リバイバルパワー(1)
オネアス・ピオンはパイロットでもあるが元々はコーファー重機械産業機構のエンジニアである。自ら開発したアームドスキンに乗って体感し、最も効率的に改良し運用するためにライセンスを取得した。
上からの要請でクロスファイトのワークスチームのパイロットとしても登録する。社は彼の感想が一番有用だと判断したようだ。しかし、イオンスリーブの実用化に時間を取られ、リングからは一年以上も離れている。
(その間にこんなことになっているとは)
ゲートを抜けていこうとしているのは異色のチームである。チームとさえ呼ぶのもおこがましい。ただのバディでしかないと感じる。
鮮烈なまでの赤い機体と鈍く重厚感を放つ灰色の機体。明らかに専用機と思わせる二機は異彩を放っていた。
(知らなくはないが、しかし間近で見るとなんというか……)
オネアスとてメルケーシンで暮らしている。怪物事件は知っていた。解決に寄与したアームドスキンに乗っていたのが公務官学校の生徒の少年二人であることも。
現実感に乏しかったニュースも改めて触れると、より事実を疑いたくなる。あり得ないとも思えるが、その挙動を見ていると本当かもしれないとも感じる。
(あのアームドスキンは特異な技術を用いられている)
エンジニアの感性がそう告げてくる。普通の機体とは完全に一線を画する動きをしていた。専用機だからと一言では断じられないなにかがあった。
(だとて、このアームドスキン『イオノインカ』の敵ではない。搭載されているイオンスリーブは駆動機としてパーフェクトなものだ)
その自信がある。
イオンスリーブに回転力駆動機はまだ存在しない。スライド式だけである。しかし、革新にはそれでも十分だと思っている。
軽さはジェルシリンダの比ではない。圧力を駆動源とする以上ゼロにはできないタイムラグも、電位的駆動をするのでゼロに近づけている。なおかつパワーまで実現した。
(それだけではない。イオンスリーブの真の力を目にしたならば各社のエンジニアは驚愕するだろう)
イオン反発力の影響でスライドに柔軟性がある。駆動するだけでなく、衝撃吸収力まであるのだ。駆動部に耐衝撃サスペンションまで組み込む必要がない。ゆえに、さらに軽量化が可能なのである。
(噂では、あのヘーゲルがとんでもないアームドスキンを投入したというが、所詮は従来型のジェルシリンダ機構。どれだけ柔軟性を持たせようが限界がある)
軽量のイオノインカは重力下でも反重力端子出力を絞れる。その恩恵で足のグリップ力も高まる。ジャンプする、走るといった動作にも影響するし、キック力にも優れると計算結果が出ている。
(この試合が済んだらデビュー戦だ。業界を震撼させることになる)
否が応にも気が逸る。
「さあ、メジャートーナメントに復活の狼煙を上げたのはチーム『ツインブレイカーズ』だ! 本大会でも暴れまくるのか!」
リングアナの呼び込みがワントーン上がる。
「先駆けるは『天使の仮面を持つ悪魔』! 『紅の破壊者』! ミュッセル・ブーゲンベルク選手! 乗機は『血塗られたスレッジハンマー』、ヴァン・ブレイズ!」
「余計なもん付け足すんじゃねえ! 語彙力無駄遣いすんな!」
「これで食べさせています! 愛する細君も、今度産まれる第二子も!」
「産まれるのかよ! そいつはめでたいぜ!」
よくわからない会話が繰り広げられる。彼が不在だった一年余りの間にチーム戦カテゴリはショー的要素を強めたのかもしれない。
(あのミュッセル選手が加入した所為だろうか? 彼はソロでは有名だったからな)
オネアスはソロカテゴリには参戦していない。あくまでエンジニアとしてアームドスキンに乗っているのだからその必要はないからだ。
ただし、チームメンバーはソロにも登録している。元々、ソロカテゴリで活躍していた選手をスカウトして結成したワークスチームなのだから。
「あいかわらずだな、ミュウの野郎は」
「まるで、あれをやらなきゃ試合はじめられねえみたいになってるぜ」
「観客のウケがいいからやめられなくなってるって感じでもないしな、あのノリは」
メンバーが噂している。チームが開店休業状態だった期間も契約は継続していたし、年俸も支払われていた。だからといって遊んでいたわけでもなく、彼らは彼らでソロに参戦していたのである。社もそこまでは拘束しない。
「相手はあれだろ?」
「おう、あのピサナンからの逆輸入チームのはずだ」
「だってのに冒頭からツインブレイカーズと当たっちまったのか。ご愁傷さまだな」
クロスファイトを開催しているのは惑星メルケーシンだけではない。だが、現状は限られている。星間管理局興行部が主催しているのがメルケーシンのみだからだ。
他にピサナンとコッパ・バーデという惑星国家の運営で行われている。両方とも宙区の中心的国家で国力経済力とも潤沢なので、兵器開発振興策として用いられていた。そこからの招待選手だという。
(招待するからにはトップクラスに数えられるチームなのだろう。二人の力を見るのにちょうどいい)
オネアスは試合の模様を映す大型投影パネルを注視した。
次回『リバイバルパワー(2)』 「かすらせもしねえぜ。な、グレイ?」




