ブルートゲーム(4)
「ブレードも似たようなもんだろ?」
ミュッセルはオネアスに説明を続けている。
「あれだって腹の面を叩きつけたって斬れるもんじゃねえ。刃を形成している部分を正確に当てるから斬れる。だがよ、確実を狙うなら剣の芯と刃先を通さなきゃなんねえ。刃筋を立てるってやつだな」
剣闘術にもそんな技術があるらしい。初耳である。アームドスキンパイロットなど、そんな技術に触れずに来ている者が大多数だろう。
「そいつをずらしてやる。すると、あんなふうに抜かれて泳ぐ羽目になるって寸法だ」
力のベクトルが作用せず逸らされる形になるとわかった。
「それを機体全部でやってるのか?」
「おう、俺はな」
「そんな難しいことを」
オネアスには想像するのも困難だ。力点とベクトルを瞬時に察して動作させねばならない。
「だから言ったろ? 芯を作る技術のほうが大変なんだ。それが身体に染み付いてりゃ、抜くのは逆をやるだけじゃん」
「どうしてわざわざそんなことをする。レングレンのように弾くほうが楽なんじゃないか?」
「お前の『押し込み』の攻略法だからに決まってる。完全に無効化したろ?」
反論しようもない。ミュッセルの言うことは実に理路整然としている。彼の理系としての思考形態にも沿っていた。
「こいつがお前が仕掛けてる野蛮な駆け引きへの答えだ。面白えだろ?」
「こんな方法が……」
力任せの攻撃手段なのはオネアスも理解している。イオノインカのパワーを活かす最適の手段だとも思っていた。しかし簡単に見抜き、攻略法まで準備してくるとは考えてもいなかった。
(ツインブレイカーズ、この少年たちは本物だった)
改めて思い知らされる。
(しかし決定的な手段ではない。躱すための方法でしかないんだ。つまり、イオンスリーブの理論が否定されたわけじゃない)
パワーを活かす方法を別に編みだすしかない。必死に考える。
(まともにやり合っては彼らのパイロットスキルには敵わない)
間違いないと覚った。
(ならば押さえ込むまで。野蛮だというなら最後まで貫き通せばいい)
「コルゴー、ヴァン・ブレイズを押さえろ。力任せでいい」
指示する。
「リーダー、それはいくらなんでも」
「みっともなくてもなんでもいい。我らは勝たねばならないんだ」
「やれるもんならやってみやがれ!」
ミュッセルが吠える。牽制の斬撃は弾かれ、掴み掛かる腕も蹴り飛ばされた。ストンと落ちた赤い機体がガニ股でかまえる。まさに蹴り足から重心、打撃点までの芯が作りあげられていた。
「コルゴー!」
「げえっ!」
突かれた肘が正確に胸の中心を捉える。凄まじい打撃音が鳴り、イオノインカが突きあげられて浮く。それだけの力が伝わっていた。跳ね飛ばされた機体が背中から落ちる。
「バイタルロストぉー! ノックダウーン! 最初の犠牲者はコーファーワークスからだぁー!」
リングアナが絶叫する。
「まだだ! 僕が押さえ込む! オジフ、確実に狙え!」
「いい足掻きだ。こっちも手の内見せてやる。サービスだぜ?」
少年は不気味に言ってくる。
両手のブレードを突き入れる。やはり抜かれて逸れるが気にはしない。ブレードグリップをあっさりと手放して掴み掛かった。
「こっからイオンスリーブの弱点講義だ」
「なに?」
大きく反り返りながらも、ヴァン・ブレイズの手がイオノインカの両手首を握っている。掴む前に掴み返されていた。
「確かにジェルシリンダどころじゃねえパワーだ」
イオノインカの手は真紅に塗色されたショルダーユニットの手前。その空中で止まってしまっている。
「でもな、ヴァン・ブレイズを押さえ込めるほどじゃねえ。足りてねえんだ。なんでだと思う?」
「そんなことはない!」
「お前が一番知ってんだろ? イオンスリーブには回転力を生みだす仕組みがねえんだよ。たぶん屈曲に耐えられねえんだろ。シリンダロッド構造しか作れなかったんじゃね?」
正鵠を射てくる。
「言うな!」
「従来の常温超伝導モーターパックの補助としてイオンスリーブロッドを配置してる。パワー補助しかできてねえ。だから、どうしてもトルクが不可欠の箇所でパワーが落ちる。例えば肩とか手首とかな」
「ぐうぅ!」
上から押さえようとするイオノインカ。それに抵抗するヴァン・ブレイズ。その拮抗には肩のパワーが主に用いられる。
「まさか……」
「おう、そのまさかだ」
ヴァン・ブレイズは力任せに押さえられて反り返った姿勢から押し返してきた。今や、両者とも立ち姿勢になっている。
「あり得ん!」
「認めろ。パワー勝負でも負けてねえんだよ。俺様はそんな機体は作らねえ。見せてやんぜ」
今度はイオノインカが反り返る羽目になっている。完全にパワーでも負けているのだ。
(そんな駆動機がどこに?)
唖然とする。
「おらぁ!」
ヴァン・ブレイズに頭突きされる。
「落ちやがれ!」
モニタにノイズが入った瞬間に突きあげるような衝撃が襲ってきた。膝蹴りが連続して打ち込まれ機体が宙へ。
「っりゃあ!」
下からの掌底がまるで貫くが如く伸びてくる。回避手段がないまま、凄まじい衝撃がコクピットを貫いた。
(馬鹿な。僕のイオンスリーブが負けるわけが……)
どうにか手放さないでいられたオネアスの意識はそこで途切れた。
次回『ブルートゲーム(5)』 「な……にぃ!」




