担い手、集う(1)
「はぁ」
カルメンシータ・トルタはため息をもらす。
「酔っちゃってるわねぇ、坊やったら」
チーム『コーファーワークス』の試合を観戦したあとのことである。開始直後は多少の冷静さが見えたのに、段々と試合運びが雑になっていた。最後のほうなど見ていられない。
「こんなことなら、あっちのチームにあなたを充てがっておくべきだったかしら?」
同席する人物をうかがう。
「やめてください。今のわたしには『ギャザリングフォース』っていう立派なチームがあるんです。彼らを捨てて鞍替えする気なんてありませんから」
「そう? 個人でやってたら賞金しか手に入らないじゃない。コーファーならそれなりのギャランティを出すと思うけど?」
「人を金の亡者みたいに。困ってません」
心外らしい。
「違った? あんな狂犬を飼い慣らそうとしてたから、てっきりお金が欲しいのかと」
「違います。プロの世界で自分がどのくらい通用するのか試してただけですってば」
正面に座って一生懸命弁明に励んでいるのはメリル・トキシモである。カルメンシータにとっては恩人の娘。歳の差からいえば子供と変わらないくらいとはいえ、感覚的には妹のように思っている。
「今はクロスファイトっていう老若男女問わない舞台で、実力だけでどこまでいけるのか試してみたい気分なんです」
必死に訴えてくる。
「変わったわね。熱いじゃない。あの子に感化されちゃった?」
「う……。それは」
「いいのよ。あなたくらいの年頃はそれくらいがちょうどいい。歳を取ると許されなくなってくるから、ね?」
ウインクする。
「シータみたいに地位を得てしまうと、ですか?」
「やりたいことができているほうかしら。ジュリアに感謝しないと」
「わたしも、自由でいられるうちに暴れてみようと思います」
ファイヤーバードの名を出せばスクール生女子も大人しくなる。彼女同様、まだ手の平の上で転がされているイメージが拭えないのだろう。
「自信がありそうね?」
カマを掛けてみる。
「人材は申し分ないですよ。それに高性能機体が加われば、あとはわたしの腕次第でしょう?」
「勝ちに来るわけね」
「ディスクの提供ありがとうございます。ヘヴィーファングをほぼ完璧に仕上げられました」
言葉は丁寧だが、敵に塩を送るようなものだという面持ちである。
「どういたしまして。モーターまでは無理だったけどディスクくらいならね。トルク出力は満足してないからスリーブの補助よ」
「十分実用に耐える組み合わせにしたんでしょう? シータこそ勝つ気満々じゃないですか」
「うちが提供できるのは機体までだもの。そのあとはチームに任せるわ」
カルメンシータがバックアップしているチームも桜華杯に参戦している。それを知っているからこそメリルは揶揄してきたのだ。
「現役のGPF隊員引っ張ってくるのはいかがなもんです?」
少し頬を膨らませている。
「うちはイオンスリーブを商品じゃなく製品として扱ってるの。今欲しいのは性能評価であって商材評価じゃない。勝敗よりはパイロットの感想が大事」
「だからプロフェッショナルですか」
「使う本人たち、よ」
アームドスキンを比類ない抑止力とするためだ。他の兵器を完全に無力化でき、かつ武力として制御できる兵器。無闇な大量破壊などこの世から消し去るほどの。彼女の目指すものである。
「アームドスキンに飽き足らず軍事的革新を促すつもりなんですね?」
メリルも意図を察する。
「あなたにも片棒担いでもらうわ」
「わかりました。理想はシータとわたしでの決勝ですか」
「そう願いたいもの。でも、あの子もいるし、ヘーゲルも怪しい動きしてるのよ」
一時、本部が騒然としたと噂を耳にした。内容まではわからなかったがヘーゲルが関与しているのまでは把握している。
「ジュリアは?」
「この件に関してはだんまり」
探っても反応が薄い。
「マチュアも非協力的だし」
「彼女まで? ケチですね」
『やーめーてー!』
ポンと朱髪のアバターが飛びだしてきた。
「どうして?」
『あんまりバラすとあとが怖いの! お姉様を怒らせたりしたらどうなるか……』
「こんな感じ」
疑問を覚えたメリルも怪訝な顔になる。ゼムナの遺志がこんな反応をするなど記憶にないだろう。
「ということは」
「ヘーゲルの動きの裏にあの子が関わってるってことですね」
それ以外にないと気づいたようだ。
「そう。あなたを本気にさせたうえで正面から打ち破ったあの子がね」
「なるほど、リベンジの機会をもらえそう。余計に燃えてきちゃった」
「変に入れ込まないで」
と言っても無理かもしれない。
「壊さないで評価データをまわしてくれない?」
「お礼はしますって。最高の稼働データをさしあげます」
「おお、怖い」
好戦的な面持ちの娘にカルメンシータはくすりと笑った。
◇ ◇ ◇
「どう?」
ビビアンたちに訊く。
「難しいです。でも試合で調整していきます。問題ありません」
「ごめんなさいね、スケジュールがタイトで」
「いつものことです。それに、無理しないと届きません」
体力的にはきつそうだが士気は高い。
「全面的にバックアップしますからね」
「お願いします」
気合の入っているフラワーダンスメンバーをラヴィアーナは頼もしげに見た。
次回『担い手、集う(2)』 「うん、このままじゃ駄目」




