甘酸っぱい合宿(4)
筒先をわずかにずらしてみせるフェイントにヴァン・ブレイズが反応して回避する。避けながらも放つビームの一射を半身になってビビアンのホライズンが素通しさせる。青白い光に白い機体が照らされた。
「当たれー!」
「喰らうか!」
鼻先に突き刺すような砲口から放たれる光芒が空を穿つ。逆に下に躱して飛び込んだミュッセルは滑りつつビームランチャーを胸元に走らせた。
読んでいたビビアンは左手で砲身を逸らせながらもう一歩踏み込む。砲撃をあきらめたヴァン・ブレイズは肩で突き放そうとする。しかし、そのときには引いた砲身が胴体を照準していた。
(あんなに密着して砲撃戦? こんな戦い方なんて見たことない。わたしが素人だから?)
呆然と観戦しかできない。
「この距離だとなにもできない。頑張って、ビビ」
「わかってるぅ!」
エナミもコマンドを出せず、ヘーゲルスタッフも目を皿のようにして見つめている。珍しい光景らしい。
「粘るな?」
「あたしの距離! やられて堪るか!」
密着した筒先からのビームさえ避けてみせる、異常ともいえる回避能力を持つ少年。息吐く暇を与えず攻めつづける少女。そして、一瞬たりとも逃すまいと至近距離にドローンを飛ばして様子を捉えつづける少女も。
ほんの数十秒に込められた膨大な情報量を処理して機体の性能向上へと導こうとするスタッフ。皆の期待を一身に背負って驚くべき駆動を続けるアームドスキン。指揮室には異様な空気が籠もっていた。
(とてもリポートなんてできない)
それなりに勇名を馳せたつもりのデュカでさえ口を挟めない。
(恥ずかしいけど映像が伝える雰囲気に頼るしかないのね)
「まだまだぁ!」
「さすがに厳しいか!」
半ば後ろに倒れながらビームを連射するヴァン・ブレイズに、ホライズンは頭から突っ込んでいく。振り上げられた拳にナックルガードが回転して装着された。
叩きつけられる拳さえフェイント。懐に忍ばせたビームランチャーが赤いアームドスキンの機関部をポイントしている。決まったかに思えた。
「もらったぁ!」
「甘いぜ」
後ろに倒れつつ左肘を大地に叩きつけたミュッセルは、それを支点に両足を蹴る。放たれたビームは側転したヴァン・ブレイズがいた空間を貫いた。
「なんとぉー!」
「終わるかよぉー!」
追い打ちをかけようにも空中で逆さまになったままビームランチャーを放つミュッセルに、ビビアンは横っ飛びで回避するしかない。両者とも倒れ込みながらまた砲口を突きつけ合い、同時に放たれた光条が衝突しプラズマボールを作りだした。
「ちぃ!」
「この距離で?」
飛び離れた二機は全身からビームコートが蒸散した白いガスをまといつかせて対峙する。どちらからともなく弾かれたようにまた密着していった。数度の攻防が繰り広げられていく。
「そこまで! 一回休憩」
「ぜーぜー」
「はぁーはぁー」
ラヴィアーナの判断で青息吐息のミュッセルとビビアンが分かたれた。興奮と緊張で真っ赤な顔になった二人はしばらく動けない。
「なかなか凄まじい対決だったな」
「あちきは早々に落とされちゃったに」
観戦していたグレオヌスとユーリィが歩み寄るとようやくビームランチャーをだらりと垂らす。ブレストプレートを開けて外に出た二人は風を求めてシールドバイザーを跳ねあげた。ステージハッチにへたり込む。
「末恐ろしいですね、この二人」
ジアーノが乾いた笑いを立てる。
「ミュウが拳を解禁してたらすぐに勝負はついたんでしょうけど」
「ホライズンもすぐにパワーアップします。そうしたら勝敗の行方はわかりませんよ、エナ?」
「確かにそうかも」
まだ上があると言わんばかりの口振りにデュカは突撃リポートする気力を奪われる。素人の入り込めないレベルに彼らはいた。
(ここもまた戦場なのね)
息を呑む。
その後も5セットの模擬戦を行い、ツインブレイカーズの三勝二敗で日没を迎える。後半は少女たちのほうが慣れてきて追いあげるも届かずという感じだった。
「今日はここまでにいたしましょう。宿舎に案内しますわ」
引率よろしくラヴィアーナ主任が保養施設へと導く。
「はい」
「世話になるぜ」
「お願いします」
フラワーダンスメンバーに赤毛と狼頭の少年が加わって備え付けの無人バスで移動。撮影スタッフの彼ら二人もその列に並んだ。
真新しい宿泊施設が見えてくるとスクール生たちが歓声をあげる。もう復活しているとは底なしのスタミナに思えた。
「お腹減ったのにゃ」
「その前にシャワー浴びたい」
「そんなケチなこと言いませんよ。ゆっくり疲れを洗い流してくださいな」
案内された場所はシャワースペースなどではなかった。奥の広いエリア全体がスパになっている。多数の様々な浴槽が並ぶ光景に生徒たちは仰天した。
「水着持参ってこういうことだったんですね、ヴィア主任」
「そうですよ」
「なんだ。水泳で体力増強なのかと思ってたぜ」
「ここでは泳がないようにな、ミュウ」
目の前のご馳走に少年少女は一目散に更衣室に駆け込んでいく。慌てて撮影許可をもらいに走らねばならなかった。
暗黙の了解で少年たちをチーフに任せ少女たちのほうへ。恥ずかしげだったが、フィットスキンと変わらないからと説得して許可をもらう。
デュカはここが正念場と張りきった。
次回『甘酸っぱい合宿(5)』 「うわー、ビビアンったらヘソどころかお腹出しとかエローい」




