ブルートゲーム(1)
「では最後に五回戦以降の本トーナメントに対しての意気込みをお願いします」
「意気込みですか?」
オネアス・ピオンは桜華杯チーム戦カテゴリの本トーナメント進出十六チームインタビューを受けていた。それは彼の虚栄心を十分に満たすものだ。
「これからも同じです。僕も開発に携わったイオンスリーブ搭載アームドスキン『イオノインカ』の性能を信じて、優勝目指して頑張るだけです」
「健闘を祈っています。ありがとうございました」
居並ぶ、ウェアラブルカメラを着けたインタビュアーに笑顔を振りまき一礼する。送りだされる背中に別の質問が飛んだ。
「四天王を撃破した今の気持ちをお願いします!」
「ツインブレイカーズに勝つ自信は?」
促されるままに退出する。全てに答えていればキリがない。
(テンパリングスターにも手こずりはしたが怖ろしさは感じなかった)
本心は口に出さない。
(残る四天王も相手せねばならない。ツインブレイカーズ? 通過点に過ぎない。思い上がった小僧たちなど眼中にない)
リミテッドクラスのチームでさえ残機が少なくなるとギブアップした。わずか二機でイオノインカ相手になにができるというのだろう。腕自慢だけでは限界がある。
最近の話題の中心なのは知っている。本部局長の信頼篤いとまで耳に入っている。しかし最後は数だ。イオンスリーブ搭載機チームの前には風前の灯である。
「大丈夫かよ、リーダー?」
メンバーを取りまとめてくれているコルゴーが尋ねてくる。
「なにがだ?」
「あの赤毛の小僧が俺たちとの対戦前コメントで『面白ぇもん見せてやる』とか言ってるぞ? 見破られてるんじゃないのか?」
「そんなわけがない。そもそも弱点ともいえない部分だ。信じていればいい」
彼らもイオノインカに乗っているので問題点は知っている。完璧とも思えるイオンスリーブにもできないことがあるのだ。
「対策されてるのはわかってるけどよ」
表情を濁らせる。
「専用に開発された機体だ。すでに最適化されている。君たちもその作業には協力したじゃないか」
「時間食った部分だけにな」
「問題にならない。意識するだけ無駄だ。イオノインカ五機を相手にたった二機でどうなる?」
不安を拭うだけの時間は使ってきたはずだ。
「わかっちゃいるんだが……、頭に残ってるんだ。怪物騒ぎのとき、大破したGSOのアームドスキンが現場にごろごろ転がってる中で、あの二人だけが立っていた光景がよ」
「やくたいもない。イオンスリーブが普及すれば星間保安機構も星間平和維持軍も怪物など敵ではなくなる」
「そうなのかもしれないけどな」
納得していない様子である。
怪物事件当時のオネアスはイオノインカの最終調整に忙殺されていた。機密保持のためにほぼ外界の情報を遮断していたのも事実。直接ニュースに触れることはなかった。
(なにが不安なんだ? 相手チームの研究などチームメンバーの仕事ではないか。欠かしていたとでも?)
彼は必要性さえ感じていない。
「それよりピースウォリアーズのスカウティングに注力してくれ。アームドスキン『カシナトルド』の出来栄えが気になる」
ライバルとして挙げられるとすれば開発部兵器廠のイオンスリーブ搭載機である。
「人をまわしてる。ちゃんとギャザリングフォースもチェックしてるからよ」
「『ヘヴィーファング』か。あれは専用に設計された機体ではないはずだ。導入されたとしても問題点の対策もされていない」
「厄介なコマンダーがいる。そっちが有名なんだ。変なとこで土を付けられちゃ敵わんだろう?」
コルゴーは機転と目配りで頼りになる男だ。戦術面は任せておけばいい。オネアスはリーダーとして大まかな判断と全体戦略を担当している。
「残った四天王チームの対策も都度ブリーフィングする。準備はしてあるからな」
「頼む」
「あんたの希望どおり優勝までの筋道を考えてる。コーファーからの要請でもあるしよ」
目標は同じなので齟齬はないとオネアスも考えていた。
◇ ◇ ◇
「さあ、いよいよ桜華杯五回戦、本トーナメントが開始されます!」
リングアナが宣言する。
「進出十六チームには四天王の面々、さらには前メジャー覇者のフラワーダンス、番狂わせを得意とする異色のツインブレイカーズ、そして桜華杯に旋風を巻き起こしているイオンスリーブ搭載機を擁する各チームが群雄割拠の様相を呈しております!」
煽りながらも的確な説明も交えてのコメントが飛ぶ。アリーナは俄然盛りあがっていた。
「フォッサムチェリーの花びらが膨らみを見せる中、いったい誰が栄光のカップを手にするのか!?」
歌うようにすらすらと語彙が並べられていく。
「私にも全く予想がつきません! お集まりのファンの皆様も困惑を隠せないのか、ハイベッド投票権のオッズも混迷の度合いを示しております! 果たして勝利の女神はどのチームの肩を押しているのでしょうか? それがこれからの四週間で明らかになっていくと思うと楽しみでなりません!」
(そんなに難しい話じゃない。桜華杯はイオンスリーブお披露目の舞台でしかなかったんだからな。つまり優勝するのは……?)
北側の待機スペースでオネアスはほくそ笑んだ。
次回『ブルートゲーム(2)』 「だんだん野蛮な感じになってしまうんですね?」




