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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
非日常型少年

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216/409

届けたいもの(2)

 休日の午後、ブーゲンベルクリペアは大賑わいである。フラワーダンスメンバーに加えラヴィアーナとジアーノの八人。デュカたち二人とグレオヌス、ミュッセルとその両親、マシュリの総勢十五名で祝勝パーティーを執り行っていた。


「フラワーダンスの流星杯優勝を祝ってくれる場をありがとうございます。そしてツインブレイカーズ、ダキアカップ優勝おめでとう」

 ヘーゲルワークスチームとしてラヴィアーナ主任に仕切ってもらう。

「まずは乾杯!」

「かんぱーい!」


 大人も軽めのアルコールのみの会となっている。半数以上が未成年なのに配慮した形だ。


「さあ、おあがりなさい。残しても困るからね」

 ミュッセルの母のチュニセルが発破をかける。

「はーい! いただきまーす!」

「おう、食え食え」


 予算のほとんどはツインブレイカーズが賞金から出している。ここぞとばかりに注ぎ込んだのか、非常に豪華なメニューが並んでいた。


(両親を労う気持ちもプラスされてるんだものね)

 ミュッセルとグレオヌスがこそこそ相談しているのを漏れ聞いていた。


 試合では居丈高で傲慢な姿を見せる少年だが内心は細やかで優しいところがあると二週間の密着で気づいていた。合宿を提案したのも級友たちを勝たせたかったからだろう。


「ところで昨日の試合なんだけど?」

「はふぁ?」

「いいわ。先に食べて」


 口いっぱいに料理を頬張る少女たちにカメラへの意識は見られない。場所も相まって緊張の欠片もないようだ。エナミは上品な食事をしているが彼女を前面に出すのははばかられる。

 しばらくはカットされるであろう食事風景を撮りつづけ、程よいところで優勝コメントも取り付けた。今日は少年少女のリラックスした穏やかな姿を届けられればいいと思っている。


「だいたい腹も落ち着いたな。満足か?」

 ミュッセルが声掛けする。

「褒めてつかわす」

「よく準備した、ミュウ」

「偉い」

 少女たちが囃し立てる。

「んじゃ、余興でも一つ。歌ってくれ、デュカ」

「へ?」

「調べはついてんだ。お前、曲出してんじゃん」


 急に矛先が向く。マシュリが操作したかと思うと、彼女が十代の頃にリリースした楽曲が流れはじめた。紛れもなく本物だ。


「どこで拾ってきたの?」

「んなもん、ちょっと調べりゃ出てくるって」

「でも……」


 今の彼女らしくないバラードである。恥ずかしくなってきた。


「オケバージョンも拾ってきてんぞ。マイク生きてんな?」

 チーフが頷く。

「ちょっと!」

「歌え歌え」

「お願いしまーす!」


 カメラがまわっている。ここで頑として拒否するのも空気が壊れる。問題あれば、あとで編集してもらえばいい。


「♪あなたのいない朝は冷たさばかりがわたしの中に降り積もっていく 早く来て わたしを温めて」


 ありきたりの歌詞だが気持ちは当時に戻っていく。一生懸命心を込めて歌っていた頃に。


「♪もう、あなたなしではいられないの そのために生まれてきたと思えるくらい」


 ミュッセルが動いてヴァン・ブレイズを起動させる。彼女の前に赤く彩られた手の形をしたステージが準備された。頷く少年にデュカはその上に足を掛ける。


「♪わたしの時間はすべてあなたのもの あなただけを想っているのがわたしの幸せ」


 ゆっくりと持ちあげられる。高さはあるが安定したステージだった。


「♪この日々が続いていくならなにもいらない そんなわたしは愚かかしら? そうは思わない だって、それがわたしなんだもの」


 歌い終えると静かに聞いていた皆が拍手を送ってくれる。ビビアンとエナミ、レイミンまでもが涙を流してくれている。感動と笑顔で彼女を迎えてくれた。


「最高! こんなことあるなんて」

「素敵でした」

「す、ステージと雰囲気が良かっただけでしょ」

 照れ隠しを言ってしまう。

「そんなことあるもんかよ」

「ミュウ?」

「これがお前がやりたいことなんだろ? 努力を捨てんな」


 彼には見抜かれていたのだ。ちょっとだけ無理をしていることを。


「な、気持ちよかったろ? まだやれることあんじゃん」

「生意気なんだから」


 赤毛の少年の肩に額を押し付ける。不覚にも涙がこぼれた。頭に柔らかく添えられた手の温かさに雫が落ちるのを止められなくなる。


 デュカが一番恥ずかしいと感じる最終回になってしまった。


   ◇      ◇      ◇


 穏やかな着地を図るはずだったミュッセル編の最終回はなぜか最高のPVを誇ることになってしまった。有料パートの導引率が実に80%超えという快挙である。

 歌いはじめの一節のあとから有料というチーフの判断も素晴らしかった。多少恥ずかしかったのも我慢できる結果というもの。ギャラにボーナスも付与されている。


(楽曲使用料も掛かったはずなのに)

 権利は彼女のものだけではない。


「え?」

 届いた着信に気づく。

「うそ」

「嘘じゃないわ。わたし」

「じ、ジーニャさん?」

 投影パネルに現れたのは快く協力してくれた大物であった。

「この前はありがとうございました」

「いいえ。それより最終回観せてもらったわ」

「う……!」


(マズい。いや、恥ずい)

 慌てる。


「あれは乗せられてちょっと羽目を外しただけで……」

「あなた、わたしの事務所に来なさい。サポート体制作って、ちゃんと売ってあげるから」

「えええっ!」


 デュカは椅子から転げ落ちるほど仰天した。

次はエピソード『新時代到来』『幕開けは突然に(1)』 「まるで自分の手柄みたいですよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ジーニャさんが言った通り、ミュウくんと居ると、色々舞い込みますね! もちろん、デュカさんの実力や努力があってこその結果でしょうけど……!
[一言] 更新有難う御座います。 (裏?)シンデレラストーリーに!?
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