ダキアカップ決勝(2)
「我らギャザリングフォースが決勝まで勝ち残っているのは実力あってだとアリーナの方々もわかってくださっていることと思う」
ウィーゲンは口上を述べる。
「それは君たちツインブレイカーズも同じ。お互い悔いのない試合にしようではないか」
対峙する真紅のアームドスキンも一歩前に出てくる。ミュッセルは彼の言葉に不敵な笑みを返してくる。まだ試合開始前なので相互に通信パネルも開いて表情まで見られていた。
「そんな格好いい台詞吐いてていいのかよ。数分ともたずに負けちまったら恥かくぜ?」
挑発が返ってきた。
「実力を認めているのは我らも同じ。つまり君らも研究される対象だ。勝算がなければこんなことは言わない」
「おうおう勝つつもり満々ってわけだな。ま、他の鼻っ柱だけの先輩方よりは目が利くって思っとく」
「驕りはない。そして我らは勝つためにここにいる」
「上等だ」
赤毛の少年は掛かってこいといわんばかりに指で招く。口から飛びだすのは悪びれた台詞だが、見た目は悪戯げな少女のそれでしかないのは彼の不幸かもしれない。
(あれに騙される。つい見くびってしまうだろう)
「公務科の女子までもがどうしてあんな動きができると思う? あの子たちがツインブレイカーズといつも訓練しているって話だからよ」
二回戦終了後にメリルが語ってきた。要するに、この二人の相手をするにはそれだけのパイロットスキルが不可欠だという。
(油断すれば彼の言うとおり数分で終わる。そのつもりでいく)
戦闘開始に向けて集中力を高めていく。軍務科課程の二年半で完全に身についている。不安はない。
「お互い気合十分の様子! これは面白い試合になりそうだ! アリーナも期待が爆上がりでしょう!」
湧く観客席の前に防御フィールドの膜が生まれると少し歓声のボリュームが下がった。
「それではデビアカップ決勝戦を開始します! ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
合成音のゴングが鳴り、3Dの「ファイト!」の文字がくるくると踊って消えた。ヘヴィーファングのコンソールでも試合時間のカウントアップが始まっている。
(まずはマッチアップを整える)
相手は二機。普通なら開始前にフォーメーションを整えておいてもいいのだが、メリルはマッチアップでさえも読ませないようにと意識的に配置を変えている。
ここからヴァン・ブレイズとレギ・ソウルそれぞれに分かれて攻略開始となる。そのための前段が始まった。
(来た)
モニタに赤く輝く線が生まれる。砲撃手ユーゲルの射線がチームリンクで送られてきて反映されている。今はウィーゲンのヘヴィーファングを貫いている。つまりブラインドに入っているということ。
「散れ」
ユーゲルの号令に合わせて機体を横滑りさせた。タイミングを合わせてトリガーを落としていた彼のランチャーが吐いたビームがツインブレイカーズに襲い掛かる。
「く!」
予想していたかの如く二人の腕に青白い薄膜が宿り、ビームと干渉して紫電の火花を撒き散らした。一発残らず弾かれて、ノックバックもせずその場に留まっている。両サイドに躱してくれれば分断できる作戦だったが通用しない。
(メリルの予測どおりか。ならば実力行使で分断する)
作戦では、マルナがユーゲルと組んで狙撃を交えてレギ・ソウルを押し下げていく。剣士のグレオヌスは同じ間合いのため、多数で取り囲んでも効果が薄い。
ヴァン・ブレイズのほうは間合いが短いので包囲の効果が高い。ウィーゲンとガヒート、バーネラの三人で当たれば確実に足留めはできると計算されていた。
(確実を期するにはレギ・ソウルをまず一歩下げさせる)
あとはなし崩しに下がっていくだろう。
初手の確実性を高めるつもりでフェイントを交えてグレオヌスに斬りつける。その瞬間、猛烈なプレッシャーが背中から浴びせられた。
「……なっ!」
咄嗟に自機を横っ飛びさせる。横目に見た背後には拳を溜めたヴァン・ブレイズが今にも打ち込もうとしている姿があった。
(なぜ?)
ガヒート、バーネラともにノックバックしている姿勢だ。初撃を跳ね返されただけでなく一撃はもらっている。
「ご、ごめん。こいつ、めちゃ素早くって」
「こんなに重いとは思わなかったんだ」
言い訳は手遅れで追撃を受ける。立ち上がる暇もなく、まさにスレッジハンマーと思える拳が二撃三撃と転がって逃げる彼の残像に打ちつけてくる。地面には小さなクレーターが生みだされていた。
「ウィーゲン、作戦どおりなさい」
メリルに指摘される。
「申し訳ありません!」
「立て直して。ユーゲル、少し厚めに。インターバル分くらいはマルナが吸収してくれるわ」
「了解した」
(躱しきれると思ってくださっている。応えねば)
ガヒートとバーネラの実力があればミュッセル一人は容易に抑え込めると思った。わずかな油断が生んだ危機だ。それも許されないのだと実感した。
(女神の計算を狂わせてしまった。なんたる失態)
焦りが生まれる。
(だからといって気負うと悪循環だ。ここは冷静に)
立て直した二人が追いついてきてくれたので距離を取って機体を立ちあがらせる。すぐに臨戦態勢に移る。
ウィーゲンはいきなり汗だくで呼吸を乱していた。
次回『ダキアカップ決勝(3)』 (こういう戦闘を面白がるんだからな、ミュウは)