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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
非日常型少年

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213/409

甘酸っぱい合宿(5)

 女子も男子の目を意識して皆がワンピースかセパレート水着を用意していた。これがビキニだったりすると、さすがにデュカがウェアラブルカメラを使うとはいえ撮影を渋られたかもしれない。


「うわー、ビビアンったらヘソどころかお腹出しとかエローい」

 レイミンにからかわれている。

「そ、そんなことないわよ。ウルジーのほうがワンピースなのにエロいじゃない」

「強エロ」

「変なポーズ取るな」


 口数少ないウルジーだが引っ込み思案ではない。大胆なポーズで見せつけている。少し的はずれなのが笑わせるが。


「エナもセパレートとは思わなかったわ」

「家族と海行くとき用に買ったものだもの。そんなに派手じゃない」


 奇しくも注目人物二人が競うように肌色面積が多い。少年を意識してのことか。


「あら、素敵だこと。出演依頼蹴らないほうが良かったかしら?」

 ラヴィアーナもやってくる。

「ヴィアさんこそ大人っぽーい」

「大人ですわ。それに不摂生が身体に表れているでしょう?」

「そんなことないですよ」


 彼女はどちらかというと痩せぎすなほう。食事もそっちのけで仕事に打ち込んでいる女性らしい体つき。


「サリってば急成長してない?」

「ま、前より絞れてきたからでしょ? それとヘーゲルの高性能フィットスキンの矯正機能が仕事してくれてる」

 恥ずかしげに隠す。

「うっそー。触ってみたらわかるんだから」

「やめなさいよ、スケベ!」

「押さえて、リィ」

「観念するのに」


 華やかな光景が演じられる。今回の配信はまた良いPV(すうじ)が残せそうである。皆を促してスパエリアへ。


「デュカさんはやっぱり格違いね」

「きれい」

「ありがと」


 わいわい言いつつ到着すると、男子は手持ち無沙汰そうに待っていた。先に騒いでいないあたりに気遣いが感じられる。


「グレイ、もふもふー」

 ウルジーは普通に抱きつきに行く。

「あ、こら」

「気持ちいい」

「ほ、ほんと?」


 獣人種(ゾアントピテクス)狼系(アゼルナン)の少年はお腹付近を除いて毛皮に包まれている。短めでウェーブのある毛並みだが、頬ずりすると気持ちよさそうだ。


「恥ずかしいよ、ウル」

「お返しだから気にしなくていい」

 触れているのは意図してのことらしい。

「へぇ、さらさら」

「ゴワゴワなのかと思った」

「確かに抱きつきたいかも」

「やめようよ」

 女子に囲まれ居心地悪そうにする。

「筋肉もいい」

「ウルー!」

「でも……、バキバキ」


 結局ベタベタと触られている。困った様子のグレオヌスは耳が寝てしまっていた。


「早く入ろうぜ。悪ぃと思って我慢してんだぜ?」

「わかったわよ。でも、先に汗流してからにしなさいよ」


 ミュッセルが言う。彼を撮るのはなぜか背徳的な感じがして避けていた。男子なので当然ボトムだけなのだが違和感が拭えない。


「嫉妬なの? 貧弱だから?」

「グレイと比べんじゃねえ」


(照れ隠しね)

 彼女は少女の内心に気づく。


 少年の身体は引き絞られた縄の如くだった。見た目の筋肉はそれほどではないが、動けば皮膚の下で蛇でもうねっているのではないかという印象がする。一本いっぽんの筋肉が名札を付けられそうなほど筋を成していた。


「ミュウも結構すごいんだ」

 エナミが好機とばかりに近づく。

「鍛えてっからな」

「触ってみてもいい?」

「別にかまわねえ」

 恥じらいに頬を染める様子が初々しい。

「硬い」

「だろ? 肉離れはしにくい筋肉の質みてえで助かってる」

「自慢してんじゃない」


 文句を言いつつも触れに行っているビビアン。意識する二人が赤毛の美少年を遠慮がちに取り合っている。


(はぁー、甘酸っぱい。いいわー)

 デュカは眼福だと感じている。


「グレイのボディソープって特製?」

 他方では女子らしい目敏さが発揮されている。

「そうさ。人類種(サピエンテクス)用のボディーソープみたいに油分を取ってしまうと毛玉ができてしまうんだ」

「へぇ」

「なんか、コーティングみてえのが入ってんだとよ。具合がいいんで最近はそれで髪洗ってるぜ」

 ミュッセルが暴露する。

「あんた、それで髪サラサラなの? どうも近頃美少女っぷりに磨きがかかったと思ったら」

「うっせえ! 誰が美少女だ!」

「誰かしらぁー?」


 追い掛けられて嬉しそうなビビアン。エナミはそういうアプローチができなくて後塵を拝している。


「わしゃわしゃ」

 片や女子に洗われている狼頭の少年。

「どうしてこんなことに……」

「ごめん。でも、面白いから許して」

「ペットみたいで申し訳ないけど気持ちいいのよ」


 三人の女子に囲まれて泡だらけにされている。三角耳はもうぺったりと頭に付いていた。


(おかしな空気にならなくてよかった。思春期の子たちでも他にはない絆があるからかしらね)

 昼間の様子を見れば、彼らの仲の良さは別格のように思えた。


「流すー」

「ぷっ、ちょっと細身になった」

「笑っちゃ悪いって」

 濡れ狼はあきらめの境地に至っている。

「ちょっと分けてね」

「いいさ。ご自由に」

「それ、わたしももらっていい?」


 この日の一番人気はグレオヌスのボディーソープだった。女子集団に加わり、髪の洗い合いをして親睦を深めていく。


(青春の一幕って感じよね。この子たちにとって一生の思い出になる一瞬を切り取って記録に残せるのなら価値はあると思う)


 デュカは今のコメディショー的な仕事にも意味はあると信じていた。

次回『流星杯決勝』 「そこが『勝負の綾』ってやつなんだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] グレイくん、役得! (ただし、本人は全くそうは思っていないもよう)笑 こういう、何気ない戯れの様子が映像に残るって良いですよね!
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