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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
波乱の桜華杯

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236/409

異常事態(1)

「お会いになられましたか?」

 ユナミ・ネストレルは副局長に尋ねられる。

「ええ、ちょうどあの方もおられましたし、ミュウ君もほぼ回復していましたし、頃合いでした」

「調整した甲斐がありました」

「ご苦労さま」


 本当は彼、アレン・アイザック副局長もメルケーシンのことでユナミを煩わせたくはないと考えているのだろう。いかんせん、ゼムナ案件に関しては地域統制の一言では語れない重要度である。直接肌で感じられるなら出向きもする。


「しかし、星間()管理局()興行部()のコンテンツがこれほどの波乱を起こしてくれるとは思ってもいませんでした」

 アレンは渋面になる。

「ゴート宙区への警戒感を薄めるために技術発展を促すべく企画させたはずなのに、蓋を開けてみれば底上げどころか地殻変動を起こしてます。勘弁してほしいものです」

「そうね。それが星間銀河圏の技術ベースで行われるのなら歓迎すべき事態ですけど、裏側に彼らがいる陣営同士で競っている状態ですもの。困ったものです」

「件の少年のあれにしたって、司法部特許課が再現性確認だけで右往左往する羽目になりました。ステージを一足飛びに上げるようなものです」

 それを誘発する一因を作ったのが本部だとクレームが来たという。

「まだまだ技術発展などゼムナの遺志の意のままということです。タンタル事案で危機感を抱いた彼らの動きの活性化がここに収束してしまったのかしら」

「迷惑極まりないのですが」

「あきらめなさい。我々でコントロールできねば銀河は混沌の渦に放り込まれます」


 まだ開示が彼らの制御下にあるうちはマシなほうだと考えている。もし、管理局の統制が不可能だと判断されようものなら、予想だに怖ろしい事態を招きかねない。


「結果としてクロスファイトの桜華杯はイオンスリーブとあれの直接対決の舞台になってしまったわけですか」

 ため息を交えている。

「あの方も計画したものではないと断言なさいましたよ。単に流れとしてそうなってしまっただけと」

「時流に翻弄されているんですね。彼らのいう『時代の子』の力なんでしょうか?」

「そのほうが精神衛生的にいいかもしれません。そういうものだと受け流すくらいでちょうどいいのでしょう」

 助言するが、副局長の悩みが解消するわけではない。

「みっともない対症療法でもご勘弁ください」

「咎める権利などありませんよ。あなたはよくやってくれています、アレン」

「この地位にくるまで自分はかなり優秀な部類の人間だと思っていたのですが、どうやらそうでもなかったみたいです。自信がなくなりますよ」


 ユナミは悲しげな副局長をくすくすと笑う。三十代の若さで本部の副局長にまで上ってくるのは十二分に優秀だ。それなのに振りまわされている自身が許せないのも若さゆえだろう。


「静観しましょう。なるようにしかなりません」

「わかりました。一大スペクタクルが集約された、あのちっぽけなドームを眺める観客だと思いますよ」


 ときに諦念も人を強くするとユナミは知っていた。


   ◇      ◇      ◇


「またもや番狂わせぇー! 急造チームの『ギャザリングフォース』が四天王『フローデア・メクス』を撃破ー!」

 リングアナの絶叫もピークを迎える。

「ベスト4に四天王が不在という異常事態が到来です! しかも、なんと全4チームがAAA(トリプルエース)クラス以下という大波乱! ハイベッド投票権(チケット)が大暴騰しております!」


 試合終了後の配信ニュースの内容である。現場にもいたメリル・トキシモは満足げに眺めていた。


「ご覧のように桜華杯準決勝以降の組み合わせが確定しました」

 入れ替わってAIナビゲータの自動音声が伝える。

「勝ち残ったのは順に『ツインブレイカーズ』(エース)クラス、『ピースウォリアーズ』AA(ダブルエース)クラス、『フラワーダンス』AAA(トリプルエース)クラス、『ギャザリングフォース』ノービス1クラスとなっております」


 最高位がフラワーダンスのAAA(トリプルエース)という前代未聞の事態。ファンのコメントは大荒れに荒れている。


「準決勝七回戦は来週末トリアの日にツインブレイカーズ対ピースウォリアーズ、レーネの日にフラワーダンス対ギャザリングフォースが行われます。皆様、楽しみにお待ちください。以上、ナビゲータの『ライブラ』がお伝えしました」


 クロスファイトニュースが終わって自動的に投影パネルが閉じる。メリルはコンソールのチェアを回して向き直った。


「まずはご苦労さま。みんな、見事な戦いぶりだったわ」

 戦い終えたメンバーを労う。

「いえ、あなたの指揮のお陰です、メリル。実質、フローデア・メクスになにもさせない展開でした。我らは筋書きどおりに動いただけですので」

「それができるのが君たちよ。選抜に応えてくれてありがとう」

「お褒めにあずかり光栄です」

 ウィーゲンが腰を折る。


 経験値では比べようがない四天王チームが相手である。シナリオを描いてそのとおりに動かさねば勝ち目はない。

 そのシナリオもイオンスリーブのパワーを加味してのもの。従来のジェルシリンダとは違う、癖のある駆動性に対応してくれたメンバーの力も大きい。


「ツインブレイカーズに雪辱を果たすにはフラワーダンスを倒さねばならないわ。その方策を立てましょう」


 メリルも次のフラワーダンス戦はこれまでどおりにはいかないと考えていた。

次回『異常事態(2)』 「こんなに上がってるんですか!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 荒れ(番狂わせ)てるなぁ!?
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