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ダキアカップ決勝(5)

 ウィーゲンが烈波(れっぱ)の直撃を避けたことで戦況は一変する。間を置かず包囲に復帰できたのでガヒート、バーネラと三機の攻撃体制が整った。


(余裕など作らせん)

 チーム結成以来、息の合ってきた僚機との連携を実感する。


 ガヒートの火の出るような突きを、ヴァン・ブレイズは腕のブレードスキンでこすり上げる。姿勢が低くなったところへ、バーネラが肩口にかまえたブレードを神速の如き勢いで落とす。

 空いている腕で受けざるを得なかったミュッセルは踏み足を滑らせて密着してくる気配。そこへウィーゲンの横薙ぎが背後から襲うと横っ飛びで回避した。烈波(れっぱ)には持っていかせない。


「急に勢い付きやがったじゃん」

「貴様にはもう技を放つ余地などない」

「そうかよ。んじゃ、ちょっと本気出すか」


 ヴァン・ブレイズの速度が一段上がった。足捌きだけで上半身が霞むほどの駆動速度を見せてくる。合わせて、拳を繰り出すスピードさえ上がっているようだ。


「こんな動き、どうやって?」

「考えている暇ないぜ。まだ見えてる。受け損ねなければいいだろ」

「こいつ、手に負えない。マルナはまだレギ・ソウルを落とせないの?」


 間断なく続く拳撃に愚痴を漏らすバーネラ。しかし、ウィーゲンはもう一方の状況がそれほど良くないのを見て取っていた。


「勝手を……言わないでくださる?」

 息吐く暇もない連撃にさらされながらマルナは反論してくる。

「なんですの、この男。ビームを弾きながらですのに受けるのが精一杯の攻撃をしてきますのよ。指導教官の方でもこれほどでは……」

「無理をしなくていい。こちらは目処がついてきた。堪えてくれ」

「そんなでけえ口叩いていいのかよ?」


 両面とも拮抗状態を維持しているが出口が見えているのはウィーゲン側である。ミュッセルの物言いは打開策のない者のブラフと受け取る。


「実際、貴様は困っているだろう? 確かにスピード、パワーともに一段階上がっている。しかし、烈波(れっぱ)を耐えた我らをバイタルロストさせるような攻撃手段はない」

「俺様を落としてから言え」


 彼らは攻撃の手を緩めたりはしていない。三者の繰りだす斬撃をヴァン・ブレイズは弾き避け躱しと忙しい。時折り交えられる烈波(れっぱ)も解析された発動タイミングで被害を解消してきている。


「ガヒート」

「くおっ! このタイミングか!」


 メリルの掛け声に合わせてヘヴィーファングを跳ねさせる。ヴァン・ブレイズの掌底は空に突きだされたのみ。技を放つ隙もなかったと思われる。


「このとおり、もう烈波(れっぱ)は通用しない」

「だからって俺を止められんのか?」

「いいだろう。スタミナが尽きるまで付き合おう。三対一でどこまで持ちこたえられる?」


 ミュッセルは足も使いながら的を絞らせないようにしている。間に拳も放ってくるが一時ほどではなくなってきた。明らかに窮地に追い込みつつある。


(ようやく理解が追いついてきた)

 凄まじいほどの足捌きを発揮するヴァン・ブレイズ。

(フラワーダンスの二刀流(デュアルウエポン)、あの怖ろしいほどの機動力はこれの対抗手段として会得したものだ。そうでなければ話が合わない。彼らには普通の選手の動きなどスローモーションのように見えているのかもしれない)


 袈裟に落とした斬撃は真紅の残像しか捉えていない。回避方向にブレードを返すもそこにはもういない。メリルが送ってくれる想定位置に従い、反射的に攻撃を放つことでしか抑えられないでいる。

 微妙な位置取りもコマンダーに従っていないとままならない。彼ら個々の連携だけでは穴だらけだっただろう。彼女は先手先手を打って逃げ道を塞いでくれている。


「手詰まりだ。勝負あったと認めたまえ」

「はっ、抜かしてんじゃねえぞ?」

「実際打つ手がないはず」

「こいつを喰らってもか?」


 一瞬消えたと思えるほどの速度で飛び込んでくる。目の前に突かれた右足が盛大な踏鳴(ふみなり)の音を響かせた。

 低い姿勢から瞬速の拳が飛んでくる。躱す暇もなく脇腹にヒット。コクピットにもとてつもない衝撃音と同時に慣性力()が掛かる。


(しかし、それまでだ。烈波(れっぱ)ほどの威力はない)


 機体が浮きそうな一撃だが戦局を変えるほどではない。ウィーゲン機をノックバックさせるだけのパワーしかないのでは撃墜(ノック)判定(ダウン)は奪えない。


「なにをやっても変わらない。そのスピードとパワーをどれだけ維持できるという?」

「あんた、勘違いしてんだろ」

「なにを?」

「俺はパイロットだけどよ、エンジニアでもあるんだぜ?」


 意味不明なことを言う。惑わすための手管なのかと思った。


「警戒なさい。なにかしてくるわ」

 メリルが鋭く告げてくる。

「ですが、これ以上なにを?」

「彼は個人でならリミテッドクラスなのを忘れないの」

「しかし」


 口車に乗らず反撃に出ようとしたがヴァン・ブレイズはもう目前から消えている。ノックバックさせられた分、対処が遅れている。


(足掻こうともう逃れられん)


 メリルの指揮の下の包囲は完璧だ。逃げられてはいない。真紅の機体はガヒートの攻撃を避けつつバーネラ機の背後に位置していた。逃げ道を塞ぐように動く。


烈波(れっぱ)


 ウィーゲンにはバーネラのヘヴィーファングが揺れただけのように見えていた。

次回エピソード最終回『ダキアカップ決勝(6)』 「これ、ヤバ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 リタイアさせるには、中身(パイロット)を倒すか、 機体を壊すか。
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