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ダキアカップ決勝(4)

「んぐっ!」

 ウィーゲンはかろうじて苦鳴を漏らさずにすんだ。


 アームドスキンのパイロットシートを内包する操縦殻(コクピットシェル)は衝撃に対して内部共鳴を起こさないよう前後で非対称の楕円球形をしている。だというのにパイロットである彼を襲った衝撃は生半可なものではなかった。


(定期的に行われる耐ショック訓練でも優秀な部類の私が……)


 アームドスキンのパイロットは戦闘時に常に慣性力()にさらされる。それは加減速などの機動によるもの。他の物体や機体同士の衝突によるもの。様々である。

 地上では歩行するだけでもそれなりに揺れるので軍務科では耐ショック訓練が継続的にある。身体に合わず挫折する者までいる訓練だがウィーゲンは耐えられるほうだった。


(なのにミュッセルの必殺技『烈波(れっぱ)』はこれほどまでに……)


 メリルから示唆もあったし自身でも被弾は想定している。だが、パイロットの彼は耐えられると考えていた。要はこれまでの対戦相手のように機体まで破損しなければ怖ろしくはないと考えていたのだ。


(ヘヴィーファングは耐えている)


 衝撃で幾つかのアラートが発生しているが動作に支障が出るものではない。問題はウィーゲンが即座に動けない状態なだけであった。


「ぬおお!」

 めまいのする視界を振り切って立ちあがる。

「バイタルロストしてねえのかよ。気合入ってんじゃん」

「まだぁ!」

「何発耐えられっか試してみっか? 面白え」


 ウィーゲンだけ攻撃にさらされているのではない。ガヒートもバーネラも彼が復活するまで援護してくれている。今の会話は、息もつかせぬ連撃の中で行われたもの。


(これだけ余裕があるということは……)


 危険な兆候だ。ヘヴィーファングに支障が出ないと証明できただけ。自分は耐えられたが他二人が耐えられる保証はない。


「気を付けろ」

烈波(れっぱ)

「ぐはぁ!」


 ガヒートのヘヴィーファングが横っ飛びに転がる。彼の機体もそんな感じだったのだろうか。知ってはいても肌身で感じる衝撃は想像を絶していた。


「耐えろ、ガヒート! ヘヴィーファングはもってくれる!」

「かっ! ぶはっ!」

 肺の空気を根こそぎ吐きださされたような息遣い。

「こんなの……」

「こいつも耐えやがるか。耐衝撃性まで高めてんな。余計なことをしてくれるもんだぜ」

「退くな、バーネラ。すぐに行く」


 包囲陣が崩れれば戦略も崩れる。ヴァン・ブレイズを逃がせばレギ・ソウルを抑え込んでいる二機にも影響して一気に劣勢になってしまう。


「OK、ウィーゲン?」

「耐えます。耐えてみせますとも!」

 メリルからのチーム回線に答える。


 これが最後の一歩なのだ。防ぎきれないミュッセルの烈波(れっぱ)に耐えさえすれば勝機が見える。この必殺技が通用しなければ撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪う術を失ってしまうからだ。


「来い!」

 意図的に注意を引きつつ攻撃に加わる。

「楽しい楽しいチキンレースの始まりだぜ?」

「そうはいくか」

「あんたらだってそのつもりなんだろ?」


 読まれている。三機で包囲した段階で押しつぶすか弾き返されるかの二択しかない。押し負けるか否かは三人が烈波(れっぱ)に耐えうるかどうかで決まる。


「い!」


 ブレードグリップを持つ手首を押し上げられたバーネラ機が脇腹をさらしている。ヴァン・ブレイズが触れた手を押しだすように機体をひねるとヘヴィーファングが跳ねた。


「うあっ!」

 訓練中でもほとんど聞くことのない彼女の悲鳴。

「ふっぐ……」

「趣味じゃねえが、こいつも勝負だ。勘弁しろよ」

「頼む。耐えてくれ、バーネラ。もう一息だ」


 ノックバックしたあとにバランサー頼りで立っているだけの機体は動けない。中のパイロットは悶絶して操縦どころではないからだ。


「このやろ!」

「粗くなってんぞ」


 復帰したガヒートが追い打ちを防ごうと雑な斬撃を放つ。容易に躱されるも、そのまま機体ごと挟み込んで僚機を守ろうとした。


烈波(れっぱ)


 密着した状態ではミュッセルの攻撃を避ける術がない。押し合いの中での一撃なので威力は落ちているようだが、それでもガヒート機はもんどり打って倒れる。


「ミュッセル!」

「うっせえよ」

 追撃はさせられない。


 脇から繰りだした斬撃はかがんだヴァン・ブレイズの頭上を通過したのみ。返す剣閃も半身で逃げられかすりもしない。踏み込んで跳ね上げようとした剣先は手首を押さえられて止められている。


「喰らえ」


 腕を押し退けつつ肘がブレストプレートの真ん中に当てられる。接触して送り込まれる強力な衝撃がウィーゲンのいるコクピットを叩こうとしていた。


「くぬおっ!」


 ヴァン・ブレイズがわずかに機体をひねる前に肘の先から中心をずらす。衝撃音は派手だったが、芯のずれた一撃はそれほど操縦殻(コクピットシェル)を揺らさなかった。


「はずしたか」

「……ぐ。迂闊だぞ。貴様は必殺技を見せすぎた。タイミングを見切れば躱すのも可能だ」

 堪えつつ言う。

「たまたまじゃね?」

「偶然ではない。証明してやろう」

「面白え」


(この壁を越えれば勝利は目前だ)

 奥歯を噛みしめる。


「耐えなさい。かなりデータが揃ってきたから」

「お願いします、メリル。皆に共有を」


 回避タイミングをリンクできれば勝利できるとウィーゲンは意気込んだ。

次回『ダキアカップ決勝(5)』 「貴様にはもう技を放つ余地などない」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 うわぁ、サンドバッグだぁ!?
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