ダキアカップ決勝(1)
決勝戦は週末のカンスの日の午後。始まったばかりの流星杯の本トーナメントの試合がメインゲーム。決勝なのに前座扱いである。
ただし観客の入りは上々であった。もちろんツインブレイカーズのファンが押し寄せているのもあろう。ビギナークラスのギャザリングフォースが対戦相手であるのも理由の一つだと思いたい。
「それではダキアカップ決勝戦の時間です! 南サイドよりの入場はチーム『ギャザリングフォース』! なんと決勝まで駒を進めたのは、トーナメント一回戦が初陣だったスクール生チーム!」
リングアナが声を張る。
「下馬評が高かったのは事実でも、彼らがここまで勝ち登るなど誰が予想したでしょうか? しかも、玄人を唸らせるほどのテクニカルな試合で我らを楽しませてくれました! 応援したいと思わせてくれるチームの登場は嬉しいかぎりです!」
決勝ともなると入場に合わせて称賛の言葉まで送られる。否が応にもテンションが上がる。
「リーダーはこの人! 『静かなる闘志』、ウィーゲン・オルトラム選手ー!」
通り名まで付けられる。
「続くは『熱き剣閃』、ガヒート・バイス選手ー! さらには『踊るブレード』、バーネラ・ククイット選手ー! そして『冷徹なる閃光』、マルナ・ショルダン選手ー! 以上四名もの名手剣士を誇る攻撃型チーム!」
それぞれがコールに応えると歓声も降ってくる。彼らの強さは浸透しつつある。
「皆を支えるのが唯一の砲撃手『背中の担い手』、ユーゲル・シェイカス選手ー! 乗機はこちらも皆を唸らせる結果となったアームドスキン『ヘヴィーファング』!」
ひっそりとではあるが評価は高い。
「公務官学校軍務科トップたちの快進撃はどこまで続くのか! まるで、いつぞやを彷彿とさせる展開となってまいりました!」
(その評価、今日でもう一段上げなければならなくなる。人気チームをも撃破した強者としてな)
ウィーゲンは確信している。
「対するは北サイドからの登場! 劇的デビューから勝者の名をほしいままにし、なんと首都防衛の英雄の名まで手に入れてしまった恐るべき少年たち!」
すでにアリーナは湧きあがっている。
「チーム『ツインブレイカーズ』! 堂々の入場です!」
轟々と響く声援を背に、真紅と灰色のアームドスキンが拳を掲げて歩いてくる。余裕綽々という風情が小憎らしい。
(私が剥ぎ取ってみせよう)
自然と口端が上がる。
「先陣を切るは驚異の打撃選手! 『天使の仮面を持つ悪魔』! 『紅の破壊者』! ミュッセル・ブーゲンベルク選手ー! 乗機は『スレッジハンマー』ヴァン・ブレイズ!」
「俺様の愛機に変な冠付けんじゃねえ!」
クレームを入れている。
「本当は『動くスレッジハンマー』と言いたいところを控えました!」
「どうせなら全部控えろよ!」
「私の仕事が奪われようとしています!」
リングアナとのやり取りでアリーナの空気は一転。皆が楽しみにしていたとばかりに笑顔になっている。サービス精神では遠く及ばないか。
(そこまで真似する気にはならんよ)
緩んだ空気に額を押さえる。
「肩並べるは無二のバディ! 『狼頭の貴公子』! 『ブレードの牙持つウルフガイ』! グレオヌス・アーフ選手ー!」
丁寧な礼が交えられる。
「乗機は『剣と拳』レギ・ソウル!」
ブレードグリップと拳を示すポーズのアームドスキンに黄色い悲鳴が重なる。真面目に見えるが、この下級生もクロスファイトの流儀に染まっているらしい。
「不運が重なり流星杯で暴れる彼らを見ることは叶いませんでしたが、幸か不幸か非常に面白い組み合わせとなりました!」
煽りがはじまる。
「片や破天荒を地で行く型破りのバディチーム! 片やアームドスキン戦闘の真実を教えてくれるかのようなテクニカルチーム! 運命の巡り合わせはこの二つをここで相見えさせるという悪戯をしました! それを享受できる我らは幸せなのではないでしょうか?」
リングアナの名調子にアリーナから賛辞が飛ぶ。ファンの思いを代弁してくれているということだ。
(その運命の悪戯は君たちを失望させるだろう)
ウィーゲンは静かに思う。
(英雄を次なるステージにいざなう前哨にするつもりだろうがそうはいかん。今日の試合はアームドスキンが新たな時代に突入したと世界に知らしめることになる。メリルの類稀なる戦術と、そしてヘヴィーファングの驚くべき特性が証明する)
彼の予想ではグレオヌスはともかく、ミュッセルでは一機も撃墜判定を奪うことはできない。試合が終了した時点で格闘士タイプは終焉を迎える。
元々ショー的要素しか持たないと思っていたスタイルである。それが本当の終わりになるだけで、今後は本来のアームドスキンの姿に立ち返ることになるはず。クロスファイトの乱れた流れを断ち切る試合になるだろう。
(兵器開発というのは連綿と続く技術の積み重ねであるべきなのだ。その中に機軸となる新技術が生まれる余地がある)
発明とはそういうものだと思う。
(決して一人の人間が捻じ曲げられるようなものではない。操縦技術だけで兵器が革新を迎えるなどあり得ん)
ショー要素を取り除いてこそリングに意味がもたらされる。そうでなくてはならない。
ウィーゲンは証明すべくヘヴィーファングで一歩を踏みだした。
次回『ダキアカップ決勝(2)』 「驕りはない。そして我らは勝つためにここにいる」




