表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ゲームチェンジャー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

229/409

躍進の光と影(3)

(あくまで逃がし逸らすつもりだな)

 アームドスキン『イオノインカ』を正当に評価しているともいえるとオネアスは感じた。


 しかし、足りない。機体に組み込まれているイオンスリーブは攻撃に用いる部分だけではないのだ。当然、足腰の駆動系にも導入されている。無理に体勢を入れ替えるほどのパワーはある。


「これほどなのかい? 難しいなぁ」


 レングレンは機体の重心をずらすような足捌きをしている。パワーを受け止めない部分は体捌きで力を逃がす気なのだ。それにオネアスはついていく。


(逃がすものか。ここで押し切ってこそアピールになるのだ)


 股関節や膝のスライド式イオンスリーブが比類なき力を生みだしていると頭の中では想像できる。一個一個は長さわずか7ミクロンの構造体でしかないが、それらが躍動してとてつもないパワーを生む。


(レッチモン社製のジェルシリンダでは負荷に耐えられない。すでに過熱を始めているはず。だが、イオンスリーブにそんな弱点はない)


 慎重に、かつアクティブに力の方向を動かしていく。それだけの精密制御がイオノインカには可能なのだ。オネアスが苦労して編みだしたイオンスリーブ駆動機の配置とベクトルが実現している。


「理解できたなら結果も見えるな?」

「そうもいかないさ。四天王の名が泣く」

「では、これであきらめてもらおう」


 敵の砲撃手(ガンナー)に横槍を入れられないよう近接状態を維持する。あとはチームの砲撃手(ガンナー)に牽制させておけばいい。

 だが、時間を掛けすぎたきらいがある。機体システムが別の敵の接近を警告してきた。数的劣勢が痛い。


「いつまで続けられるかな?」


 彼がテンパリングスターのトップエースであるレングレンを落として劣勢を取り戻そうとしたように、相手もオネアスを落とせば雌雄は決すると感じたようだ。剣士(フェンサー)一機がこちらに振り向けられた。


「それでもイオノインカは負けはしない!」

「強がりはよしておきなよ」


 のらりくらりと攻撃を逸らしつづけるレングレン。接近してきた剣士(フェンサー)がブレードをかまえて背後から迫る。異様な集中力がオネアスを包み込んだ。

 後方(バック)ウインドウに走る光刃。彼の斬撃は力を逃されレングレン機を捉え損ねる。泳ぐイオノインカは絶体絶命の状態。


「うおおっ!」


 かがんで後ろからの横薙ぎを躱す。瞬時に反応したイオンスリーブが伸びあがるパワーを生みだす。前のめりになった背後の機体を肩に乗せて突きあげた。

 浮いたアームドスキンをさらに腕で突き放す。胸に向けてブレードを突き入れる。絡め取ろうとする敵の動きをものともせずパワーだけで押し込む。ブレードが腹部を貫くように接触した。


「ごめん、レン。落ちた」

「これはまいった」


 口ではともかく、あきらめていない。体勢を崩したイオノインカにレングレンが躱しようのない一閃を放とうとしている。時間の引き伸ばされた意識の中でそれが見えた。


(やられはしない!)


 伸ばした足が地面を喰む。無理に蹴って振り返らせつつブレード同士を絡めた。逸らすパワーを出力してくれるイオンスリーブを信頼して踏みとどまる。

 予想外の反撃に泳ぐレングレンのフィックノス。右手のブレードで一撃を跳ね飛ばすも、そこから返していては間に合わない。オネアスは左手にもブレードを握らせた。


「マジっ!?」

「もらったぁー!」

 左の突撃がレングレン機の胸部に突き立つように接触している。


「二機がほぼ同時にノックダウーン! イオノインカが凄まじいパワーで劣勢を押し返したー! なんという性能だ、イオンスリーブ! 完全にゲームチェンジャーと化しているぅー!」

 リングアナも絶叫する。


(まだだ!)

 闘争心に火が点いている。


 メンバーのコルゴーが対峙している剣士(フェンサー)に襲いかかる。トップエースを失い、一気に数的劣勢へと変じたテンパリングスターは脆かった。ギブアップさせるまでにそう時間を要しない。


「なんと、ここでジャイアントキリングぅー! チーム『コーファーワークス』が四天王を撃破ー! 本トーナメント進出決定だぁー!」


 オネアスは荒い息を吐きつつコールを聞いていた。


   ◇      ◇      ◇


「あらら、勝っちゃった」

 カルメンシータは苦笑する。

「どう思う?」

「いただけませんな。勝利しても、こんなお粗末な戦いぶりでは」

「イオンスリーブの駆動力におんぶに抱っこではね。うちの敵ではないかしら」


 答えたのは彼女のチームのメンバー、オレガノ・トットンである。苦虫を噛み潰したような面持ちをしていた。


「ご心配なく、レイディ。あなたに勝利を捧げます」

「楽しみにしてるわ」


 大柄な男に笑みを返した。


   ◇      ◇      ◇


 整備コンソールに腰掛けるマシュリの肩に腕を置いてミュッセルはライブ映像の投影パネルを覗き込んでいた。試合は予想に反してテンパリングスターの敗北。


「情けねえぞ、レン」

 ため息をつく。

「ですが、このパイロット、ゾーンに入っておりました」

「まあな。それまでとはぜんぜん違う動きをしやがった」

「モチベーションはかなり高いかと」

 警告してくる。

「気合だけで実力は伴ってねえ」

「確かに」

「それによ、こんな弱点さらしてんじゃ負ける気になんねえな」


 そんな会話が交わされたあとに発表された本トーナメント表で、ツインブレイカーズの次の対戦相手がコーファーワークスだと判明した。

次回『ブルートゲーム(1)』 「意識するだけ無駄だ。イオノインカ五機を相手にたった二機でどうなる?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 まだ性能を引き出せては?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ