流星杯決勝
毎日が大騒ぎの合宿を終えて週末を迎える。今日、トリアの日はフラワーダンスが挑む流星杯の決勝が行われる。ツインブレイカーズは関係ないが、デュカは二人に解説をしてもらって試合を観戦する趣向だった。
「決勝の相手はチーム『ゾニカル・カスタム』。正直なところ、リミテッドクラスを相手にフラワーダンスは勝てると思う?」
隣に並ぶミュッセルとグレオヌスに尋ねる。
「肩を持ちてえが簡単じゃねえな」
「勝てるか否かは微妙だと思います」
「難しい? 番組的には彼女たちに勝ってほしいんだけど」
そのほうが絵になる。
「勝機を掴めれば有りです」
「勝機って?」
「勝ち負けの天秤が傾くポイントが有るものなんですよ」
狼頭の少年が流暢に説明してくれるがデュカには理解が及ばない。選手でないとわからないのかもしれない。
「詳しくお願いできる?」
ユーザーにも理解できるよう説明を求める。
「例えばな、模擬戦やってるときにエナがビビを別に動かしてたろ?」
「そういえば開始早々ビビが正面から行くことなかったわね」
「あれはよ、ポイントを見つけたときに突っ込ませるためにフリーにしてたんだ」
ミュッセルも表現しにくそうだ。
「隙っていうこと?」
「そうだけどな、ちっとばかり違う。ここで押しときゃ流れが変わるってとこがあんだよ。そこが『勝負の綾』ってやつなんだ」
「勝負の綾ね。言葉としては聞いたことあるかも」
意味的には、自発的行動でその後の展開を変える選択のこと。転換期であり、グレオヌスのいう勝機というのも正解だ。
「俺たちだったら自分で読む。もしくは作ろうとするな」
彼らにもあるらしい。
「作るって、流れを?」
「組み立てとは違う。流れを持ってくるっていう意味でなら正しいぜ」
「難しいのね」
どうもピンとこない。
「ともかく、俺たちと違ってフラワーダンスはそれをエナがやってる。閃いたときに即仕掛けるためにビビを使いたいから別に動かしてた。そんな感じだ」
「ポイントを突く戦略でOK?」
「おう。エナじゃワークスチームとかのコマンダーに劣る。チームメンバーを有機的に動かすのは奴らのほうが上手い。でもな、あいつは勝負の綾を読むのが抜群に上手い。それで勝ってる」
エナミという少女はコマンダーとしては未熟でも秀でているところがあるという。デュカは呼吸が合うから採用しているのかと思ったが、それだけではないようだ。二人は口を揃えて「勝負勘」と表現した。
「押し引きのポイントが見えてる。彼女たちの強みはそこなんですよ」
グレオヌスも太鼓判を押す。
「勝つ流れを持ってくる力があるのね?」
「しかも勝負の綾を掴む手札が二枚ある。ビビだけじゃなくウルも使えるかんな」
「ああ、ビビは機動性、ウルは突飛な攻撃で流れを持っていくから厄介だね」
そういう意味ではエナミは恵まれているらしい。
「絶妙なマッチングでフラワーダンスは実力以上の能力を発揮します。だから相手がリミテッドクラスでも勝敗の行方はわからない」
「なんとなくわかってきたわ」
「持って来いの流れになってきたぜ。見てみろよ」
試合はとうに開始されている。フラワーダンスがゾニカル・カスタムを障害物の林に引き込んで混戦模様を作りだしたところまではいつもの展開。そこから一進一退がくり返されていたが、勝負の綾が現れたらしい。
「掛かった」
「見えてないな」
剣士の一機がスティープルに取り付く。その上にはサリエリのホライズンが狙点を作っていた。彼女を落とせば試合は大きく傾く。狙い目と見たのだろう。
飛あがろうと踏み込んだところにウルジーが現れる。意図的にサリエリのいるプレート型スティープルの裏にひそんでいたのだ。スティックで胸を突いてバランスを崩させると足払いで転倒させる。
「決まった」
「あれが?」
「そうです。ポイントを作って持っていきましたよ」
わかっていたサリエリが即座に狙撃。剣士は撃墜判定で退場する。対してフラワーダンスはまだ無傷。
「あとはなんとでも料理できるじゃん」
「ゾニカルはサリエリの狙撃を苦にしていた。エナはその傾向を読んで罠を張ったんです。読みが当たれば戦局は一気に傾きますからね」
「本当だわ」
一気呵成に動きだすフラワーダンス。妙に消極的だと感じていたビビアンのホライズンもスピードアップした。立て直そうとする相手チームだったが、その隙を与えない。
そこからは失策をしないよう丁寧に一機ずつ落としていき、ついには二機までにする。ゾニカル・カスタムはそこでギブアップを宣言した。
「チーム『フラワーダンス』優勝ぉー! とうとうメジャートーナメントまで制覇したぁー! 少女たちはどこまで行くのでしょうかぁー!」
リングアナも名調子で讃える。
毎日の更新で彼女たちの合宿を追いかけていたファンも多かろう。アリーナの興奮が一段下の撮影ブースまで伝わってくる。
ホライズンが輪を作って肩を組む。ステージハッチを繋ぎ合わせて抱き合う少女たち。涙の光景をカメラドローンが抜いていた。
「ありがとう! ありがとう!」
「みんなの応援でここまで来られました! ありがとう!」
最高の展開にデュカもつい腕を突きあげて喜んでいた。
次回『届けたいもの(1)』 「これが大人の『仕事』なの」




