ダキアカップ決勝(3)
グレオヌスの右腕はビームを防いだブレードガードから斬撃へと変化している。しかし、ブレードに掛かった負荷から斬撃はわずかながら遅れが生じヘヴィーファングに逃げられていた。
(連携がこなれている。剣闘技も十分な熟練度があるから対処されてる)
相手剣士は決して無理をせず冷静に組み立ててくる。隙の少ない駆け引きが踏み込む隙間を与えてくれない。こちらが無理をしなければ作れないと思わされた。
(それも罠。強引に仕掛ければ狙撃手が畳み掛けてくる。悪手だな)
不利な状態を作られると立て直しに時間が掛かるだろう。まだ仕掛けどころではない。ただし、時間を奪われるほどミュッセルが不利になるかもしれない。
(あっちに三機。同等の力量と考えれば落としにきてる)
それぞれに足留めは成功している。詰み手を組まれたほうから撃破を狙ってくると思われる。どちらが先につまづくか。コマンダーに冷静に観察されている。
(不用意なことができない。厳しい敵だ。こういう戦闘を面白がるんだからな、ミュウは)
少なくとも先に優勢な局面を与えることはできないグレオヌスだった。
◇ ◇ ◇
背中側から袈裟に落とした一撃を仰け反ってヴァン・ブレイズは躱している。それも数cmという最低限の避け方だ。極力隙を作りたくないがゆえのぎりぎりの見切り。
(全く油断はない。どう来ても捌くつもりなんだ)
ウィーゲンとガヒート、バーネラの剣士三機で攻めているが死角を見いだせない。
落ちた剣先は返って薙ぎに行くも機体ごと下がっている。反転した真紅のアームドスキンは背後を狙ったはずの斬撃を腕の甲で弾いて跳ねあげる。次に繋げさせてくれない。
しかし、そのときには彼の上段からの最速の一撃が落ちてきている。ミュウはやむなく甲を滑らせて流した。
(これがなければな)
腕を覆う青白い力場が煩わしい。
(ブレードと同質の力場だとメリルは言っていたな。技術的には難しくはないにしても、普通はこんな使い方をしようとはしない。リフレクタより遥かに面積が小さいから使い道に限りがある)
使用するにも高いパイロットスキルを要求する。なのに使い道は防御しか無い。当たり前の考えの持ち主であれば効率が悪いと考える。
(体術に自信があれば使いやすいのか? いや、そもそも体術を重視するほうがどうにかしているんだが)
利点が少ない。力場強度が高いだけノックバックが起きにくいのは事実。あとは、件の怪物が放つ異質なビームを阻めるだけ。
クロスファイトという特殊な環境下でのみ通用すると思われたミュッセルの格闘技。しかし、ヴァラージという怪物相手にも対抗できたのは事実だ。
(まさかな)
まるでヴァラージも視野に入れて建造されたかのようなアームドスキンとも考えられる。
(そんなことを考えている場合じゃない)
迷路に入り込みそうな思考を邪念として振り払った。
戦況が拮抗しているのはメリルが推奨した間合いの取り方のお陰である。ブレードの一足の間合いであるのは他のチームの対策と変わらないが、それを三機でやる大盤振る舞い。
彼の必殺技『絶風』の届く距離ではあるが、攻め続ければ溜めの必要な大技は出せない。必然、強引な小技でのみ対抗してくるはずである。
「こいつ、なんつー素早い。アームドスキンの動きか?」
「言ってる暇あったら攻めてよ。ちっとも疲れる様子ないんだから」
ウィーゲンの三連突きを巧みに躱して最後の一撃もブレードスキンで弾かれる。隙間を与えず斬り掛かったガヒートの横薙ぎもこすり上げられた。右手が掌底を形作り反撃に転じようとするが、そこへバーネラの斬りあげが走る。
機体をずらして半身で空振りさせ、踏み込もうとするところへウィーゲンが再び斬撃を放つ。肩口に入るかと思われた一撃も掲げられた右腕の甲で止まっていた。瞬速の左拳が飛んでくる。
「ぐぅ!」
激しい衝撃音に合わせてコクピットを襲う慣性力に耐える。ノックバックはやむを得ないがそれ以上のダメージがなければいい。
(ブレストプレートへの衝撃のみ。損傷はない)
予想どおりヘヴィーファングの強度はこれまでのアームドスキンの比ではない。他の機体はクロスファイト仕様に設計されているにしても基本構造は継承されていた。見直しされている本機は強力な拳の攻撃にも耐える。
「ウィーゲン?」
「問題ない。続けるぞ」
計算が現実に近づいてくる。もう一歩堪えられればヴァン・ブレイズの勝ち目は消える。勝利への道筋ができあがるのだ。
「くおっ!」
「耐えろ、ガヒート」
顔面に拳をもらったヘヴィーファングがよろける。しかし、頭部にも目立った損傷はない。
「いかれてねえか。芯は外してたが、綺麗に入ったはずなんだがよ」
「わかったか。ヘヴィーファングに君の攻撃は通用せん」
「でかい口叩くのはこいつを喰らってからにしろ」
赤い足刀がバーネラの胸甲を打ち転倒させる。ガヒートは機体を立て直したばかりで間に合わない。彼の斬撃は手首を叩かれ地面を削る。真紅の機体が目前だ。
「リクモン流奥義『烈波』」
これまでにない衝撃がコクピットのウィーゲンを貫いた。
次回『ダキアカップ決勝(4)』 「バイタルロストしてねえのかよ。気合入ってんじゃん」