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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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245/409

クロスオーバー

 ツインブレイカーズ対ピースウォリアーズの結果を見てメリル・トキシモは呆然とする。予想していた接戦にもならなかった。星間(G)平和維(P)持軍(F)の現役隊員が一時的にでも優勢を奪うことなく終わる。


(カシナトルドをもってしても?)

 イオンスリーブ搭載機として最も完成度の高いアームドスキンだと思っていた。

(機体は最善、パイロットの経験値も高い。あの二人の弱点くらいはあぶり出してくれると期待してたのに)


 結果は敗北。それどころかイオンディスクの欠点まで暴かれてしまった。イオンスリーブの登場に湧いていた技術関連メディアもその話題で持ち切りである。


『頑張って。うちは忙しくなるからまたね』


 カルメンシータ・トルタへの言葉を選んだ慰めのメッセージにもそんな返信があっただけ。妙にさっぱりしている。ミュッセルの言葉にヒントを得たらしい。


(戦略的優位性が消え失せた)

 正直な思いである。

(機体性能というベースが崩れちゃった。ギャザリングフォースが勝る部分といえば戦術しかない。どうやってツインブレイカーズに雪辱する?)


 連携においても、とんでもない離れ業を見せた二人の少年。彼女の擁するチームがいくら優秀なパイロットを抱え、連携も申し分ないとはいっても十分に覆せるレベル。


(そんなとこに迷い込んじゃ駄目)

 眉間を押さえる。

(まずはフラワーダンスに勝つ。そうしないと二人への挑戦権もない)


 明日の試合相手は公務科の五人の少女たちなのだ。勝って初めて来週末の決勝へと駒を進められる。


(予想どおりホライズンにも秘密の駆動機が搭載されている)


 ミュッセルは試合中に「企業秘密だ」と言った。個人の秘密を軽口で包んだだけかもしれないが違う気がする。

 なにか事情があって明かせないような口ぶり。ゼムナの遺志が関係しているのは明白だが、それならヘーゲルが関わっているのはおかしい。


(なにがなんだかわかんない)

 長い長い吐息がもれる。

(ともあれ対フラワーダンス戦は試金石になる。ヴァン・ブレイズやレギ・ソウルほどではないにしても、いえ、ないからこそ駆動機の弱点を洗いだせるかもしれない。戦略上大事な情報になる)


 コーファーワークス戦、ピースウォリアーズ戦とパワー押しでは太刀打ちできないとわかった。ならば持久戦に持ち込めばいいのか。確証もない一戦術をいきなり本番に投入しなくて済む。


(フラワーダンス戦で味を訊く)

 他に手がない。

(デビアカップではタフさで負けた。改良型ヘヴィーファングのパワーも当てにならない。だったら持久力に懸けるしかない?)


 ツインブレイカーズの試合時間にはムラがある。当然、相手の強さ弱さは関係するが、ミュッセルの癖に起因する場合も多い。ピースウォリアーズ戦のように選手の顔でなくエンジニアの顔で語りはじめるときが少なくないからだ。


(最長はグレオヌス戦だけど、あれは全く当てにならないし)


 パイロットのタフネスさがわかるだけ。機体そのものが違う。そもそもヴァリアントは目立つほど高性能機ではなかった。


(おそらくヴァンダラム以降のアームドスキンに搭載されてる)

 これまでの試合状況から紡ぎだした結論。

(あれからリクモン流の奥義も使うようになったわ。そういう駆動機だと思っていいかも。もしかしたら、そのために……?)


 思考が迷走する。メリルの悪い癖であり、大事なプロセスでもある。昔ならジュリアが導いてくれた。でも今はいない。自分で決断しなくてはならない。


(名前をくれたあの人の誇れる人間になるために)

 これは試練だと考える。


「メリル?」

 沈黙に耐えられなくなった男が声を掛けてくる。

「ああ、ごめんなさい、ウィーゲン。なにかしら?」

「フラワーダンス戦の作戦は決まりましたか?」

「明日の最終ブリーフィングまで待ってくれる? 材料は揃いつつあるから」

 不安がらせないよう微笑んで見せる。

「あれの準備は?」

「万全です。見劣りするようなことは絶対にないと保証いたしましょう」

「ありがとう。加味できるのは助かります」


 彼女にも切り札はある。少女たちのド肝を抜き、ツインブレイカーズを地に這わせられるほどのとっておきが。


 メリルは改めてコンソールに向き直った。


   ◇      ◇      ◇


「おめでとう」

 エナミはお祝いを告げる。

「ありがとよ。お前らも頑張れ。来週末のクロスファイトドームで決着つけようじゃねえか」

「うん、そのつもり」

「そんな顔すんな。自信持て。今のフラワーダンスなら軍務科の連中になんか負けねえ」


 ミュッセルは誤解をしている。少女の悩みはそれではないのだ。


(私たちは勝つ。それだけの準備はしてる)

 メンバーは難しい状況もクリアしてくれたし、ラヴィアーナたちスタッフのバックアップも万全である。

(でも、勝ったらビビはきっと……)


 賭け(・・)を始めてしまうだろう。彼女にとってもビビアンにとっても一大事な賭けを。


(私の馬鹿。してはいけない妄想がちらついてしまうなんて)

 彼女は賭けをふいにしてしまう術を持ってしまっている。

(正々堂々でないとミュウに顔向けできない。なのに、こんなに苦しむとか)


 裏切りなど許されない。そんなことをすれば今の環境が全て壊れてしまうのは間違いない。


「でも、油断すんな。あの女、ほんとに愉快なことしやがるからよ。お前にも負けず劣らずだ」

「そこは勝てるって言ってくれないの?」


 エナミが頬をふくらませるとミュッセルはゲラゲラ笑った。

次回『コマンダー対決(1)』 「まさか、もしやの再来でしょうかー!」

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