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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ゲームチェンジャー

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ブルートゲーム(3)

 オネアスがイオノインカのパワーを最も有効に用いようとするなら両手剣にするのが効率的だとテンパリングスター戦で覚った。

 基本、片手持ちの形状をしているブレードグリップ。片腕のパワーだけで十分に効果は高い。手数を増やせばなおさらだ。


(急増な分、慣れていないのは本当だとしても)

 奇妙に思った。


 ヴァン・ブレイズ相手に容易に機体を泳がされてしまった剣士(フェンサー)のコルゴー。まだパワーの有効活用に慣れていないかと考え援護に入る。要は逃さないように強引にでも力のベクトルを変えてやればいいだけの話。

 ところが割って入った彼のイオノインカまでもまるで空振りしたかのようにつんのめる。気づけば真紅のアームドスキンに後ろを取られて蹴り倒された。


(なぜだ?)


 即座に立ちあがる。その頃にはコルゴーも立て直していて反撃している。しかし、またもや泳がされて姿勢を崩すと腹に打撃を喰らっている。

 間を開けずオネアスも反撃に移るも、やはり腕で受け止められている斬撃が抜けていく。接触して紫電まで散っているのに反動をほとんど感じることなく前のめりになってしまった。


「なにがなんだかわかんねえって感じだな」


 隙間に挟まれたオジフの狙撃を腕の力場で弾き飛ばしながらミュッセルが言う。攻撃が不発に終わったあとに残る明らかな隙が戸惑いを表してしまっていた。


「きっちり抜いてやってっから感触がねえだろ?」

「抜く?」


 少年がなにを言っているのか理解できない。彼が意図的にやっているのだけがわかった。


「お前がレンを相手にやってたやつ。技としては『押し込み』ってんだ。変化して受けきれなくする『崩し』の一つだな。意識はしてねえんだろうがよ」

「崩し……」


 戦闘技術、絞っていうなら格闘術の一つらしい。彼もミュッセルが格闘技習得者なのは知っている。


「普通にやってりゃそこまでたどり着かねえ。ブレードってのは当てるだけで効果が出る。上手に振れば十分有効な武器だかんな。でも、確実に優位に持ち込もうとしたら『崩し』ってのはフェイントと並んで要の技になる」


 再び突撃するも大した感触もなく通り過ぎてしまった。足を掛けられてたたらを踏む。足腰のパワーだけでどうにか転倒は堪えた。


「ある程度のステージに上がると当たり前の必須技術だ。だから俺にもできるしグレイだって使える」

「なに!?」


 言われて振り向けば、レギ・ソウルとマッチアップしている剣士(フェンサー)のマッセのイオノインカも同じくつんのめるような動作をしている。撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪われていないのは、補助している砲撃手(ガンナー)のスクムルがカバーしているからに過ぎない。


「く……!」

「あっちの援護すっか? 別にいいぜ。俺がもう一機を瞬殺して挟撃すれば試合終了だ」


(言うとおりだ。まずはどちらか一機を確実に落とすべき場面)

 今の状態を変えないほうがいい。


 とは思うものの、コルゴーも彼もヴァン・ブレイズに有効な一撃を与えることができないでいる。それどころか合間に挟む狙撃で立て直す時間を稼いでいる始末。


「グレイがやってんのは剣筋をずらして抜く技だ。相手は刃筋が噛み合わずに滑ってるように感じてるはず」


 攻撃を受け止めているのにふわりふわりと受け流されているかのよう。まるで吊るされた紐に斬り掛かっているが如く踊らされている。


「こっちも似たようなもん」

「ブレードと同じことをできるのか?」

「できる。リクモン流なら特によ」


 コルゴーの突きはミュッセルのかまえた腕の甲を捉えている。そこから力の向きを変化させて胴体を狙っていた。受けきれなければ引くしかないベクトルを作っている。

 それなのに通用しない。するりと滑ったヴァン・ブレイズの機体が狙いを外し、残った腕だけが抜かれてパワーを逃された。


「リクモン流は芯を通すのが基本になる。打撃を最も効率的に伝えるためにな」

「芯とは?」

「本当は蹴り足から拳まで一直線を作るのが一番だ。が、実際はそうはいかねえ。身体をピンと伸ばす形なんて作ってらんねえじゃん」


 少年はゲラゲラと笑う。いくら有効でも現実には不可能だと説明する。


「だから蹴り足と体の重心、拳までを一直線に持ってって芯を作る。力点、支点、作用点を綺麗に並べるわけだ」

「作用点だと?」

「お前もエンジニアなら履修範囲だろ? 力学の基本じゃん」


 普通は「テコの原理」の用語だが力学的には別の意味もでてくる。構造力学上、荷重がどういう方向に掛かるかを計算するのに似たような考え方をするからである。


「構造体の重心が大事になってくる。得意分野だったんでリクモン流習得の役に立ったぜ」

「構造計算と拳法が?」


 全く違う分野なのに共通点があるという。言われてみれば切っても切り離せないのは理解できなくもない。どちらも物理に支配されているのに変わりはないのだ。


「アームドスキンの場合、蹴り足から重心、拳なりなんなりに芯を作る。そうして打撃力を最大限に上げてる」

「で、それがなんだという?」

「わかんねえか? 芯を作るのが得意だってことは芯を外すのも簡単だってことじゃん。仕組みを理解してんだからよ」


(ぐぅ、そういうことか)


 オネアスはミュッセルの巧妙な技に翻弄される理由を覚った。

次回『ブルートゲーム(4)』 「こんな方法が……」

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