘヴィーファングを動かしていった。

次回『コマンダー対決(3)』 「まだ見劣りするとおっしゃられるか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 先読み・裏読み、どうなるか?
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