甘酸っぱい合宿(2)
チーム『フラワーダンス』に関する資料も放課後までにまとめて目を通している。少女たちはなかなかドラマティックな経験の結果、ヘーゲルのワークスチームに属していた。
「みんな、動機は似たりよったり?」
チームメンバーに尋ねる。
「ビビが面白いことやりたいって言うから手伝おうかって感じです。やってるうちにはまってきて」
「ウルだけはスカウト。この娘が棒術やってるって聞いて一緒にやらないかって」
「楽しそう」
ビビアンに合わせ、実質ナンバー2らしいサリエリにユーリィ、レイミンは元からの仲良しグループ。そこにウルジーを加えて結成したのがフラワーダンスだという。
「嬉しいことも悔しいことも色々あるけど全員で一緒のことするのはスポーツと同じ感覚で楽しめました。頑張ればお小遣い稼ぎにもなるし」
現金な感想も挟まる。
「前はそこまでじゃなかったんだけど、ヴィア主任にスカウトされてからは、ほとんどのリソースをこっちに注ぎ込んでます。エナが加入したのと似たようなタイミングで」
「仕事にしたいって思ってる?」
「それはちょっと……、まだわかりません。親とかは好きにしていいって思ってるみたい」
チーム自体はもうプロレベルである。ただし、彼女たちはまだ公務官学校の一年生の十六歳。将来に関しては迷うところだろう。
「そうねえ。実績と生活に足る収入があるのなら迷うでしょうね」
自身になにができるのかわかりきっていない年頃のこと。
「卒業まで猶予あるのだし、なんだったら中央公務官大学まで進んで専門課程を学びながらチームを続けていいんだし、選択肢はいっぱいね」
「今を頑張ってみなさいって家族は言ってくれてるんで」
「素敵だわ」
環境もいいようだ。
「デュカさんこそ。夢を叶えて、人気コンテンツを背負って芸能人してるんだもん。格好いいです」
「といってもね。この稼業も苦労が絶えなかったりするのよ。あまりメジャーどころと絡むと制約多かったり……」
「駄目みたいです!」
思わず愚痴りそうになったところを制止される。チーフが手でバツ印を作っていた。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、ミュウみたいのと絡むと大変ってことですよね?」
素人にフォローされてしまう。
「キャリア最大の汚点になったわ」
「最高に面白かったけど」
「こら、ミン。傷ついちゃうから」
皮肉屋の少女にからかわれる。
「悔しくても苦しくても頑張れるのは夢があるから。当面はこいつらを負かすことです」
「大切なことよね」
「はい」
(夢を追うこと。生まれたなら一度は追ってみないと。チャンスに恵まれたなら走りつづけられる。転げ落ちないよう必至に食らいつく苦労をこの子たちも味わうのかしら?)
一生懸命な姿を愛おしく思う。
「かかってこい。簡単に叶えられると思うなよ?」
「まずはクラスで勝ってから言いなさい」
ミュッセルとビビアンは額をぶつけんばかりの距離で言い合っている。その間に金髪に緑の瞳の少女がこっそりと近づいてきた。
「私のことなんですけど?」
「なにかしら」
声をひそめている。
「どうすべきでしょうか? ほんとはあまり映らないほうがいいのかもしれなくて」
「なにかマズい?」
「その……、公表してないんですけど、エナミ・ネストレルといいます」
「ネスト……、ええっ!」
ギョッとする。
「チーフ?」
「たぶん大丈夫です。祖母も承知していますので」
「やっぱりお孫さん?」
ネストレルは今の本部局長のファミリーネーム。よく見れば血縁を感じられるくらいに似た面立ちをしていた。
チーフがカットのジェスチャーをする。ここはとても使えない。
「彼女のことは通称『エナ』ってことにしよう。セキュリティとか指摘されると炎上しかねない」
「ですよね。それでかまいませんか?」
「敬語とかいいです。余計に変な話になるので」
「そそそ、そうよね」
若干怯えてしまった。
言いつけてどうこうしようという高圧的なタイプの少女ではない。どちらかといえば控えめなほう。変に顔が売れて家族に迷惑を掛けたくない一心なのだろう。
「ちっさくなるなよ。エナが困るだろうが」
赤毛の少年は遠慮を知らない。
「欠片も気にしないのは君くらいさ、ミュウ。実際、僕にも少しも遠慮しなかった」
「そうなの? 君の度胸には感服するわ」
「家族がなんだの親がなんだの言いだしたらキリがねえだろ? 本人にしてみたら堪ったもんじゃねえ」
その感性は多数派に属さない。
「そんなんだから君の周りに集まってくるのかもね」
「どういう意味だよ?」
「頭の出来が雑だってこと」
ささやかな復讐をする。
彼をいじるとエナミも笑いだす。その様子は普通の少女のもの。
(ううん、ちょと違うかも)
普通でない感情も混じっている匂いがしている。
(これはちょっと面白くなってきたわ。スクール生の集まりだけに恋模様も複雑みたい。盛り上げちゃおうかしら?)
番組的に美味しいところを発見してしまう。『あなた普段はどんなことを?』自体が生っぽいコンテンツだけに余計な脚色をする気はない。それでも追いかける価値はある雰囲気だった。
「はい。せっかくの合宿なんだから訓練に入りましょう」
「はーい!」
チーフに目配せを送ると頷く。このへんはすでに阿吽の呼吸である。
デュカは注目の人物を絞って追いかけることにした。
次回『甘酸っぱい合宿(3)』 「数のバランス悪くありませんか?」




