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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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コマンダー対決(1)

「お待たせしました! 本日のメインゲーム、桜華杯準決勝二回戦の時間がやってまいりました!」

 リングアナのフレディ・カラビニオが高らかに謳う。

「まずは(サウス)サイドゲートからはチーム『ギャザリングフォース』が入場します!」


 メリルの真下に当たるゲートはカウントゼロを数えているだろう。ナンバリングされたアームドスキン『ヘヴィーファング』の勇姿が列をなして進んでいく。


「先頭を飾るはこの人! 並みいる強豪チームを下し、ここまで駒を進めたチームを率いるリーダー! 『静かなる闘志』! ウィーゲン・オルトラム選手ー! 乗機はヘヴィーファング!」


 足取りに以前のような重さはない。駆動系は全てイオンスリーブロッドおよびイオンディスクに改修され、機体重量そのものも10%以上軽減している。リングの土に刻む足跡さえ軽快さを表すように薄く見えた。


「皆様、よくご覧ください!」

 アリーナもざわめいている。

「なんとウィーゲン選手、本試合は砲撃手(ガンナー)でエントリしております! 既視感(デジャブ)を感じたのは私だけではないでしょう! まさか、もしやの再来でしょうかー!」


 リングアナの言うとおり、ヘヴィーファング1号機はビームランチャーを構えて粛々と歩んでいる。二つ名を体現するかのごとく、静かに闘志をたぎらせながら。


「私は軍務科の女神たるメリル、あなたに桜華杯を捧げるべく全てを投げうってこのトーナメントに懸けています。なんとでもお命じください」

 試合前にそう宣ってコクピットに入っていった。


 事実、彼は公務官(オフィサーズ)学校(スクール)の授業を休んでまで改修型ヘヴィーファングの調整に時間を費やしている。入れ込みようは普通ではなかった。全ては彼女に敗北の文字を刻んでしまった自らの戦いを(そそ)ぐために。


(申し訳ないわね。結局はわたしとミュウの変な因縁に決着をつけるための参戦だったのに)


 メリルの青さだといえばそれまででしかない。悪目立ちしてしまった。入学したばかりの頃の彼女は広言できない『全知者の弟子』という立場を証明するのに上級生さえ打ち倒していくのをはばからなかったから。


(結果として『軍務科の女神』なんて異名まで授かってしまったんだもの)


 同級生にしてみれば、あまりに大人に見えてしまう上級生を戦術講義でいとも簡単に撃破してしまう彼女が眩しく見えていたのだろう。まるで戦女神であるかのごとく崇められた。


(わたしからすれば本当に皆が子供に感じられただけ)

 如何ともしがたい。

(それは、司法(ジャッジ)巡察官(インスペクター)『ファイヤーバード』、ジュリア・ウリルを生まれたときから見ていたんだから仕方ないでしょう?)


 挙げ句に学校だけでは飽き足らず、クロスファイトの世界に身を投じた。賞金稼ぎに地道をあげる彼らの戦場であれば、自らの力を確認できるかと考えたのだ。

 紆余曲折あって出会ったのはチーム『オッチーノ・アバラン』。エレイン・クシュナギという狂犬を飼い慣らせるようであれば追いつけるような気がした。ジノ・クレギノーツという怪物を身内に置いているジュリアに。


(とんだ勘違いだったから笑い話。狂犬はどこまでいってもただの狂犬。ジノみたいな本物の怪物は世間にごろごろいない)


 それこそ、先にミュッセルに出会ったら彼に惚れ込んでいたかもしれない。懇願してでも彼のコマンダーに収まっていたら違う世界が見えていただろうか。

 現実には敵として出会ってしまった。リングでしか交わることのない相手として。


(敵としてのほうが自分を高められる? どっちが良かったかなんて今になってはわからないわ。未来のわたししか知らないこと)

 自嘲する。


「今日も意気盛んです! 『熱き剣閃』、ガヒート・バイス選手ー!」

 コールが続いている。

「踊るように登場したのは『踊るブレード』、バーネラ・ククイット選手ー! 涼やかに歩むは『冷徹なる閃光』、マルナ・ショルダン選手ー! 最後を飾るは『背中の担い手』、ユーゲル・シェイカス選手ー! 以上が将来を嘱望される公務官学校軍務科エリート五人組! 結成わずかにしてメジャートーナメント準決勝まで駆け上ってきました!」


 人気は上々である。フラワーダンスに比べれば少々劣るがオッズもそこまで偏っていない。自らとカルメンシータの雪辱を晴らす舞台として桜華杯は申し分ない。


(そのためにはまず下さないといけない相手がいる)

 (ノース)サイドゲートから悠然と歩いてくる。


「対するはチーム『フラワーダンス』! 破竹の勢いで強豪の一角をなしてきた驚異の少女たちー! シーズン成績で来季はリミテッドクラス確定とも噂される可憐な花がリングに降臨だー!」


 ホライズンの白いボディが目に鮮やかである。清純を表すイメージカラーが彼女らの人気をいや増していた。


「先陣を切るは本家『二刀流(デュアルウエポン)』! 赤き差し色映えるチームリーダー、ビビアン・ベラーネ選手ー! 乗機は今シーズンの話題をかっさらっていったホライズン!」


 クロスファイトそのものを変貌させつつある名機ともいえよう。これまでの戦い方は通用しなくなってきている。彼女率いる五人も同じ選択をしたように。


(先駆したのはあの二人)


 ターゲットとしている赤と灰の嵐が待っている以上、メリルは負けられない。

次回『コマンダー対決(2)』 「間違いないでしょ。やってくるつもり」

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