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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ゲームチェンジャー

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234/409

ブルートゲーム(5)

 ミュッセルが残った砲撃手(ガンナー)を追い詰めて撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪った同時期にグレオヌスも二機を仕留めている。リングアナのコールがありゴングが連続して打ち鳴らされて試合終了が告げられた。


「桜華杯を席巻していたイオンスリーブ搭載機チームを最初に撃破したのはチーム『ツインブレイカーズ』だったー! 恐るべき少年たちがベスト8に一番乗りです!」


 アリーナの投票権(チケット)購入組は一喜一憂している。割合で半々くらいなのは彼らの人気とイオンスリーブの発表の衝撃が同等だったのだろう。


(ま、ここまでの結果見ても十分にゲームチェンジャーに足る性能を発揮してると感じるのは当然か)


 実際にイオンスリーブ搭載機を擁する3チームが全て残っていた。その一角を二人が切り崩した形である。


「やりやがったなー! 今度こそ負けると思ったのによー!」

「うっせー! 俺たちに賭けねえてめぇの勘を恨め!」


 ヤジもクロスファイトドームの花である。ミュッセルはいつもどおりブレストプレートを跳ねあげて開放するとパイロットシートから立ちあがって怒声で応じる。お互いに半笑いなので茶番なのは誰にでもわかっていた。


(五回戦は今日だけでまだ三試合も残ってる。さっさと仕舞うか)


 あまりゆっくりしているのは迷惑だ。そのまま(ノース)サイドに向かって恒例のウイニングロードを歩いていく準備に入った。

 ところがその瞬間、意識に金線が走る。戦気を示すものだ。とっさにシートに尻を落とすが、すでにフィットバーから腕を外していた分遅れた。差しだした腕のブレードスキンがかろうじて力場刃の斬撃を阻む。


「な……にぃ!」


 斬り掛かってきたイオノインカの姿にさすがのミュッセルも驚愕した。


   ◇      ◇      ◇


 接続不良でノイズだらけのモニタを眺めているような感覚だった。なにがなんだかわからなかったが徐々にノイズが薄れてくる。

 オネアスはそこで一気に覚醒した。後ろ向きに倒れたパイロットシートに座ったまま。視界の隅には真紅のアームドスキンが立っていた。


(しまった! 意識が飛んでいたのか!)


 慌ててイオノインカを立たせる。モニタの隅になにかの文字があるような気がするがそれどころではない。負けられない試合の真っ最中なのだ。


「な……にぃ!」


 一足に駆け寄ってブレードで斬り掛かる。そのときになって振り返ったヴァン・ブレイズのブレストプレートが開いてパイロットシートが突きだされているのに気が付いた。


「あ?」

「くぅ!」


 赤い腕がかかげられて力場の薄膜でブレードが止まっている。そこで初めてモニタの文字が「敗北(ルーズ)」なのが読めた。彼はすでに敗北し、退出用に再起動が許可された状態だったのだ。


「しまっ!」


 赤毛の少年はヘルメットも被っていない。それなのに彼の放ったブレードは力場干渉を起こして紫電と火花を散らしている。


「目ぇ、覚めたかよ……」

「お、おい!」


 瞠目するオネアスの前でミュッセルはうなだれ、パイロットシートから崩れ落ちそうになっていた。


   ◇      ◇      ◇


 試合終了後の事故は目まぐるしく展開する。ミュッセルはレギ・ソウルのパイロットによって助け降ろされ搬送されていく。

 凄まじい火花に生身では耐えられない。コクピット内だから格闘戦もできるのだ。それでも、もしヘルメットを被っていたなら軽症ですんだかもしれない。


(意識が飛んでたとはいえ、ひどいタイミングだった)

 猛省している。


 勝たなければという意識ばかりが先走った試合なのは事実である。しかし、そんなのは言い訳にもならない。

 セーブモードでも力場刃(ブレード)は十分に人体に危害を与える。オネアスは危うく人を殺すところだったのだ。


(最悪だ、僕は……)


 幸い、命に別状はないと聞いている。ただし、重症なのは間違いない。処置中の病院に駆けつける。謝罪しなくてはならない。


(謝って許されるようなことじゃないが)


 教えてもらった処置室の前の廊下には狼頭の少年がいた。彼の姿を見るなり大股で歩み寄ってくる。胸ぐらを掴まれると吊りあげられた。


「どの顔でここにきた?」

 震えあがるような怒気が吹き付けてくる。

「わかっている。でも、せめて謝罪を……」

「黙れ。もしミュウの目に後遺症が残るようなら、貴様はこの銀河を戦争に陥れた人間になるかもしれないんだぞ?」

「う……」


 あまりに極端な話である。しかし、まだ少年の言うこと。彼らにとっては目の前の人間関係が全てなのだとしても変ではない。


「すまない」


 他に言葉がない。彼の犯した罪はあまりに大きく、決してあってはならないことだった。


「謝ったって!」

「おやめください、グレイ」


 メイド服の美女に制止されている。彼女に続いてやってきたのはミュッセルの両親であろうか。壮年の男女が難しい顔で後ろにいた。


「今日のところはお帰りください。後日、ミュウが目覚めてから申し開きを受けますので」

 美女の銀眼に促される。

「はい、どうもすみませんでした」

「もう来るな!」

「グレイ!」


 深々と頭を下げて引き下がるしかなかった。とても両親の様子をうかがうことなどできない。罵声を浴びせられていないだけマシな状況である。


(なんてことをしてしまったんだろう)


 オネアスは打ちひしがれて管理局病院をあとにした。

次回エピソード最終回『リングの掟』 「なんとお詫びすればいいか……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 未熟故の……。
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