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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ゲームチェンジャー

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躍進の光と影(2)

 ここまでの桜華杯の三戦と同じく速攻で押しきろうと考えた。ところがオネアスが思っているほど四天王チームは甘くない。柔軟に受け止められてしまう。


(驕り一つないのか? 研究されている)


 そうでなければトップチームであり続けることなどできないのかもしれない。弱気の芽が顔を出す。

 研究されているのは戦術だけではなかったら。イオンスリーブの弱点まで暴かれて攻略法を編みだされていたら。そんな思いが脳裏をよぎる。


(あり得ない。イオンスリーブは完璧なんだ)


 攻略法など存在しない。なぜならスリーブのイオン構造は作動液シリンダなどより機敏に反応し、過熱劣化などしないし微細な制御も可能で出力も大きい。それは開発者の彼だからこそ熟知している。


(無敵の駆動機だ。今後はイオンスリーブ搭載機でなくては時代遅れとなる)

 オネアスは予言できる未来であると確信していた。


「そんな弱腰で!」

「心外だな。戦略だよ」


 ブレードによる斬撃が受け流されている。軌道は逸らされ、致命的な隙が生まれてしまいそうだ。しかし、イオノインカならば取り返せる。泳いだ体勢を引き戻せるパワーがあるからだ。


「はあぁ!」


 空振りでさらしてしまった側面に斬撃が走る。オネアスは強引に腕を引き戻してブレードを振り抜いた。跳ねてきた力場刃をレングレンのフィックノスがこすり上げる。


「っと! これはすごい」

「こんなものではない!」


 跳ねあげたブレードを再び落とす。躱されようとも剣先を返して横薙ぎに変化した。レングレン機は退くばかりの防戦一方。オネアスはここぞと連撃を浴びせる。

 ブレードの力場干渉が紫電を散らせる。リングに連続して閃光がまたたく。派手さにアリーナが湧く。それが彼を高揚させた。


「激しい衝突が続くー! 意外にもコーファーワークスがテンパリングスターと同等の戦いを演じております! 恐るべし、イオンスリーブ!」

 リングアナの絶叫が耳に届いた。


(意外? 同等? そんなもので終わるわけが……)

 オネアスは意識を引き戻される。


 追撃を緩めメンバーの戦闘状況を目の端に捉える。確かにマッチアップが成立していた。彼がレングレンの機体と戦い続けているのと同様に。


(違う。誘導されているのだ。同等の戦いに引き込まれている)

 彼は気づいた。


 イオンスリーブのパワーや俊敏な追従性、駆動性を殺されて五分に持ち込まれていた。相手チームのパイロットスキルがそれを実現している。

 このままでは本当に五分の状態が続く。いなされている以上、テンパリングスターのアームドスキンの駆動部にはあまり負荷は掛かっていない。時間がメンバーのスタミナを削っていく。そして、パイロットのレベルでは劣っている。


(長引かせる戦術だ。時間を掛けられるほどにこちらが不利になる)

 巧妙に仕組まれた戦況だった。


「駄目だ、コルゴー! 相手のペースに嵌まるな! 強引にでも押し込め! イオノインカにはそれだけのパワーがある!」

「だけどよ、こいつら、ちょこまかと」


 空振りさせられている。それが彼らのスタミナを奪っていく。そして隙も生まれる。焦るほどに大きな隙が。


「く、急に!」

「っても、そんな狙えって言ってるような緩さじゃね」


 大振りしたメンバー、マッセのブレードが地面を削っている。イオノインカのパワーが災いして深々と突き刺さっていた。

 その間に側面を取られている。いくら分子をも斬り裂く力場刃でも剣の腹側へ振り抜くことはできない。引き抜く動作をしているうちに相手のブレードが忍び入っていた。


「ノックダウーン! ここでコーファーワークスに脱落者! 均衡が破れるー!」


 コーファーワークスは剣士(フェンサー)三機に砲撃手(ガンナー)二機の攻撃的な構成。前衛(トップ)が一機落ちると途端にパワーバランスは崩れてしまう。

 本来であれば障害物のない場所を避けてスティープルの中に戦闘の場を移すべき。それがセオリーでもある。


(いや、スティープルの林の中ではイオンスリーブの力は活きない。余計に相手にペースを持っていかれるだけ)


 瞬時に勘づいた。それもテンパリングスターの戦略である。隙を突いて不利と思わせスティープルへと誘う。しかし、そこはパイロットスキルこそが活きる場所。イオノインカのパワーを殺す場所。


「こうするのだ!」


 オネアスはレングレンの斬撃を弾きコンパクトな一閃を放つ。イオンスリーブの出力があれば大振りなど不要なのだ。当然、相手は力を逸らしにくる。

 しかし、彼はそこから変化させてブレード同士を噛ませた。競り合いに持ち込む。そこがイオノインカが真価を発揮するポイント。強引に押し込みにいく。


「っとぉ、やってくれるねぇ」

「罠に掛けたつもりだろうがそうはいかない」


 押せば退く。それがレングレンたちの策なのだろう。今回もまた力を逸らしにくる。だが、彼はそれを許さない。

 駆動力のアップがイオンスリーブのアピールポイントなのだ。相手の逃げ道を塞ぐように足腰のパワーも使って力の方向を変えていった。


「これは……、さすがというべきか」

「僕こそがイオンスリーブの力を十全に使える」


(やはりな)


 一度間合いを外したレングレンにオネアスは意図を察した。

次回『躍進の光と影(3)』 「理解できたなら結果も見えるな?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 新興勢力はそりゃぁ研究されるよね。
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