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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ゲームチェンジャー

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227/409

躍進の光と影(1)

 試合中継を見たあとミュッセルのニヤニヤ笑いが止まらない。グレオヌスは呆れ顔で肩をすくめる。


「急拵えっつってたが間に合ったみてえだぜ」

 美少女にしか見えない顔で腕組みしてニヤつくのはやめてほしい。

「フラワーダンスかい? そりゃ、あれだけ気合入ってたんだからさ」

「まだ硬えな。勝ち進んでくりゃこなれてくんだろ」

「今のうちに叩いておいたほうが楽じゃないか?」

 狼頭の少年にもリズムの悪さが見える。

「ばーか。美味いもんは一番美味いタイミングで食うにかぎるじゃん」

「始末に負えないな。歯が立たなくなったらどうする気なんだい」

「そいつが最高のスパイスに決まってんだろ」

 取り付く島もない。


 機を逸しつづけているフラワーダンスとの対戦。楽しみにしているのは級友の女子たちだけではないようだ。


「その前に桜華杯に吹き荒れてる台風の目を気にしたらどうかな?」

 イオンスリーブ搭載機が席巻しつつある。

「あの面白え女のとこか? いい味付けになりそうだが、こいつらもまだだな。この程度の走りで俺たちを食えると思ってんじゃねえ」

「まあ、実際に当たってみないと性能のほどはわからないけどさ」

「このまま熟してきたらそのうち当たる。そのとき味聞いてやりゃいい」

 本当に楽しそうだ。

「今に足元をすくわれそうで心配になるよ」

「そんときは後ろで襟首掴まえてくれ。お前ならできんじゃん」

「僕は君の安全装置かい?」


 真紅の少年は不安というものと無縁らしい。グレオヌスとて彼が思っているほど大人ではないし、自信に満ちているわけではないのだが。


(追いついていくのが精一杯で、転ばないようにしているうちにダッシュしちゃってる。ミュウといると暇をさせてくれないな)


 そんな生活も悪くないと狼頭を掻いた。


   ◇      ◇      ◇


 対峙しているチームの浴びる歓声は彼らとは桁違いである。コールの内容も成績を讃えるものがほとんど。四天王の一角ともなると悪ノリはない。


(険しい壁だがここを乗り越えなければ優勝の目はない)


 オネアス・ピアンが前にしているのはチーム『テンパリングスター』。アームドスキン大手レッチモン社の誇るリミテッドクラスワークスチームである。

 威風堂々とした佇まいに気後れしそうになるがそれではいけない。以前のように萎縮していれば勝ち目はないのだ。


(数値的にも性能差は一目瞭然だ。パイロットスキルに差があろうとも、コマンダーの質が秀でていようとも跳ね返せるだけの力がイオノインカにはある)

 そこだけは信じて疑わない。


「本トーナメントの予想をくつがえして三連勝を飾った躍進中のチーム『コーファーワークス』! 優勝候補筆頭格の『テンパリングスター』にどこまで食い下がれるか! それとも下剋上を果たしてくれるのか! 注目の一戦です!」


 前半戦折り返しの四回戦の抽選で四天王と当たるとは不運だとチームメンバーは嘆いている。しかし、オネアスは負けるつもりなど毛頭ない。むしろ、ちょうどいい試金石になると思っている。


(どうせ打ち破らなければいけない相手ではないか。怖気づいている余裕など我らにはない。優勝を義務づけられているようなものなのだ)


 イオンスリーブの性能評価であり結果がそれを物語る。負けるにしても同じイオンスリーブ搭載機でなければ道理に合わない。そうでなければ数年の彼の苦労は水の泡である。


「なかなかに暴れてくれているけど、このへんから上はそんなに甘くないよ。覚悟してもらえるかな?」

 軽口を投げかけてきたのはリーダーのレングレン・ソクラだ。

「お手柔らかに願いたい。お互いワークスチーム、それぞれに目的があるものではありませんか?」

「そう言いたいところなんだけどね、最近はもっぱら勝利に執着がついてきたところなんだ。どうも、あの赤い嵐が掻き回してくれたお陰かな」

「クロスファイトの本旨を忘れるようでは困りますね」

 彼とて根底は間違わない。

「プライベーターに勝手させるなと言われそうだけどさ、パイロットの本懐をくすぐられてしまうとどうもね」

「貴殿らしくもない」

「手合わせしてみればわかるさ。彼らは違う。そして同根だ。この意味がわかるかい? ああ、君はエンジニア出身だったね」


 誰のことを言っているのかわかりかねるので沈黙を守る。片眉を上げて次の台詞を待っていると苦笑いを返された。彼が離れていた一年余りの間に異変が起こっていたとでもいうのだろうか。


「社交辞令的会話の水面下で火花が散る! これは激突必至か! 片やクロスファイトの歴史を駆け抜けてきたトップチーム! 片や新風を巻き起こそうかというイノベーションチーム! 勝利の女神はどちらに微笑むのか!?」

 リングアナの煽りにも気遣いを覚える。

「では桜華杯四回戦第八試合! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 すべきことは同じ。相手が四天王チームだろうが、イオノインカの全てをぶつけてイオンスリーブの真価を示すだけである。


「全機、前進」

「そのまま当たるんかい、リーダー?」

「相手にペースを渡したくない。押していく」


 オネアスはメンバーに全速前進を指示した。

次回『躍進の光と影(2)』 「心外だな。戦略だよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 流石の戦闘狂!
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