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すれ違うも縁(2)

(フラワーダンスか)

 白いアームドスキンは肩に天使のエンブレムを掲げている。


 クロスファイトに参戦してウィーゲンも有力チームをチェックしている。その中でもやはり同じ公務官(オフィサーズ)学校(スクール)の生徒は気になるもの。

 一番に挙がるのが今回の撃破目標である『ツインブレイカーズ』である。他に倒すべき標的の一つと目されるのが『フラワーダンス』となる。


(どちらも公務科の生徒だというのは皮肉かなにかか? 専門家であるはずの軍務科生徒が低迷しているのは情けないかぎりだ)


 確かにクロスファイトには癖がある。障害物(スティープル)を含めたリングという立地は、彼を含めメンバーがようやく慣れてきたところ。

 そこへ実験的アームドスキンという要素が加わる。様々な特性、編成、戦術のチームが入り乱れれば対処の幅を広く取る必要が出てくる。


(経験の浅い学生には荷が重い)


 最初からそういうものと捉え、先入観なく参戦した者のほうが馴染むのかもしれない。ただし、勝ち抜くとなると相応のパイロットスキルは必須となる。


(偶然で片づけるのは少々厳しい気もするが……)


「うーむ」

「どうした、ウィーゲン? 今日も問題なかったろ?」

「見ろ、ガヒート」

 ゲートに向かうチームを示す。

「妙に角張った機体、ん? ヘーゲルのエンブレムだと?」

「あれが『ホライズン』だ」

「すると、こいつらが公務科のお嬢ちゃんたちか」


 ガヒートもチーム『フラワーダンス』のことくらいは知っている様子だ。彼女らの躍進も耳に入っているだろう。


「なんつー滑らかな」

 彼も違いに気づく。

「前に調べたんだが、機体重量はヘヴィーファングと変わらない。この差はなんだ」

「マジかよ」

「無視できん」


 ホライズンの一群は彼らの前を通り過ぎる。視線を感じた気もするが実際はどうか。クラス的にはAAA(トリプルエース)とビギナーではあまりの格差がある。


「そっか、流星杯も始まってる。そっちの序盤戦かよ。なんか歯がゆいぜ」

 落差に舌打ちしている。

「気にしても仕方がない。それよりも、だ」

「ホライズンの性能か」


 気になるところは変わらない。彼らがこのままクロスファイトに身を置くならいつかは対戦する可能性の高い相手である。


「気になる?」

 チーム回線はメリルもモニタしている。

「どうにも」

「わたしも。観戦したほうがいいかもよ」

「そうですね」


 驚くほど静かに歩いて整列する姿は気にならないほうがおかしい。ヘヴィーファングをリフトトレーラーに乗せて降機しつつも眺めつづけていた。


「続いて(ノース)サイドからの登場はチーム『フラワーダンス』! 悠々突破の一回戦から間を置かずの試合になります!」

 それほど日を開けずの連戦らしい。

「今日はどんな試合を見せてくれるのか? 先陣を切るのはこの人、皆を率いる『二刀流(デュアルウエポン)』、生粋の『ショートレンジシューター』、ビビアン・ベラーネ選手ー! 乗機はもちろん赤いストライプのホライズーン!」


 チームメンバーのコールが続けられる。その度にアリーナが湧くのは彼女らがかなりの人気チームだという証明だろう。投票権(チケット)を買う者だけでなく、観戦専門のファンも相当数付いている様子だった。


「見るのかい?」

 彼のヘヴィーファングの整備士(メカニック)に問われる。

「ちょっと気になって」

「気持ちはわかる。同じスクール生だもんな」

「それにあのアームドスキンの動きに目が惹かれるんです」

 ポンポンと肩を叩かれる。

「いい目をしてるな。俺もあれを初めて見たときは鼻っ柱を殴られたような思いだった」

「兵器廠所属の方がですか?」

「ヘーゲルはとんでもないもんを投入してきたなってね。こいつはうかうかしてられないと思ったさ」


 彼らをして、そう言わせるのは耳を疑いたくなる。しかし、どこか余裕も感じさせた。


「最初はホライズンの性能ばかり目についたんだが、一戦こなしていくうちにみるみる乗り手まで進化していくじゃないか。どうなるもんかと心配になった」

 言葉は態度と裏腹である。

「それもここまでだ。君たちはヘヴィーファングをホライズンに対抗できる機体に育ててくれるんだろう?」

「努力はしますが」

「俺らは全力を尽くす。あともうちょっとだ。今は反重力端子(グラビノッツ)コントロールに慣れてくれ」

 意味深な台詞を残して固定作業に戻っていく。


 話しているうちに試合開始が迫る。観客のボルテージも最高潮に高まったところでゴングが打ち鳴らされた。


「おーっと、開始早々から速攻だー! 逃さないとばかりに襲いにいくぞー!」

 相手チームはペースを奪われない作戦を試みる。

「対するフラワーダンス、牽制砲撃を加えつつ受け止める! いつにない展開に心躍るのは私だけではないでしょう!」


 緑ストライプのホライズンが後退しつつ、青ストライプは大きく飛び退って障害物(スティープル)に取り付きながらビームランチャーを放った。出足を遅らせられながらも強引に攻め入る相手の前衛(トップ)。しかし、すでに変化は表れていた。


「ちっ、いやらしいくらい上手いじゃん」

 隣でガヒートが舌打ちする。

「もう術中だ」

「気づいてるんだかいないんだか」

「わかっていないな、自分たちが引き込まれていることに」


 ウィーゲンが見る俯瞰モニタでならフラワーダンスの動きが手に取るように見えていた。

次回『すれ違うも縁(3)』 「これが本物のショートレンジシューターか」

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[一言] 更新有り難うございます。 目が合ったらバトル!
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