エンジニアの目(2)
任務とあらば立ち向かう。背景分析などももちろん重要だが、GPFパイロットの彼らにとって二の次のこと。
(優秀だこと)
五人全員の顔が引き締まったのをカルメンシータは好ましく思う。
「ジェリコの言うように砲撃手を入れるのも一策かと?」
オレガノも進言してくる。
「方針は変えない。うちたちの任務はなに?」
「イオンスリーブの評価です、レイディ」
「勝利は絶対条件じゃない。この新型駆動機がこれからの星間管理局の戦力に及ぼす効果を計るのが今回の目的。忘れないように」
全員が敬礼で応じる。
「でも、試合するからには勝ちたいのも本音よね? それはうちにもわかってます」
「シータの一人称の『うち』って可愛い」
「ほんとほんと」
表情を和ませると女性陣は乗ってくる。堅苦しい空気は危険な任務のときだけでいい。任地以外ではメリハリも重要だ。
「全力を尽くしましょ。じゃ、まずマッチアップからね」
「りょうかーい」
それぞれの適性から最善と思われる戦略から始める。あとは個々のパイロットが相手に合わせた戦術を組むだろう。彼女は戦術家ではなくエンジニアでしかない。
(この面倒くさい状況に直面するのはこの子たち。うちにできるのはバックアップでしかない)
協議するメンバーを眺める。
(そっか。いつもそうだった。だからこんなに既視感が強いんだわ)
整備士であれ技術者であれ、戦闘に直接関与はできない。その場その場で最良と思われる道具を託すのが役目なのである。
「専用機といえど無敵ではない。我らが任務を全うすれば結果は自然とついてくる。よいな?」
「はいはーい、オレガノってば堅苦しい」
キュロムがからかう。
「そうね。二人は十六歳のスクール生よ、オレガノ。お手柔らかにしてあげたら?」
「それは無理です、レイディ。演習ではありましたが、自分はブレアリウス・アーフ戦隊長ともお手合わせ願ったことがあります」
「そうなの?」
少し驚いた。
「あの人が育てた息子のグレオヌスがどれほどの腕前かなど考えるまでもありません。侮っていいわけがない。彼と痛み分けともいえる戦闘をやってのけたミュッセル・ブーゲンベルク。この二人が組んでいるのに、どうして手加減などできましょう」
「あら、大変。警務部がテストに選ぶような優秀なパイロットに睨まれちゃうなんて」
「本気でいかせてもらいます」
カルメンシータは面白いことになりそうだと思った。
◇ ◇ ◇
試合相手を分析し作戦を立てるのはどちらも同じ。ツインブレイカーズもやっているが二人なだけあって話は早い。
「こいつを見ろ。まずはイオノインカの戦闘映像だ」
ミュッセルはグレオヌスに投影パネルを滑らせる。
そこにはすでに破ったアームドスキンの戦闘映像が流れる。彼らと対戦していたときのものだ。
「今さら?」
「いいからよ」
クロスファイト運営が公式で流している試合の模様である。ゆえに二人の視点からとは異なる横からの映像だった。大振りな斬撃がレギ・ソウルのブレードと噛み合う。
「で、こいつが明日戦うピースウォリアーズのカシナトルドのもんだ」
これまでの戦闘結果から似たような映像を抽出している。コーファーワークスのような強引さはないが、それでも衝突したブレードが放つ紫電の火花は他に見られないほど大きく散っていた。
「気づかねえか?」
狼頭に尋ねる。
「違いはあるね。イオノインカのほうが癖がある。口で説明しろって言われると難しいけどさ」
「ほぼ当たりだ。内部機構が全然違う」
「同じイオンスリーブ搭載機なのにかい?」
イオノインカのものにグラフ化した出力分析結果を重ねた。横軸を時間にしたグラフには二つの山がある。
「振ったときと噛んでから押し込むとき。二度出力が上がってんだろ?」
「ほんとだ」
一つ目の山が控えめで二度目が大きい。
「最初のはモーター駆動機の出力。二つ目がイオンスリーブロッドの出力。機械的サポートをする形だ。だから押し込みが強え」
「トルク駆動機がないって指摘したやつだな?」
「おう。回転時は作動してなくて、負荷が掛かるとロックしてパワーを増すもんが組み込んである」
予想を披露する。
「そんな機構があるんだ」
「珍しいもんじゃねえ。ただし消耗が激しい」
「欠点もありか」
次にカシナトルドの映像にもグラフを付ける。ところが山が表れていない。
「こっちには組み込まれてない?」
「いや、出力値を見ろ。ピークは高えだろ?」
全体に高く、谷間がない。
「確かに」
「これでわかる結果は、カシナトルドにはイオン方式のトルク駆動機が搭載されてるってこった」
「そう……か。独自に開発した?」
「たぶんな。口振りからしてオネアスは知らなかったもんだ」
イオンスリーブが屈曲に耐えられないのは本当だと思われる。管理局の開発部は別個にイオン方式のトルク駆動機を生みだしたのだろう。
「完成度は高い?」
「間違いねえ。自信があっから、この前病室にシータって姉ちゃんが偵察に来やがった。あの目つきはエンジニアのもんだ」
「君の回復具合を知りたかったわけか」
試合で完成度を計るならば相手選手の体調も重要。
「状況証拠もある。ピースウォリアーズが全員剣士なのも駆動機の完成度チェックがしたいからだろうぜ」
「なら、そういう戦術を取ってくる」
「俺の言いたいことがわかったか?」
頷くグレオヌスにミュッセルはニヤリと笑って返した。
次回『桜華杯準決勝(1)』 「ここも立派な戦場だって教えてやんぜ」




