甘酸っぱい合宿(3)
まずは前衛組と後衛組に分かれて訓練する。トップ組はブレードメインなのでグレオヌスとの模擬戦で技術的な習得を。バック組はミュッセルを相手に素早い敵を想定した射撃訓練を。その様子をデュカは半地下の指揮室から眺めていた。
「遅い! 切れ間がある!」
「そこ、すり抜けてくんの、あんたくらいなの!」
赤毛の少年は容赦なくホライズンを蹴倒す。足を引っ掛けて転ばせるのだが、それだけでもパイロットはどれほどの衝撃に襲われるのか体験しただけに彼女の背筋が凍った。
「反応良くなってるからもう少し。リンクで見える射線の変化と回避タイミングを合わせて途切れないように」
「厳しいよー、エナ」
試合と異なり、コマンダーのエナミは索敵ドローンでチームメンバーの動作を計測している。ラヴィアーナや副主任のジアーノ・ジョアンとともに動作効率化の分析を行っていた。
「接地圧上げるべきかしら? もっと足の面積削る?」
「反重力端子出力との絡みが出てきます。設計から見直す必要がありますよ、主任?」
「ホライズンに反映させるのは難しいですわね。次世代で検討しましょう。腕の可動域確保にヒップガードのほうは手を入れられそう」
「そちらは着手しましょう」
技術的な話題が飛び交う中で圧倒されてしまう。まさに現場という雰囲気なのだが、公開を前提としているところをみると抑えられた内容なのだろう。
「そこまで。一回休憩」
「はぁー」
少女たちが一斉にシートに身を投げだす。シールドバイザーを跳ねあげてドリンクの吸口にむしゃぶりついている。ミュッセルとグレオヌスも休憩しながらなにか話していた。
「んじゃ、連携訓練にすんぜ。ビームランチャー借りる」
「もうちょっと休ませて」
「時間ねえんだよ」
ウイークデーなのでスクール生たちの合宿訓練時間は放課後から日没まで。翌朝はまた学校に行かねばならない。
「全員で来い」
「この広いスペースで? 嘗めんな」
「お前らこそヴァン・ブレイズとレギ・ソウルのリンクを嘗めんな」
チームで動きだすとエナミの役割はコマンダーに戻る。前衛のグレオヌスと模擬的に後衛をやるミュッセルの二人組の攻略が訓練内容だ。
(彼、砲撃手なんてできるの? 真似事?)
妙な配置にデュカは首をかしげる。
「数のバランス悪くありませんか?」
「いいえ、いつもこれでやっています。平地だと機体性能とパイロットスキルの差が如実に現れてしまうのでバランス取れているのですよ」
障害物を中心に配置して開始が告げられる。砲撃に押された二機が突き放されるとサリエリのホライズンが尖塔上に陣取って戦線構築完了。
レギ・ソウルの背後にぴったりと付けたヴァン・ブレイズがビームでサリエリ機を叩き落としにかかるも失敗。弾幕回避で脚を緩めつつ接近していく。
「ミュウの飛びだしに注意。ビビは側面に移動。ミンは目いっぱいまで牽制」
「ラジャ!」
ブラインドを作って射線を隠し攻撃するツインブレイカーズ。対してリフレクタをかかげるユーリィを前面に押しだして間合いを詰めるウルジー。接触寸前に背後から飛びでてレギ・ソウルをスティックで突き倒そうとした。
レイミンの斉射で出られなかったヴァン・ブレイズがどちらかを落とそうとするが横合いからビビアンが潰しに行く。ミドルレンジでの撃ち合いを制したのはホライズン。ミュッセルはユーリィの斬撃を躱しながら後退した。
「連携解けた。今のうちにグレイを」
「攻め落とす!」
ビームの足払いでヴァン・ブレイズを追い散らすとレギ・ソウルを孤立させるのに成功。前にウルジーとユーリィ、後ろにビームランチャーをかまえたビビアンを抱えるとグレオヌスも厳しくなる。
ところが何気なく放ったミュッセルのビームの一撃がウルジー機に直撃する。離れた距離でブラインドを作られていたのだ。ツインブレイカーズ二人の密なリンクが生んだ離れ業。
「あんなタイミングとかあり得ない。リィ、抜かれる!」
「間に合わないに!」
崩れを立て直す猶予も与えられず今度はレギ・ソウルが突進する。残った前衛二人の追撃はミュッセルに阻止され、走って逃げるレイミン機に追いついたグレオヌスが一つ落とす。
サリエリも援護虚しく取り残され、跳ねたレギ・ソウルがリフレクタを弾き飛ばして一閃。あえなく撃墜判定。
「ヤっバい。リィ、足留め」
「そんな殺生にぃ!」
烈火の如く取って返すレギ・ソウルをユーリィに任せてヴァン・ブレイズの対処に走るビビアン。ミュッセルも迎え撃つ姿勢だ。
「グレイを走らせないで、リィ。スティープルを巡るように下がりながら誘導。時間を稼いで。ビームランチャー使うミュウなら落とせる……、かも?」
「重たいけどやってみせるぅ!」
「あちきは逃げるの苦手なのにゃ……」
エナミが指示を飛ばすも半分あきらめ気味に言うユーリィ。それでも最後まで踏ん張るフラワーダンス。突き放そうとするツインブレイカーズ。
「勝負ぅー!」
「来い、ビビぃー!」
ビームランチャーを抱えたまま特攻していくビビアン。同じく牽制も挟まないまま慣れない銃器を突きだす体勢のミュッセル。白と赤の両機の距離はあっという間に失われる。
デュカはそのあと類を見ない戦いを目にすることなるのだった。
次回『甘酸っぱい合宿(4)』 「あたしの距離! やられて堪るか!」




