チームワーク
まだまだ続いている流星杯と違い、ダキアカップは小規模トーナメントなので試合数も少ない。週に二度の試合をこなして三週目の週末には決勝戦が行われる。
(ここまでは予定どおり順当に勝ち上がってきたが)
ウィーゲンら、チーム『ギャザリングフォース』と『ツインブレイカーズ』での決勝である。
トーナメント出場はクロスファイト選手を生業とするならリスクのある選択。例えばダキアカップとなると、準決勝4チームに入らねば賞金もポイント取得もなし。時間を食われただけで終わる。
しかし、トーナメントで勇名を馳せねば人気も出ない。次のトーナメントの斡旋ももらえなくなる。合間を縫うようなマッチゲーム、俗に「平場」と呼ばれるような試合だけでは莫大に掛かる経費を稼ぐのは骨が折れる。
(それでもリスクを避けるチームはトーナメントには出てこない。地道に稼ぐ。ダキアみたいな選漏れに参加するのは一発勝負のチームだけ)
なので、それほど強敵はいなかった。彼らのパイロットスキルに加えてメリルの戦術と指揮能力が合わされば苦もなく勝ち抜いてこられた。
(ただし、ツインブレイカーズだけは格が違う)
四天王と呼ばれるチームさえ撃破する有力チームなのは間違いない。事実、二人は一度も欠けることなく決勝まで駒を進めている。
「いい、ガヒート? あなたが落ちたのは明らかに指示無視したからだからね?」
準決勝では彼が撃墜判定されてしまっている。
「あそこは押し切れると思ったんだって」
「だからってコマンダーの命令無視して挙げ句に背中取られたのでは弁明の余地もありませんでしょう?」
「うう……、すまん」
女子二人に責め立てられて消沈する。
「勝ったのだから良しとしましょう? それくらいの幅は取ってあるわ。一人欠けた程度でなら勝利できる戦術でね」
「ですが、メリル。次はそうはいきませんでしょう。彼には反省してもらわないと」
「それはガヒートが重々承知しているはず。決勝はわたしに従ってくださる?」
彼は首が痛くなるのではないかというほど振っている。これ以上下手を打てば外されるのではないかという危機感にさいなまれているのだろう。
(軍務科の女神のチームに居続けたければ、くだらない功名心など捨てることだ)
彼女に認められたい。そんな欲望さえ足を引っ張る可能性がある。必要なのは命令に忠実に応え、与えられた場面で最大限のパフォーマンスを実行する能力である。彼らの将来、つまり兵士にとって日常となる務めのはず。
「もっと控えたほうがいいかもな。ガンナーのユーゲルにベストな仕事を望むのであれば」
自身にも言い聞かせている。
「かまわない。だいたいお前たちの動きの癖は掴めてきた。徐々に良くなっていると思うが」
「精度は上がってきているわ。バラバラのライバル同士だったあなたたちもようやくチームワークっぽいものができあがりつつあるんじゃない?」
「いえ、まだです。飛行しながらスピード感ある連携というのは授業でも慣れていますし、このメンバー同士でもやってきました。ですが制限された空間において際どい駆け引きの中での連携となると満足できるものとは思えていません」
ウィーゲンはそれができなければツインブレイカーズには勝てないと思っている。試合を見るかぎり、二人の単独戦闘能力は他の追随を許さないものだ。クロスファイトを遊びと評していた自分が嘆かわしい。
「ちょっとしたズレが致命的な失策を招いてしまいそうで怖ろしいのです。我らのミスであなたの名誉を汚すようなことがあってはなりません」
「あまり思い詰めないのよ。いざってときに身体が動かないなんて羽目にならないようにね? そこまではわたしにはフォローができないから心配」
「完璧に近いパフォーマンスを目指します。我々は緊張感を糧にできるくらいでなくてはなりませんので」
目前の勝利も、将来の栄達も、自らをどこまで磨けるかで決まる。たかだか三千人程度しかいないクロスファイト選手の中で力を示せないのであれば、三千万を超えるパイロットがいるといわれる星間軍で頭角を現すなど不可能である。
「おそらく、あの二人は決勝戦でも能動的な作戦を取ってこない。受け身にまわるはず」
メリルの予想は予言に聞こえる。
「それだけの自信があるのでしょう」
「それもある。でも、ミュウの性格ならわたしの編む戦術を正面から撃破しようとするわ」
「確かに」
試合内容を見るに、分析は正しいと感じる。
「であれば、彼らは確実に煮え湯を飲むことになるでしょう。これまでと同じ敵を相手すると考えているならば」
「あら、評価してくれるのは嬉しいけど、あの子たちだって名だたるテクニカルチームも相手にしてきているわね」
「無論、メリルの存在だけでも大きなリードとなるでしょうが、それだけではありません」
ツインブレイカーズは今までの相手になかった問題に直面するはずである。彼らギャザリングフォースが持っている長所という問題に。
「普通にやってもミュッセル選手では我らに勝てない。そこにあなたの戦術が加われば勝利は揺るぎません」
「大した自信ね。期待しているわ」
ウィーゲンは胸を張って頷いた。
次回『ダキアカップ決勝(1)』 「俺様の愛機に変な冠付けんじゃねえ!」