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すれ違うも縁(3)

 フラワーダンスの対戦するチームは逃すまいと強引に攻めるがゆえに周りが見えていない。自分たちが徐々に障害物(スティープル)の林に足を踏み入れようとしているのに。


(最初から打ち合わせてあったかのようだ。いや、速攻を掛けてくるかなど想定の一つでしかなかったはず。だとすれば、コマンダーからの指示か)

 ウィーゲンは理解する。


 黃色いストライプのホライズンはブレードを噛み合わせず弾きながら下がっていく。黒ストライプはスティックを回転させて牽制しつつ攻め込ませる。ビームの照準は徐々に甘くなっていっている。それら全てが相手をスティープルの中に誘い込む方向に働いていた。


「馬鹿になんないじゃん」

 バーネラも話しにやってきた。

「実に巧妙ですわ。普段からオプション訓練としてやっていますわね」

「だと思うぜ。マルナ、あんたならアドリブでも真似できるだろうけど、連携となると無理だろ?」

「リンクに頼りながらになりますわ。あんなふうに一分の隙もなくとはいきませんわね」

 急造チームだけあって場数に乏しい。

「青ストライプのガンナー、あの機動でどうやって機体を安定させている? 想像もできないぞ」

「慣れだろう。彼女の異名は三次元スナイパーらしいからね」

「足にマグネットキャッチでも付いているかのようだ」

 らしくない冗談まで加える始末である。


 そうしているうちに相手チームは完全に障害物(スティープル)の中に没している。改めて気づいたのか一瞬動きが止まってしまった。その隙にフラワーダンスのホライズンは包囲陣形に移る。


「あんなに前衛(トップ)後衛(バック)が接近していたら機能しないのにね。もう無闇に動けない状態にされちゃって」

 バーネラの解説は正しい。

「ガンナーが距離を取ろうと動けばフラワーダンスのトップの餌食になるからな。絶妙なタイミングで狙撃ももらってるし」

「ですけど、ここからどうする気なんですの? 包囲してじわじわと消耗させるのも手ですけれども」

「忘れてるわ、バーネラ。彼女たちの切り札がまだ動いてないことを」


 メリルが指摘すると同時に作戦が動きはじめる。奪われた視界から不気味に迫る押し殺された足音。それが現実となって現れた。


「来た!」


 プレート型スティープルの向こうから曲がってくる赤ストライプのホライズン。歩幅の大きい跳ねるような走りでなく、まるでスプリンターの疾走だった。足力は地面を蹴って走るアームドスキンのものとは思えない。


「うっそ。冗談みたいに速い」

「これが本物のショートレンジシューターか」


 一時的に流行った新たな砲撃手(ガンナー)のスタイルはもう早くも下火になっている。攻略されたからではない。誰も真似できなかったからだ。

 それはホライズン特有の性能でしか発揮できない走りに基づくもの。足周りが安定してなければ成立しない戦術だと証明されたからであった。


「どういう度胸?」

「それよりも正確さの問題だ」


 罠を察した相手は当然守備を固めている。砲撃手(ガンナー)を真ん中に入れて剣士(フェンサー)が外にまわっていた。

 それなのに二刀流(デュアルウエポン)は真正面から仕掛ける。横薙ぎを踏み込み足を滑らせて姿勢を落とし躱す。すり抜けてターンしたときには輪の中にいた。


「入り込みますの? 正気ですか?」

「よくもまあ……」

 ウィーゲンも絶句する。


 背中を見せる剣士(フェンサー)に背後から一射。その回転力のままに振り回したビームランチャーは中の砲撃手(ガンナー)に向いている。躱す暇もないうちにトリガーが落とされる。

 振り返った剣士(フェンサー)が左右から襲いかかる。しかし彼女は躊躇もなく一機に肩から当たりに行く。密接した状態で胸に一発。僚機が邪魔で斬り込めない剣士(フェンサー)にも撃破機と一緒に倒れ込みながら二射喰らわせた。


「エグい立ち回りしやがる」

「回避する隙間もないじゃない」

 ガヒートもバーネラも天を仰ぐ。

「まだ一つ」

「いや、チームメイトを信頼しているんだ」

「そうですわね」


 難を逃れた砲撃手(ガンナー)はどうにか輪から飛びでていた。倒れている二刀流(デュアルウエポン)を狙える位置にいるが自身も狙われる位置だ。フラワーダンスの砲撃手(ガンナー)双方からの狙撃をもらって撃墜(ノック)判定(ダウン)する。


「一瞬だったな」

「いやはや」

 皆言葉もない。


「もはや貫禄さえ感じさせる圧倒的勝利ー! チーム『フラワーダンス』、二回戦突破ー!」


 勝利宣告にアリーナが爆音を響かせた。


   ◇      ◇      ◇


「お見事」

 試合を終えて息を吐いたコマンダーにメリルは声掛けする。

「あなたは……」

「ごめんね。マナー違反だけど見させてもらったわ」

「いえ、特別なことをしているわけではないので」


 謙遜するが嘘だ。公務科一年生の少女の指は戦況パネルの上を踊り、正確にメンバーを勝利へと導いていた。ほとんどが彼女の手腕と思えるもの。


「気になりますか、メリル・トキシモ先輩?」

 名乗ってもいないのに言い当てられる。

「いつかは相手させてもらいたいもの」

「そうかもしれません。でも、当座の目標はツインブレイカーズなんでしょう?」

「ええ、彼から聞いた?」

 伝わっているとすればそこのラインしかない。

今の(・・)フラワーダンスをライバル視しているようでは二人には勝てませんよ? だって、私たちの最終目標がツインブレイカーズ撃破なんですから」

「あら、言われちゃったわ」

「そのおつもりで」


 きっぱりと告げられる。少女の顔は指揮官の表情をしていた。それも決戦に挑まんとするときのような。


(エレイン程度じゃ負けてしまうはずだわ)


 メリルは苦笑いしながら握手を求めた。

次回『チームワーク』 「であれば、彼らは確実に煮え湯を飲むことになるでしょう」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 スタンダードに強い!?
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