担い手、集う(3)
「走ってる!」
水平ジャンプのような跳びだしではない。スプリンターの走りである。まるでホライズンを模倣するかのような。
実現するのにラヴィアーナたちエンジニアがどれだけ苦労したかも知っている。それだけに衝撃が大きい。
「これは……」
「真似っこ、ズルいのにゃー」
メンバーにも動揺が広がる。こんなに早くコピーされるとは思っていなかった。
「落ち着いて」
気づくと主任たちも降りてきている。
「想定内です」
「そうなんですか?」
「ええ、イオンスリーブの構造は発表会でかなり語られていました。そこから推測できる性能はホライズンの優位性をくつがえす可能性もあると思っていましたから」
ラヴィアーナは冷静である。
「そんな……」
「イオン構造の電気的反発力は衝撃吸収力も生みだします。構造は違えどサスペンションシステムと同等の効果があると考えられます」
「駆動機そのものに?」
出力調整も容易であると説明が加えられた。ジェルのような作動液に圧力を掛ける方式と違って、ほぼタイムラグ無しで駆動すると思われる。ゆえに動作性は比べ物にならないという。
「だとしたらヘヴィーファングは?」
ホライズンをも上回る性能を持つかもしれない。
「予想は正しいですわ。でも間違っておりますよ、ビビ。あなたが今乗っているホライズンに搭載されているのは?」
「……マッスルスリングです!」
「イオンスリーブに負けず劣らずの特質を実現している駆動機構です。十分にゲームチェンジャーたり得るのです。ならば?」
ラヴィアーナは見上げてくる。
「あとはパイロットスキル。それと作戦。この二つが勝負の分かれ目になる」
「御名答。それにイオンスリーブの弱点がどうなっているのか確認したいと思っています。そのためのデータ採取ですよ」
「はい、頑張ります」
(弱気になるな、ビビ。あんたはホライズンの性能だけでここまで勝ち抜いてきたの?)
違うはずだ。毎日ヘトヘトになるまで練習した。ミュッセルたちも手伝ってくれた。その結果が今のフラワーダンスの実力なのである。
「みんな、なんでもいいから見逃さないようにして」
「承り!」
注視する。
ギャザリングフォースはすでに敵チームと交戦中。クラス的には格上も格上なのに不利を全く感じさせない展開だ。
剣士が四機という攻撃型構成に相手が圧倒されつつある。一気に詰められてペースを持っていかれている。
(機先を制した。こういうとこ上手い)
ミュッセルも認めているコマンダーが率いるチームだ。
相手は迎撃体制が整わないうちに激突した。しかも、疾走するヘヴィーファングが相互にブラインドを作るように動いている。間合いを計れないまま、なりゆき任せの反撃しかできない。
(これはもう詰んでるのかも)
先頭を行く一機が相手のブレードをこすり上げる。背後をすり抜けるヘヴィーファングが通り抜けざまに背中を取る。わずか一閃で簡単に撃墜判定を奪っていく。
そんな手段で前衛の三機はあっという間に殲滅されてしまった。残る二機の砲撃手が弾幕を張るも手遅れ。動きまわる四機のアームドスキンに的を絞れない。
「とんでも速いにゃ」
「でも、計算されてる」
サリエリが分析している。
リフレクタをかざした一機が弾除けををする。反動でスピードが緩まると、その後ろから別の一機が飛びだす。ターゲットを変える暇もなく間合いを失う。振り上げられたブレードが残酷にも落ちてくるのみ。
「最後の一機もノックダウーン! 一瞬の攻防で勝負が決してしまったー!」
リングアナも慌てて実況する。
「チーム『ギャザリングフォース』強しー! 圧倒的に一回戦突破ぁー!」
ビビアンは強敵の出現に勝利の余韻をかき消されてしまった。
◇ ◇ ◇
「帰りましたよ、あの子たちは」
副主任のジアーノが教えてくれる。
「ホライズン改修後の初戦、緊張で疲れていたでしょう」
「しっかり休むよう言いましたが、ちょっと引きずってる感じでしたね。ギャザリングフォースにお株を奪われて不安げでした」
「そこをどうにかしてあげるのが私たちの役目です。始めましょう」
ラヴィアーナは採取データの解析に移る。試合そのものがほぼセンタースペースだけで終わったお陰で短い時間でも全容が把握できていた。
「結局、砲撃手が一歩も動かずの勝利でしたからね」
実質四機だけで決めている。
「コマンダーの作戦でしょうか。手の内を見せないで機体性能を見せつけてきました」
「先を見越した計算だと思いますわ。まだ上を狙うつもりなのでしょうね」
「メリル・トキシモ、侮れません」
プロフィールが公表されているコマンダーだ。
「戦略の一環ですね。ぼくたちではどうにもなりません。彼女たちに任せましょう」
「ええ。まずはこれを見てくださる?」
「なにか気づきましたか?」
ジアーノに試合の一部を見せる。ホライズンからの望遠映像だった。砲撃手相手に突入する後半の部分だ。
「弾幕をものともせず、ですか。脚周りの強度は向こうが上かもしれませんね」
「自動分析でもそういう結果が出ています。でも、それだけではありませんわ」
「ん? これは?」
映像の一部が示した数値にジアーノは眉をひそめる。
ラヴィアーナは理解したかと視線を送った。
次回『躍進の光と影(1)』 「クロスファイトの本旨を忘れるようでは困りますね」




