ダキアカップ決勝(6)
ウィーゲンは烈波を受けたバーネラ機が全く動かなくなったのを不審に思う。
「どうした? 早く避けろ、バーネラ」
「これ、ヤバ……」
答えた彼女の背後で聞こえる警告。その内容に彼は愕然とする。
『脊椎フレームに重大な損傷が発生しました。機体駆動が著しく制限されます。パイロットは脱出してください。くり返します』
緊急事態を表すアラートは機体システムの基本のもの。続いてクロスファイトのゲームシステムに切り替わった。
『ダメージレベルが一定を超えました。本機は撃墜判定となります』
ウィーゲンのヘヴィーファングにもバーネラ機の撃墜判定が表示される。僚機はゲームシステムによって機動停止させられた。
「待……て」
「冗談だろ!」
「現実見ろよ」
ハッと気づいたときにはガヒート機の後ろにヴァン・ブレイズが移動している。二人して青ざめた。
「逃げ……!」
「くおっ!」
「烈波」
今度はガヒート機が痙攣したように揺れる。腕がだらりと落ちた。
『脊椎フレームに重大な損傷が発生しました』
同様のアラートがくり返されてしまう。
ガヒートのヘヴィーファングも力が抜けて若干前屈みになりそのまま停止。システムの撃墜判定が下される。
「なにをした?」
愕然と真紅のアームドスキンを見る。
「なにってそのまんまだろ? メインフレームをぶっ壊した」
「そんなことが可能なのか?」
「烈波みてえな衝撃浸透型の攻撃は直接通る。打ち込む場所さえわかってりゃ簡単だ」
怖ろしいことを言う。
「構造フレームは強度を上げるもんだが、メインフレームくれえ自由度高くないといけねえと限度がある。上下方向は特に負荷に強いが、横からの衝撃にはちっと弱えんだよ。それでも外部からとなると相当の力が必要だがな」
「烈波なら効くと?」
「複雑な構造してる部分ならな」
ミュッセルがパイロットでもありエンジニアでもあると言った意味がようやくわかった。彼はアームドスキンの構造上弱い部分を熟知しているのだ。
「部分的に派手にぶっ壊したりバイタルロストを狙うのは、機体そのものを簡単に直せねえほど壊さねえためなんだよ」
「気遣いだというのか」
「てめぇらが頑張り過ぎるから、これしか撃墜判定させる方法がなくなっちまった。大丈夫だろ? 後ろにゃ管理局の兵器廠が付いてんだからよ」
メインフレームのような部位がダメージを食らうと修理に非常に時間と手間が掛かる。それまでのダメージが蓄積していたりすれば交換などの対応が必要な場合も。腕や足などの換装可能な部分とは事情が異なる。
そうなると試合復帰は難しくなる。トーナメント等の試合周期が短いものであれば勝ち残っていても棄権せざるを得なくなる可能性が高い。なにより、出費が尋常でない。
「意地張るのもいいが、そこにもリスクがあんのを忘れんなよ? てめぇが無理した所為で整備士が割を食うんだよ」
「そう……だったのか」
意識が散漫になっていたのかアラームに引き戻されたときにはブレストプレートに両手が添えられている。全身を使った最強の烈波が放たれる。
ウィーゲンの意識は簡単に飛んでいってしまった。
◇ ◇ ◇
「待って待って! あの三人が? 冗談きついですわ!」
「頑張ってたけど無理だろうね。ミュウはレギュレーションが許せば一人でもチーム戦に挑みたかったみたいだし」
「ユーゲル?」
マルナへの援護が緩んでいる。
「ヤバい! 捕まった!」
「その場所は僕がリンクで伝えてあるからさ」
「ユーゲルぅー!」
砲撃手の表示もあっという間に撃墜判定に変わってしまう。残っているのは彼女と、そして援護ありでも押されていた剣士の少年だけ。
「格好つかないだろうからギブアップ勧告はしないでおくよ」
「ちょ!」
「じゃ、さよなら」
無数の剣閃が舞ってマルナのヘヴィーファングが斬り刻まれる。現実なら一瞬で爆散していたであろう。
「最後の一機もノックダウーン! 勝者、チーム『ツインブレイカーズ』! ダキアカップ優勝ぉー!」
アナウンスがマルナの耳に虚しく響いた。
◇ ◇ ◇
「負けちゃったの?」
「そうなの。聞いてよー」
メリル・トキシモは通信相手に愚痴る。
たまになら会うこともあるが、非常に忙しくしている人である。今回はオンラインで我慢することにした。
「自信家なだけじゃなくて実力も伴ってるのはうちも知ってる。そこまでとはね」
「とんでもないのよ、あの二人ったら」
「仕方ないんじゃない? だって二人とも関係者なのは最初からわかっていたことでしょ? マチュアはあなたにも忠告してくれてたし」
それも本当のこと。メリルは接触前から彼らがゼムナの遺志に関わり持つ者なのは知っていた。そのうえで挑もうと考えたのだ。
「わかってるけど……! 腹立つー」
「はいはい、結構いい勝負してたんじゃない? 少なくともあなたの戦術は破られてないから。機体性能がついてこなかっただけ」
「そうよね? リベンジしてやる」
彼女に対すると子供っぽくなってしまうのは否めない。なにしろ、メリルが赤ん坊の頃から知っている相手なのだ。
「もうすぐよ。あれが実装されたら機体性能でも追いつく。そうしたら戦術での勝負も可能になると思う」
「ほんとに?」
「ええ、スリーブはかなりの自信作なんだから」
「お願いね、シータ」
メリルは話し相手のカルメンシータ・トルタを愛称で呼んだ。
次はエピソード『非日常型選手』『ミュウ、突撃される(1)』 「赤外線反応は?」