ブルートゲーム(2)
人気や勇名の割にAクラスのチームが南サイドから入場する。さもありなん、ツインブレイカーズは初冬に登録し参戦したばかりのチームである。晩春の今、三つも上げているほうが異常だともいえる。
「なんと五回戦一番乗りはこのチーム! ツインブレイカーズ!」
印象的な赤と灰色がセンタースペースへと進んでくる。
「デビアカップを悠々と優勝してメジャー復帰した二人がまたもや本トーナメントまで勝ちあがってきた! どこまでいくのか、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか?」
歓声に腕を突きあげて応えるアームドスキン。その動作までもが自然でオネアスは違和感を覚える。なにか見落としているようでいけない。
(コルゴーが言ってたな。赤いほうは裏にヘーゲルが付いているんじゃないかって)
「『天使の仮面を持つ悪魔』! 『紅の破壊者』! ミュッセル・ブーゲンベルク選手の入場です! 乗機は『血塗られたスレッジハンマー』、ヴァン・ブレイズ!」
「てめぇの血で上塗りしてやろうか?」
「ご遠慮申しあげます!」
(ホライズンにはちょっと驚かされた。同じ技術を用いられているとすればわからなくもない)
ヘーゲルとの繋がりが深いのは周知の事実で彼らは隠そうともしていない。
「続くは『狼頭の貴公子』! 『ブレードの牙持つウルフガイ』! グレオヌス・アーフ選手! 乗機は『戦塵の剣と拳』、レギ・ソウル!」
「だんだん野蛮な感じになってしまうんですね?」
「トッピングの魔術師と呼んでください!」
灰色のほうは理解できる。彼とて『銀河の至宝』は尊敬しているし、彼女の手が入っている機体なら高性能でもおかしくはない。
(どちらにせよタイミングを見誤った。イオンスリーブ搭載機の評判に食われてしまっている)
発表当初のホライズンの評判は高かったが、いずれイオノインカに飲まれていくのみ。時流に乗りそこねたヘーゲルはアームドスキン産業から撤退を余儀なくされるかもしれないと思っている。
「次に北サイドからの入場はチーム『コーファーワークス』!」
彼らのコールがはじまる。
「話題のイオンスリーブ搭載機のチームはなんとジャイアントキリングを果たしたばかり彼らです! リーダーはオネアス・ピオン選手! 乗機はイオノインカ!」
テンパリングスターを下した結果、それなりにファンは付いたようである。心地よい応援の声のシャワーに平手をかかげて応えた。
(いずれ先見の明があったと知ることになる)
センターへと歩みながら思う。
(時流というのは情け容赦がない。管理局が協力を仰いだ、つまり彼らが認めた企業こそが時代の先頭を歩むことになるのだ)
メンバーのコールを聞き流しながら分析する。四週間後の栄光は不動のもののはず。社運を懸けて全力を投入したイオノインカこそがイオンスリーブ搭載機最高峰だと信じていた。
「なあ」
センタースペースに集合したところで話し掛けられる。
「今までどおりの戦い方で俺様を倒せるとか思ってねえよな?」
「スペック的に不足はないと思っているが?」
「お前、没頭しすぎて目が曇ってね?」
呆れた色が混じる。
「失礼は若気の至りと思っておこう」
「そっか。んじゃ、試してみろ」
「無論」
立て板に水の応対で盛りあがらないままに終わる。アリーナ向けに表示されているパネル内の赤毛の少年は片眉を上げて不遜な表情だが気にするまでもない。
「なんとも不気味なしらけ具合です! 血の惨状がくり広げられないことを祈りましょう!」
「他人をなんだと思ってやがんだよ。同じエンジニアとして……、もういい。実践で教えてやんぜ」
「静かな怒りを燃やしている悪魔を止める術はありません! 飛び火する前にさっさと始めましょう! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
おかしな空気をかき乱すように試合が開始されてしまう。速攻に備えてかまえるも、ツインブレイカーズの二機は悠然と佇んでいた。
「準備はいいよな?」
「そちらこそ。後手を引くくらいのハンデはあげよう」
「でけえ口叩きやがる」
包囲戦が有効だと考えていたが、戦術担当のコルゴーは分断戦を提示してきた。混戦となるのは、素早い機動を得意とする敵に有利に働くと主張する。
これまでも数多のチームが選んできた戦術はセオリーに適っているという。混戦で砲撃手の手数を潰されれば数的有利がくつがえされると説明を受けた。
(まずは彼らに任せよう。各個撃破を狙うなら落としやすいほうに僕が加勢すれば確実だ)
そんな作戦を練っていたが、ツインブレイカーズの二人はあっさりと有利な状況を放棄した。ゆったりと歩みだしたかと思うと加速し、最初から打ち合わせていたかのようにそれぞれが分かれて向かってきている。
「マッセ、そっちに行ったレギ・ソウルを抑え込め。俺がヴァン・ブレイズを担当する」
「了解」
コルゴーが赤い機体の攻撃を受けにまわる。勢いを殺そうと放った先制の斬撃は腕にまとわせた力場に当たって紫電を撒き散らした。
(それでいい。あとはパワーで攻め立てれば行き場を失う)
そう考えていた。
「なっ!」
ところがコルゴーのイオノインカはいつの間にか泳がされている。脇腹に蹴りをもらってたたらを踏んだ。
(なにをしている)
オネアスは援護の必要を感じてヴァン・ブレイズへと駆け寄り攻撃を仕掛けた。
次回『ブルートゲーム(3)』 「できる。リクモン流なら特によ」




