リバイバルパワー(4)
機体同士が接触する。かなりのパーセンテージを金属素材の占める機械と機械のぶつかり合いである。半ば事故の衝撃に近い。
(それなのに、当たりに重さを感じない)
オネアスはそう実感している。
アームドスキンは兵器である。それも打撃戦が行えるほどのタフな作りをしている。ゆえに衝撃からパイロットを守る試みも重ねられてきた。
人の乗る構造なので戦闘中に衝撃でパイロットが昏倒するようでは死に直結する。ベースモデルの持つ、シートの緩衝アーム懸架機構の他にも安全装置がテストされてきたが十分な成果は得られていない。
(それがどうだ。イオンスリーブはその衝撃さえも電位的反発力で吸収する。完璧だ。完璧な機動兵器の駆動機だ)
歓喜が湧く。
それだけではない。一つひとつがミクロン単位の構造体であるがゆえに汎用性が高い。これからはアームドスキンだけでなく、各分野で使用される人間サイズのロボットにも応用されるだろう。
(いや、省スペース高出力と思えば、全ての可動部分に用いられてもおかしくない)
夢は広がる。
(そうすれば、僕は……)
開発者の一角として名を連ねることになる。歴史的な大発明イオンスリーブの実用化に貢献したとして後世にまで語り継がれる偉人と称されることになろう。
高揚感が身の内を満たす。なかなか成功しない実験に頭を抱えて眠れなかった夜も、製品化に際して現実的問題に壁を感じて挫折しそうになった日々も、全てが帳消しになる。
(ああ、これこそ人の叡智の結晶だ)
まるで人類が一気に幾つものステージを登った感覚だ。その先導者がオネアスである。感情が身体を揺り動かす。
「敵ではない!」
「つけあがるな!」
いかに足掻こうがイオノインカの敵たり得ない。操縦桿を押し込むだけでゾニカルのアームドスキンは傾きを増す。軋みとともに反りかえっていく。グリップ力の限界を超えて足は滑っている。
「違いを理解しろ!」
両手まで動員して支えていたブレードをすくい上げる。無防備になった相手に肩から体当りする。それだけで数mは浮き上がり弾き飛ばした。
「圧倒的パワー! 恐るべき、イオノインカ! 恐るべき、イオンスリーブ!」
リングアナも彼の心を代弁してくれる。
立ちあがる暇を与えずブレードを一突きして撃墜判定を奪う。証明は完了した。もうオネアスの道を阻むものはない。
(このまま駆けのぼるのみ!)
見れば、リフレクタをかかげて防戦一方のゾニカル・ネイキッドの後衛。彼らコーファーワークスの砲撃手が慎重に追い込んでいっている。
「ぬるい。こう使うんだ!」
走れと意識する。学習したσ・ルーンは彼のイオノインカの脚を動かす。飛ぶように加速した機体はモニタいっぱいに敵機の姿を捉えた。斬撃を送り込む操作をすれば理想どおりの輝線を描いてブレードが胴を薙ぐ。
「頑張り過ぎじゃないか、リーダー?」
メンバーのコルゴーが訊いてくる。
「なんの懸念がある?」
「俺らは社のために稼働時間を増やしてデータを溜めようとしてるんだがね」
「違うな。この場合のデータは量より質だ。どう動かしたかが重要になる。量はチームで稼げばいい」
操縦プロトコルとは意味が異なる。どんな動作をしたときに、どこのイオンスリーブ駆動機がどんなふうに働いたかが重要。漫然と同じ動作をくり返すくらいなら、短時間でも様々な操作をしたほうがいい。
「了解した」
「それより重要なこともある。このトーナメントを勝利で終わることだ」
「豪気だな。悪くない」
性能強化も大事だが、実績が最も評価されるのは結果を残したとき。まずは目立つことも考えなくてはならない。大々的な発表会をしたのもその一環である。
「おい、お前ら。リーダーが勝利をご所望だ。フルパワーでいいってよ」
「そんなら話は早い」
「早く言ってくれ」
残りの前衛、剣士の二人も力押しに切り替える。ゾニカルの残機は急に活気づいた相手に隙をうかがっているが、奪ったペースを取り戻すには至らない。
通常より派手にほとばしる激突の紫電にアリーナも盛り上がりを見せてきた。それさえもオネアスの苦労を洗い流し成果を称えているようで心地良い。
(僕が勝利を望むのはらしくないか)
自嘲もする。
(だが、正解のはず。データ採取は十分に行っている。プロモーションの意味も濃い。今求められているのは勝利なのだ)
両トップが前後して相手を下す。残った砲撃手も逃げ場所に困る有り様。追い込まれて直撃を喰らう。程なく全滅させるに至った。
「チーム『コーファーワークス』の勝利ー!」
ゴングと同時にリングアナが宣言する。
「終始押しまくった圧倒的な試合運び! イオンスリーブの鮮烈デビューを飾ったー! これは本トーナメントの台風の目になるかー!」
(当然だ。我らはそのためにエントリしている)
歓声のシャワーを浴びる。
(イオンスリーブの力はこんなものではない。いずれ新時代の幕開けを実感することになる。旧式を使い続けているようでは勝てないときがきたとな)
オネアスは高々と腕を突きあげた。
次回『担い手、集う(1)』 「人を金の亡者みたいに」




