異常事態(2)
メンバー全員を前にメリルは「これを見て」と試合映像を流す。それを目にした選手たちは首をかしげた。
「君たちには特に印象的なシーンだったはず」
「それはそうですが」
ウィーゲンが代表して意見する。
そこにはチーム『コーファーワークス』のイオンスリーブ搭載機『イオノインカ』がヴァン・ブレイズを押し潰そうと前のめりになる様子が流れている。そして、反り返った赤いアームドスキンがそこから押し返す姿も。
「フラワーダンスの攻略法を伝授してくださるものと」
「いいえ、欲しいのは意見なの。続けてこれも見て」
フラワーダンスが七回戦準々決勝で四天王『ナクラマー1』を撃破した試合映像だ。ビームランチャーをかまえた『二刀流』が剣士顔負けの機動で迫り、直撃を奪うシーンが切りだされている。
「このステップインのスピードを憶えておいて」
もう一度スロー再生させた。
「目に焼き付けました」
「で、こっち」
次に流したのはツインブレイカーズの試合映像。ヴァン・ブレイズが恐るべき速度で相手に迫るもの。意図的に似たものを抽出してあった。
「これは……」
「ほぼ同じでしょう?」
「はい」
「次はこれ。流星杯決勝で『ゾニカル・カスタム』に勝ったときの。ちょっと姿勢が違うけど勘弁して」
赤いストライプを施されたホライズンが回避するターンからのステップインで間合いを詰めた映像。ステップの蹴り足がよく見えているので選んでいる。
「若干遅く見えない?」
メンバーは目を合わせながら頷く。
「このときの推定出力がこれ」
「出力値としては平均だと思われます。脚周りの柔軟さから生みだされた結果ですよね?」
「そうよ。じゃあ、こっちは?」
最初のステップインのスロー再生と推定出力を表示させる。
「こんなに上がってるんですか!?」
「単なるカスタマイズの結果に見える?」
「まさか……。ヴァン・ブレイズと比較したのは?」
「わかって?」
投影パネルを二つにする。それぞれにヴァン・ブレイズのものとホライズンのもの。推定出力もバー表示された。
「同じ、だとは」
絶句している。
「これは桜華杯一回戦のフラワーダンスの試合。なんだか気にならない?」
「らしくないといえばそうですけど」
「ペース配分と呼ぶには少々ぎこちないでしょ? はっきり言ってお粗末」
ジャンプした青ストライプのホライズンが障害物に嫌われて踏み外している。明らかに力の加減を失敗していた。
三次元スナイパーの異名を持つサリエリ・スリーヴァの機動とは思えない。そんなシーンがフラワーダンスメンバーの挙動から幾つも読み取れる。
「流星杯から桜華杯の間に大規模なカスタマイズが行われたとおっしゃりたいのですね?」
ここまで材料を出せばウィーゲンも言い当ててくる。
「それはヴァン・ブレイズと同等の性能を引きだすものだと?」
「もっと言えば同じ物。つまり同じ駆動機が導入されたと思っていいわ」
「悪い冗談です」
彼は眉根を揉む。
「ヴァン・ブレイズの公開されている分のスペック。細身の機体とはいえ重量が軽すぎると思わない? イオンスリーブと変わらない軽量化もなされているわ。スペックの更新はされてないけど、わたしの予想だとホライズンも似た数値になってるんじゃないかしら」
「私たちは五機のヴァン・ブレイズと戦って勝ち抜かねばならないんですか?」
「そうねぇ」
ツインブレイカーズと優勝を争いたくばそれしかない。ただし、不安材料ばかりでもない。
「五機だけどパイロットスキルはツインブレイカーズと比べるべくもないわね」
フラワーダンスを分析する。
「確かに」
「フラワーダンスは元々タクティカルチーム。ワークスチームとしてホライズンに乗り換えによる機体性能の底上げとかコマンダーの参入で強くなったんでしょう?」
「そうか。彼女たちはツインブレイカーズと全くスタイルが違う」
「おわかり?」
メンバーの目に光が戻ってくる。
「はい。我々と同じタクティカルチーム。それならば軍務科の女神たるあなたを奉ずる……」
「奉ずるはやめて。せめて擁するって言ってくれない?」
「すみません。あなたが率いる我々のほうが有利なはず」
照れくささが限界なので訂正する。それでもウィーゲンたちの過信は収まらない。
「彼女たち相手では、わたしも確実とは言えない。だから作戦を立てる材料が欲しいの」
この協議の本題に入る。
「みんな、ヘヴィーファングをどこまで動かせる?」
「試合までに完璧に仕上げてみせます。せっかくメリルがあれの搭載までこぎ着けてくださいましたので」
「ええ、ヘヴィーファングにはディスクも搭載されてる。その分操作感がずいぶん変わってるはずよ」
フラワーダンスを笑っていられない。イオン系駆動機に苦戦したのは彼らも同じなのである。
「つまり条件は五分。戦術的にはメリルがいらっしゃるのでリードしている。あとは我々がどれだけヘヴィーファングを使いこなせるかということなのですね?」
「おそらく勝負の分かれ目はそれ。勝ちたいのなら理想論でなく現実的なデータが必須なの」
「了解いたしました。皆、自身が思う現在の限界をコマンダー殿にご説明しろ」
メリルはメンバー全員からヘヴィーファングの感触を聞き取った。
次回『エンジニアの目(1)』 「それは年甲斐もなくときめいちゃうわ」




