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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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エンジニアの目(1)

 カルメンシータ・トルタは自分が胸踊らせているのに気づいた。


(ずいぶん久々の感覚)

 しかし馴染み深いもの。

(若い頃はずっとそうだったし。師匠と一緒にジュリアの下で働いて、それこそ星間銀河圏を隅々まで飛びまわってた。色んな事件をこれでもかってほど解決して)


 リトルベアが合流してからもやることは変わっていない。ジュリアがファイヤーバードとして表の顔になって、ジノが実戦のメインになった。それだけの変化。


(普通の人なら目を回すほどの情報量ばかりの毎日だった)

 どうやって気を休めていたのかもう憶えていない。

(つらくてもおかしくなかったのに、楽しくって仕方ない記憶しかない。仕事もバカンスも。それこそ家族より濃密な日々だったかも)


 その頃のワクワクが戻ってきている。既視感の強さに戸惑うほど。それくらいの難敵だった。


「ほんとーにこのままでいいのか、シータ?」

 ジェリコが訊いてくる。

「こら! レイディになんて失礼な。せめて部長補佐と呼べ」

「いいのよ。ありがとう、オレガノ」

「シータがそう呼んでもいいって言ったんだぞ?」


 彼女のチーム『ピースウォリアーズ』を集めての最終ブリーフィングである。ジェリコはメンバーの一人。対ツインブレイカーズの準決勝を明日に控えての打ち合わせだった。


「一人くらいはスナイパー呼んだほうがよかったんじゃないかって思ってな」

 ジェリコは似合わず心配性である。

「だったら、あなたが入れ替えメンバーよ、ジェリコ」

「冗談だろ、フューイ?」

「成績見れば明白でしょ。撃墜数最少は誰?」

 女性パイロットにからかわれている。

「んな、運任せの数字で決められて堪るか」

「そうかしら。あたしたちの評価ってそれがメインじゃない?」

「状況的にそんなんじゃ変だろ、キュロム? 障害物だらけの場所での遭遇戦がほぼなんだからな」


 星間(G)平和維(P)持軍(F)パイロットの彼らにとって撃墜数とは主に演習時の成績である。犯罪者撃破数で評価されたりはしない。むしろ検挙数のほうが評価対象。

 普段はガンカメラ解析でどれだけ効率的に動けていたかが査定される。なので、どう動けば有効かを考えるだけで、敵の撃破を目的とした軍事行動を重視しない。それが宇宙警察としての彼らの日常。


「シータが飛ばしてる索敵ドローンの情報、入ってきてんじゃん」

 諭されている。

「それ参考にして、ちゃんと行動してれば効果的な状況作れなくない?」

「お前もか、メンメ」

「だって、ジェリコはカシナトルドのパワーに浮かれすぎ。冷静さがない」

 女性陣三人全員からの不評を受ける。

「試合じゃなきゃ羽目外せないだろ。任務じゃ民間の安全確保とか、捜査情報取るのに犯人の命のことまで考えてやらなくちゃならないんだから」

「お、わかってた」

「うるせー。そもそも、こいつらがシータをシータって呼んでんの、なんで注意しねえんだ、オレガノ!」


 口では敵わないと思ってか矛先を変える。しかし、オレガノは小揺るぎもしない。


「女性同士は親しみが含まれているからだ」

「オレだって親しみ込めてるって!」

 口調には情けなささえ込められてきた。

「親しみよりいやらしさのほうが込められてない? シータに気に入られたくて」

「あら、そうなの、ジェリコ? それは年甲斐もなくときめいちゃうわ」

「ちっがーう! 尊敬のほうだ、尊敬!」

 目をうるませて「残念」と言い添える。

「いや! シータは美人つーか可愛いと思うけど二十近くも上だし」

「誰があんたみたいなお子ちゃま相手にするって思ってんの? 冗談に決まってんじゃん」

「本気で殴っていいか、メンメ?」


 話の肴にされているジェリコは顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。そんな人間だからチームのムードメーカーとして不可欠のメンバーだった。


「冗談はこれくらいにして」

 カルメンシータが前置きするとジェリコは「う!」と胸を押さえる。

「対ツインブレイカーズ戦の対策を考えましょう」

「はい、レイディ。全員、傾聴」

「これがヴァン・ブレイズとレギ・ソウルの動作分析結果。メリルと一緒に一通り解析したわ」


 重量などの公表スペックから、戦闘映像より抽出した出力予想まで。ホライズンを含めた全てのデータをメンバーに見せていく。


「これは、事実ですか? 疑っているのではございませんが」

 オレガノまでも息を呑む。

「ご覧のとおり。おそらく一連のアームドスキンには同じ駆動機が搭載されているわ。それが、どこから出てきたものかなんてのは今は関係なし。イオンスリーブと同等かそれ以上にパワーがあって軽量な駆動機が存在するってこと」

「兵器廠を上回ってるってことですよね? にわかに信じられない」

「うちのエンジニアの目はそういう結論をはじき出したの」

 フューイも眉を寄せる。

「民間で開発したものなら意気揚々と発表しそうなものですよね? どこかの企業はそれで赤っ恥をかいてしまったけど」

「あそこはね。先走りが過ぎたわね。過信していた」

「極秘裏に開発する意味は?」


(当然の疑問ね。でも、向こうにゼムナの遺志がひそんでるからなんて彼らに言うわけにはいかないし)

 彼女もマチュアから聞いている。


「不明。でも、そういうものだと思って対戦するしかないの」

「了解です、レイディ」


 オレガノの反応は一番軍人っぽいとカルメンシータは感じた。

次回『エンジニアの目(2)』 「本気でいかせてもらいます」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 操者・コマンダー・エンジニア・観客、 それぞれの見え方。
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