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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
クロスファイト

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リクモン流(3)

 道すがら、グレオヌスは「リクモン流」について調べる。わりと簡単にひととおりの情報が出てきたところをみると本当に有名な流派らしい。


「へぇ、メルケーシンで唯一営業認可されてる格闘技道場なんだ」

 そう書かれていた。

「知らねえ。話は聞いたことあるけど調べたこともねえ。俺は学べるもんがあればそれでいい」

「らしいよ。剣闘技やガンスクールも営利法人としてはかなり狭き門になってるみたいだね。中央だけあって変なしがらみは避ける施策。だから、ほとんどの団体が営利でなく同好クラブで登録されてる」

「教え合うけど金は取らねえってやつか。レベルが知れるな」

 彼も同意するのみ。


 管理局籍でなく国籍を持つ企業は参入が難しくなっている構造。現在こそアームドスキン開発競争のために様々な国家から企業が入っているが、それ以外は管理局籍法人がほとんどを占めている。


(こうやって中立を保つ努力をしてるのか)

 神経質にさえ感じるが現実はそうなのかもしれない。


「格闘技で管理局籍持ってるのがリクモン流だけ。というか、リクモン流そのものがメルケーシンにしか道場を開いてない」

 説明を聞いてもミュッセルはピンとこない様子である。

「流行らねえのかもな」

「聞いたとおりの敷居の高さならね」

「パイロット技術としても、だ。そいつが伴わねえとこれからは駄目だろ」

 意外と深い考えのもとの発言だった。

「そもそも肉弾戦がね。アームドスキンがあまりにも人間並みに動けてしまう所為かも」

「時代の波に押し流されて消える流派か。ま、それもしょうがねえ」

「クロスファイトが広まるようならまだわからないさ」


 実戦じゃなく興行目的としては見込みがある。派手さは折り紙付きなのだ。


(本人たちがそれで満足できるか否かの話になるけどな)

 会ってみないことにはわからない。


 ミュッセルについていくと古風な構えの低層建築に辿り着く。時代を逆行したかのような造りには趣さえあった。手で開け締めする方式の外窓など初めて出会った気がする。

 そこから流れてくるのは掛け声のようなもの。腹の底から響く気合いが込められている。それ以外は床を叩く音くらいか。


「うーっす」


 かろうじて自動でスライドするドアも古風な装飾が施されている。投影パネルサインではなく、文字で『リクモン流』と記されているところもこだわりを感じた。


「来たのか、ミュウ」

「おう、連れもいる」


 ドアの脇から顔を覗かせたのは大男である。人類種(サピエンテクス)でグレオヌスが見上げるほどとなるとなかなかいないものだ。その男が睨みつけてくる。別のものも吹き付けてきたが。


「初対面で気当たりするのはどうかと思うぜ、師範代」

 ミュッセルが鼻で笑う。

「前に女子を泣かしたじゃんかよ」

「あれで泣いたり腰を抜かすようでは中に入れるわけにはいかん」

「そんなことしてっから儲からねえんだよ。スマイルで迎えてやれよ。ほんとにやってたら俺が引くけどな」


 いきなり冗談をぶつけている。くだけた友達口調で、だ。相当馴染んでいるものと思われた。


「できるか。そいつはどうにか合格だ。顔付きも勇ましいしな」

「油断してっと食いつかれるぜ」

「食いつかないよ」


 とんでもない言い草なので訂正しておく。グレオヌスの牙は実用的ではあるが実戦に用いたことはない。


「すまねえ、師範。忙しくてなかなかな」

 口調はともかく、前に行って膝を突き叩頭している。

「よい。お前はすでにリクモン流を修めておる」

「ほんとは貰ったもん返したいとは思ってんだぜ?」

「宣伝はしてくれておる。名が売れるほどに入門希望者は増えた」


 師範と呼ばれたのは白髪の老人だ。天然物と思われる板敷きの床の一段高いところに綺麗な姿勢で座っていた。纏う空気は静かだが深みは知れない。ひと度立ち上がればなにが起きるか彼にもわからないほど。


「師範代にって言ってくれたのに蹴っちまったしな。迷惑しか掛けてねえ」

「やりたいことがあるのだろう? 好きにするがよい」

「ああ、強い奴に勝ちたいだけだからよ」


 最高の笑顔で対するミュッセルに師範は穏やかな笑みを返している。まるで祖父と孫の会話を見ているかの如き光景だった。


「ミュウ、せっかくだから稽古をつけてやってくれ」

「おう、いいぜ。ちょっと着替えさせろ」

「そこで脱ぐな!」


(叱られてるな。こんな環境でも彼の顔には騙されるか)

 おかしくて仕方がない。


 ミュッセルの後ろに控えて姿勢を正して座っていたのだが、師範に目で促されて横に移る。座り直すと一つ頷いて視線を修練場のほうに向けた。


「グレオヌス・アーフと申します。お見知りおきを」

 礼を送る。

「ゴセージ・オーレンだ。すまぬな、若いのが迷惑を掛けた」

「いえ、なにほどでもありません」

「そう言わせるだけはあるか」

 落ち着いた声音だ。

「試しなのでしょう? 試金石というべきでしょうか」

「わかるか?」

「なんとなくは。相手を計るにはそれなりの理由もあるのでしょうし」


 グレオヌスが横目で見るとゴセージは片方の口端だけを上げて笑った。

次回『リクモン流(4)』 「簡単に教えてくださってもよろしいので?」

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